5話 勇者アリスは強敵を倒した 『凄いよな』
~草原にて~
草原の真ん中に俺とアリスはいた。
アリスは満面の笑みで大喜びしている。
俺は精霊の姿でフワフワ浮いていた。
「ついに、ついにやりました!」
「……凄いな」
アリスは異常なテンションで喜んでいる。
俺は、喜ぶアリスを見てドン引きしていた。
「テンションが低いですよ。でも良いです! 私は偉業を成し遂げたのですから」
「……そうだな」
俺はアリスから視線をずらし草の上に広がった水たまりを見た。
「……凄いよな(それだけ盛り上がれるお前が)」
「はい! 私は凄いんです」
俺は思わずため息が出そうになったが我慢した。
アリスにとっては偉業だから水を差すことはないだろう。
「スライム討伐おめでとう」
「はい! ついに強敵を倒しましたよ」
アリスはスライムを倒した。
草原で偶然見つけた水分不足で弱り切っていたスライムだが──。
俺が先程見た水たまりがスライムのなれの果てだ。
スライムは体の大半が水分だ。
だから倒されると体を維持できなくなり水溜りのようになる。
「じゃあ、魔核石を取り出して街に戻ろうか」
「もう少し余韻に浸らせて下さい!」
「それなら魔核石を取り出してから余韻に浸ればいいだろ」
「まあ、そうですよね」
アリスは、あごに人差し指を当て答えた。
「じゃあ、初魔核石を拾ってきます」
「ああ」
アリスは倒され水溜りとなったスライムの元へと駆けて行った。
俺は浮かれるアリスの背中を見て涙が出そうになったのは仕方ないことだろう。
………
……
…
「ふっふふ~ん♪」
「ご機嫌だな」
「もちろんですよ!」
アリスは変な鼻歌で気分を表している。
なんというか、能天気だ。
「なあアリス」
「はい?」
「スライムの魔核石は記念にとっておいたらどうだろう」
「えっ 換金しないんですか!」
アリスは物凄く驚いている。
初魔核石ということもあり初換金も行いたかったのだろう。
魔核石というのは魔物の核と言える部分だ。
そして冒険者ギルドなどで換金ができる。
本心を言えばスライムの魔核石を換金しようが大した金にならない。
だから、換金するよりも手元に置いておいた方が良いだろうと判断したのだが。
「初心を忘れないためだ」
「まあ、そういうことでしたら……」
危険に身を置く者での死因は大概が油断だ。
己の力量を見誤ってバカな挑戦をして死ぬ。
「……命をかけるべき場所を間違えるなってんだよ」
「どうしたんですか?」
俺は昔の知り合いを思い出していた。
馬鹿をして死んだ大馬鹿野郎のことを……。
「なんでもない」
「?そうですか」
アリスは不思議そうな顔をして俺を見ている。
「帰って食事にしよう」
「はい! あの……デザートは……」
「2つまでOKだ」
「本当ですか!」
アリスはスライムを倒したときとは違う笑顔を見せている。
単純なヤツ……だが悪くはないな。
アリスがはしゃいでいる間に夕暮れになっていた。
夕焼けは寂しさを感じさせる物だがアリスが賑やかくて情緒にふける余裕もない。
それも……悪くはないか。
俺達は宿をとっている村へと帰った。
と、まあ俺達がどんな奴かは、ここまでで分かってもらえたと思う。
これは『最弱の勇者』と『力を失った勇者』の物語だ。
最底辺の2人が頑張っていくというわけだ。