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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

シロエの流儀 「歩きスマホ」

ついカッとなって書いた。

(※本作は今井大輔先生の漫画『クロエの流儀』をディスる趣旨のものではございません)

 夕刻を過ぎた駅のホームであった。

 そこで、違法入国中のアフリカ人、ヴァニメッサ・シロエは激怒した。

 自称大和撫子のフランス人女子高生が、公衆の面前で、無闇に他人を貶めて、悦に入っていたからだ。


 罵倒されたのは歩きスマホをしていた成人男性であった。外観はキモオタ風で、いかにもコミュ障といった風体だった。しかし、彼は本当に歩きスマホをしていた訳ではなかった。視線恐怖症を患っている彼は『スマホを見るふり』を装うことで、精神の安寧を図っていただけであった。

 視力6.0を誇るシロエの目は、男性が人一倍安全に配慮して歩行していることを、彼の微妙な視線の動きから把握していた。


 しかし、フランス人留学生は、それに気付いている様子は無かった。まあ、通常人であれば、気付かなくても仕方のないことだと言える。シロエの視力が異常なのだ。


 とはいえ、彼を罵倒するのはいかがなものか。

 フランス人は片言の日本語で「このクソタワケが」などと罵っている。

 男性は顔を赤らめ、冷や汗を垂らして、小刻みに小さく震えながら、じっと耐えている。

 周囲には小さな人だかりができていて、物珍しそうに二人を観察している。

 野次馬を賛同者とでも何か勘違いしたのだろうか? フランス人女子高生は、なにやら高揚した風に饒舌になった。そして、まるで勧善懲悪の時代劇のような論調で、熱く持論を展開したのだった。


 曰く「ワタシがソンケイするフルキヨキニホンブンカわー……」

 曰く「ソレにヒキカエ、アナタのようなサイキンのニポンダンジわー……」


 シロエは聞いていられなかった。なんだか、とても破廉恥なものを見せつけられた気分になったからである。

 駅のホームでの歩きスマホを注意するだけなら、いちいち持論を展開する必要は無い。罵倒する必要性は、更に乏しい。


 シロエには、それがフランス人のオナニーにしか見えなかった。

 それも、他人を巻き込んだ、嗜虐的性向の強い、傍迷惑なオナニーである。


(この近眼コーカソイドめ……許すマジ……。)


 そう思ったシロエは、下唇にハメた巨大な『ボンボエ』を取り外した。


 ボンボエとは、ケムチャッカ族に古くから伝わるアクセサリーである。15歳で成人の義を迎えるケムチャッカ族は、大人になった証として、下唇に穴をあけて、そこに象の頭蓋骨で出来た円盤をはめ込む。最初は1センチ程度の小さなものだが、1カ月ごとに大きなものに交換し、最終的には10センチ程度の大きさのものを装着する。そして、有事の際には、これを武器として戦うのだ。


 ケムチャッカ族のファイトスタイルは独創的だ。

 一言で言い表すならば、『口唇スリングショット』が適しているだろう。いわば、パチンコの要領で、ボンボエを射出し、攻撃するのである。


 シロエはダルンダルンに伸び切った下唇を引き伸ばし、張り詰めさせた。

 そこに、取り外したボンボエをあてがい、強く引っ張る。

 族長直伝、狩人の構えである。


「オーボロ、ホーホーホー!」


 鬨の声をあげ、シロエは突撃した。本来は、敵対部族と交戦する際の掛け声であるが、シロエの正義の中では、件のフランス人は敵に他ならなかった。


 突如奇声を上げて突進してくるアフリカ人に群集の注意が集まった。

 人だかりが割れて、シロエの瞳に、フランス人と日本人男性の姿が映った。

 フランス人は、『有色人種に対する最大限の汚言』を仏語で吐きつつ絶叫した。そして、あろうことか、先程罵倒していた男性を盾にした。


「ソイツ、ヒドイおんな! オニイサン、ドキナ」


 シロエは男性に言った。しかし、彼はそれに従おうとしなかった。

 むしろ、なにか偶然の好機に恵まれた時のような、晴れやかな顔をして、留学生を庇うような仕草をした。

 シロエは困惑した。


 そんなシロエを、男性はぶん殴った。


 まさか、攻撃されると思っていなかったシロエは、左の奥歯がきしむ音を聞きながら、後ろに倒れ込んだ。


「おおお、女の子は、ぼぼぼ、僕が守るゥ!」


 そう喚きながら、男はマウントポジションをとり、しこたまシロエの顔面を打ち据えた。

 攻撃は執拗で、いつまでも止まなかった。


 フランス人留学生は、背後から、

「OH……サムライスピリッツ。

 オンナには手をアゲず、アクトウには、タチムカウ……。

 見直した、やはり、オマエはニポンダンジ」

 などと、勝手なことを言っている。


 殴られっぱなしのシロエは、

 自身も、

 サムライに守られるべき、

 婦女子であることを、

 訴えようと思ったが、


 それより、


 少しだけ早く、


 意識を失ってしまった。


 ……。



    ○ ○ ○ ○ ○



 目覚めると、シロエは崩壊した駅のホームで横臥していた。

 身を起こすと、件の日本男児が、フランス人女子高生の死体をレイプしているところだった。


(くそ。また、やってしまったか)


 どうやら『センテンススプリング』が発動したらしい。

 シャーマンの血を引くシロエは、自身の生命に危険が及ぶと、ケムチャッカ信仰における最強の邪神を召喚し、無差別攻撃を仕掛けてしまうという悪癖があった。彼女は、自身の奇癖を、戒めの念を込めて『センテンススプリング』と呼んでいる。


 この日もまた、やらかしてしまったらしい。


(やれやれ……。)


 シロエは呆れながらも、ボンボエで男を背後から撲殺した。

 そして、死んでいるフランス人女子高生を、ケムチャッカの秘薬で蘇生させた。

 ついでに件の日本男児以外の死人や怪我人を治して回った。しかし、崩壊したホームはシロエには修復できなかった。なので、自衛隊が駆け付ける前に、彼女はスタコラサッサと逃げ帰った。


 シロエの行方は、誰も知らない。


『クロエの流儀』は面白い!

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