2話 勇者アリスの戦い 『精霊だ』
~草原にて~
アリスは剣を構えて呟いた。
「まさか、こんな強敵に出会うとは……」
アリスは強大な敵と戦っていた。
その敵は全身が液体で半透明な体を持ったモンスター。
捉えた獲物は液体の体に取り込み時間をかけて養分とする。
「アリス……」
俺は悲しくなった。
アリスの力量は知っているつもりだった。
しかし、このモンスターにココまで苦戦するとは。
アリスが戦っているモンスターは『スライム』だ。
普通のスライムは決して強いモンスターではない。
むしろ最弱に分類されるモンスターだ。
だから……『最弱のモンスター』>『最弱の勇者』
このような図式が成立してしまう。
「無能なアレクさんは黙っていて下さい!」
「無能は酷いだろ!」
アリスは八つ当たりをしてきた。
だが今の俺が無力なのは間違いではない。何故なら──。
「人魂なら適当に漂っていて下さい!」
「人魂じゃない! 精霊だ」
俺は人魂──もとい精霊の姿になっている。
クリーム色の球体に青い火が着いているような見た目だ。
決して人魂ではない。
勇者としての力を失った俺は自分の存在すら維持できなくなってしまった。
そして消えかけていた時、アリスに出会い助けられた。
「どう見ても人魂……キャッ」
「よそ見をするから」
こうしてアリスは最弱のスライムに負けた。
美少女×スライム×敗北
このシチュエーションで起こるお約束は起こらない。
何故なら──。
「ギブアップか?」
「うぅ……ギブアップです」
「エスケープ」
アリスのHPというべき物が一定以下になり負けを認める。
その他いくつかの条件を満たせば遠くに移動できるからだ。
それが俺の使える、現状唯一の精霊としての能力だ。
………
……
…
~某村、某宿の食堂にて~
「アレクさんが話しかけるから悪いんです!」
「いくらなんでも、普通はスライムにあそこまで苦戦しないだろ」
「グッ……ちょ、調子が悪かっただけです!」
俺とアリスは近くの村に帰還していた。
本当は帰還というよりも逃げ帰ったという表現の方が正しいのだが。
「アレクさんの無能ぶりが悪いと思います」
「無能って言うな……それにドヤ顔はやめろ」
アリスは完全に開き直っている。
俺に責任転嫁してドヤ顔になっているのがムカつく。
ちなみに今の俺は人間の姿だ。
村や街なんかは結界が張られている。
俺は安全が確保された場所でなら一定時間なら人間の姿でいられる。
「アリス……」
「なんです?無能なアレクさん」
──コイツ
「ここの名物って知っているか?」
「えっ 名物なんてあるんですか」
アリスは目を思いっきり輝かせて身を乗り出した。
「ああ、この『鶏もも肉の赤色揚げ』だ」
「なんか辛そうですね」
アリスは辛い物が嫌いだ。
だが甘い物は大好物だ。
「そうだな。だが特別な調合をしたスパイスで甘さを感じるように作られている」
「えっ 甘いんですか……あの……」
アリスは上目使いで俺を見る。
何を言いたいのかは分かる。
「食べてもいいぞ」
「本当ですか!」
「アリスは頑張ったからな」
「ありがとうございます」
アリスは心の底から嬉しそうに礼を言った。
本当に鶏もも肉の赤色揚げは『特別な調合をしたスパイスで甘さすら感じる』。
辛すぎて舌の感覚がおかしくなり甘く感じるだけだが。
アリスは鶏もも肉の赤色揚げを注文した。
そして料理が運ばれてくるとさっそく食べようとする。
そのタイミングに合わせて俺は──。
「沢山の量を口に放り込むっていう食べ方があるぞ」
絶対にやってはいけない食べ方をアドバイスしてあげた。
その後、少女の悲鳴が食堂に響き渡ったのは言うまでもないことだろう。