8話 勇者アリスと精霊の魔剣 『行きましょう!』
最弱勇者アリス。
彼女は、9歳程度の子どもであっても油断しなければ倒せるハズのスライムにすら負けてしまう。
その原因は彼女が魔力を扱えないことにある。
いや、魔力が扱えないと言えばカッコよすぎると思う。
あえて魔力を扱うのが人間離れした下手くそであると断言しておきたい。
アイツは少し持ち上げるだけで図に乗るから貶すぐらいでちょうど良い。
本題に戻ろう。
なぜ魔力を扱えないことがスライムに負けることに繋がるのかを説明する。
この世界の生物は魔力により体が強化されているんだ。
当然、モンスターも魔力によって体が強化されている。
だからモンスターは基本的な身体能力が人間を凌駕しているクセに、魔力で体を強化しているのでズルイ奴って言えるかもな。
更に厄介なことに、魔力を中和しなければダメージを与えることは出来ない。
このことから魔力というのは、肉体強化の道具であると同時に身を守る鎧でもあると言える。
そんな魔力の中和は、相応の魔力をぶつけることで可能だ。
逆に魔力を中和しなければモンスターにダメージを与えられない。
だから、アリスは魔力の扱いに関して神がかり的な不器用さを発揮するので、モンスターにダメージを与えることができない。
そんな絶望的なほど神に嫌われたとしか思えない魔力を扱う能力を補う希望の光が目の前に現れた。
希望の光とは『精霊の魔剣』だ。
「精霊の魔剣を手に入れる方法を聞かせてもらえるか」
「ええ構いませんよ。いずれお伝えしようと思っておりましたので」
オーウェルは意味深に言った。
これは何かありそうだ。
「お前にも利益がある……と、いうわけか」
「ええ、とても大きな利益になります」
なぜか悪寒がする。
凄く嫌な予感がしてならない。
「一応、聞かせてくれ」
「はい、精霊の魔剣を手に入れるのは難しくありません」
この先を聞いてはいけない。
俺の勘がそう告げている。
「アレクストレイ様の弟君、レイモンド様がお持ちです」
「他の方法を頼む」
俺は即座に別の案を求めた。
「残念ながら、アレクストレイ様のご実家以外については情報がございません」
「なら、別の情報があったら……」
「行きましょう!」
「!!」
俺がオーウェルと話していると、後ろから声がした。
物凄く嫌な予感がして後ろを振り返ると……居やがった。
「精霊の魔剣が欲しいです」
「諦めろ」
アホの娘、アリスは鼻息荒く何かをほざいている。
「では馬車を用意させて頂きます」
「ちょっ……」
「お願いします!」
オーウェルは何も言わず去って行った。
あいつ、全部仕組んでやがったな。
アリスが帰ってきたのも、人を使って何かをしたんだろう。
そして、この状況を上手く切り抜けても次の手が待っていたハズだ。
俺は失念していた。
オーウェルは、そう言うヤツだっていうことを。
俺が感じた嫌な予感の正体。
それは、アイツの話を聞いたら、この抜け出せない状況にハマるという前兆だったのだろう。
だが最後の希望にすがるようアリスに尋ねてみた。
「諦める気はないのか?」
「毛頭ありません!」
精霊の魔剣を手にしなければ、ずっと文句を言い続けることだろう。
こうして俺は実家へと帰ることになった。