3話 勇者アリスの仕事 『これで終了です』
~某村にて~
「至宝よ我の力によりて、その輝きを取り戻せ」
アリスは青い光をうっすらと発する大きな至宝の前に立っている。
そして彼女が口にしているのは至宝の力を取り戻す呪文──らしい。
ぶっちゃけ勇者が触れるだけで至宝は力を取り戻す。
だから呪文など本来は必要ない。
しかしアリスは──
『こういうのは気分が大切なんです!』
『仕事ですから心をこめてやらないといけないんですよ!』
などとほざいていたが、本心は分かっている。
本心は『自分がこなせる数少ない仕事だから勇者っぽいことをしたい』だ。
アリスがこなせる仕事は他の勇者に比べて恐ろしいくらいに少ない。
アリスは『最弱の勇者』と呼ばれている。
だから勇者として最も輝くモンスター退治は不可能。
さらに『最弱の勇者』に命を預けたがる奴などもいない。
よって仲間も俺一人だけだ(俺は戦力にならんが)
最弱で仲間もロクにいない。
そんな勇者に来る仕事など無いハズだが──アリスには一部の仕事は名指しで来る。
「これで終了です」
「おお、アリスちゃんお疲れ様」
「いえ、いえ。勇者だから当然ですよ」
「そうかい。アリスちゃんは偉いね~」
「いえ、いえ。もっと褒めて下さい」
アリスは人気がある。
だが勇者としての人気というよりもマスコット的な人気だ。
~村の中~
村を歩けば多くの人に声をかけられる。
「アリスちゃん、お疲れ様」
「ありがとうございます」
「アリスちゃん、元気だったか?」
「ええ。いつも元気ですよ」
「アリスちゃんみたいな娘が、息子の嫁になってくれたら良いんじゃがな~」
「も~ おじいちゃんたら」
外を歩けば、このように好意的な声をかけてくれる人間も多い。
だが俺にとっては困ったことがある。
「アリスちゃん……あの人は?」
「アレクさんです」
「へ~アレクさん(冷たい目)」
「アリスちゃん、アイツは誰だい?」
「アレクさんと言って、一緒に旅をしています」
「兄ちゃん、少し顔を貸してくれないか(怖い笑顔)」
「あの人はアリスちゃんの良い人かい?」
「おじいちゃん。そんなんじゃないですよ~」
「フォッフォッフォ、そうかい(目は笑っていない)」
アリスに好意的な人間というのは、俺に敵意を持つ人間が多い。
完全なアウェー感があり、宿屋では精霊の姿で隠れて眠るようにしている。
人の姿で眠ったら夜襲をかけられかねない。
「アレクさん、寝不足ですか?」
「まあな」
「寝不足は、お肌に悪いんですよ」
「そうだな」
俺は寝不足で疲れ(主に精神的)がとれずグッタリシタ状態で歩いている。
「風邪じゃあ、ないみたいですね」
「それは大丈夫だと思う」
「そうですか?」
アリスは俺の額に手を当てた。
すると周囲から殺気のような物を無数に感じた。
──やばい
────殺られる。
「アリス、少し早いけど出発しよう」
「えっ もう少し村に……」
「折角、報酬を貰ったんだ。街に行って甘い物でも食べたらどうだ?」
「いいんですか!」
今日は至宝の力を取り戻すという仕事のおかげで報酬が入った。
せっかくだからアリスも甘い物を食べたいだろう。
俺とアリスは村から出発した──俺の命がある内に出発できて良かった。