10話 勇者アリスと貴族の屋敷 『……そうでしたっけ?』
俺とアリスは大きな門の前に立っていた。
その門は金属の棒を組んで作られている。
牢屋なんかの鉄格子をイメージしてくれれば良いだろう。
鉄格子のようになっているため隙間から屋敷が見える。
最弱の勇者であるアリスには貴族からの依頼など無い。
このため貴族の屋敷とは無縁だったせいか彼女は少し興奮気味だ。
「大きなお屋敷ですね~」
「……そうだな」
ここが俺の実家だ。
できるかぎり屋敷に帰りたくはなかったので気が重い。
「アレクさんって、お坊ちゃんだったんですね~」
「……そうだな」
俺は長男だったため、本来は貴族として家名を継ぐはずだった。
しかし、勇者の素質を持っているうえ、剣の腕もあったので国の命を受けて旅に出た。
最終的には魔王と戦い命を落としたのだが半分だけ精霊となり生きながらえている。
「……話、聞いています?」
「お前が拾い食いをして腹を壊したっていう話だったよな」
ハッキリ言って、実家に帰るのは気が思い。
だから気分を切り替えるためにもアリスをからかってみた。
「そんなこと! ……時々しかしませんよ」
拾い食いをしていたのか、コイツ。
時々、顔色が悪かったのは拾い食いのせいかもしれない。
コイツが静かだと快適に過ごせるから、今後も止める気はないが。
「ところで、なんで変なお面を付けているんですか?」
「お面ではなく仮面だ。それに馬車の中で説明をしただろ」
「……そうでしたっけ?」
コイツ……まあ、いい。
馬車によってリバースしまくっていたからな。
消耗して普段以上に頭が働かなくなっていたのだろう。
「顔を見られるとマズイんだよ」
「どう、マズイのですか?」
「それはな……、後で話す」
俺がアリスに仮面をつている理由を離そうとすると1人のメイドがやってきた。
仮面を付けている理由をアリスに伝えるのは後回しにせざるえない。
いや、コイツの頭では仮面の話など覚えているハズがないだろうから、仮面について話すことは一生ないだろう。
このあと俺達は客間へと案内される。
精霊の魔剣についてアリスに話した商人のオーウェル。
彼が根回しをしていたため屋敷の主人との面会はすんなりと進んだ。
屋敷の主人といっても弟なのだが……
仮面を付けていた理由。
長男で勇者としての名声もある。さらに剣神とも呼ばれた剣の腕を持っていたアレク。
彼の生存が確認されれば現在、家名を継いだ弟の立場が悪くなる。
このため自身の生存を誰かに知られるのは、なるべく避けたかった。