6話 勇者アリスとダンジョン 『却下』
俺達は、ある街の食堂にいる。
これは平穏な日常の1コマのハズだった──アリスのアホ発言があるまでは。
「ダンジョンに挑戦しましょう!」
「却下」
最弱勇者アリスが、アホなことを言い出した。
「何でですか!」
「最弱の勇者だから」
「関係ありません」
「関係ありすぎるだろ!!」
スライムにすら負けるのにダンジョンに挑戦とは──アホが悪化したか?
「命に関わるぞ」
「大丈夫です! 運は良い方ですから」
「運任せの時点でダメだろ」
「大丈夫ですよ。いざとなったらアレクさんのエスケープがありますし」
確かに俺のエスケープがあればダンジョンからも脱出可能だ。だが──。
「死んだら生き返らないんだぞ」
「わ、わかっていますよ!」
「目が泳いでいるんだが……」
「アレクさんが怖いことを言うからです」
アリスが駄々(だだ)をこね始めたら凄く面倒くさい。
まあ、ダンジョンの入口付近に行けば満足するだろう。
「しかたない……ダンジョンの入り口まで行ったら帰ろう」
「攻略しましょう!」
「アリス……」
俺はアリスのアホが悪化したのだと悟った。
「な、なんで可哀想な物を見る目で私を見るんですか」
「いや、なんでもない」
「気になりますよ!」
アホな娘だったアリス。
彼女は、とんでもないアホになってしまったのだろう。
「準備を整えたら行こうか」
「本当ですか! って、なんで悲しそうな目で見ているんですか」
「いいんだ……」
「何が『いいんだ……』ですか!」
アホが悪化しようとアリスであることに変わりはない。
彼女がアホ過ぎても生き残れるように最善を尽くすと心に決めた。
「ダンジョンに行くのなら準備をしないとな」
「急に優しくしないでください!」
俺はアホが悪化したアリスをサポートすべく行動を開始した。