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劉禅戦記  作者: Ravenclaw
第4章 張飛
17/21

第59回 17-1  

 翌朝、劉禅たちは、黄権と張苞に案内されて、寧強の陣地を見て回ることになった。

 張苞は張飛の子で、劉備本軍の部隊長をしている。

 まだ若い武将である。

 劉禅たちは最前線まで出ることを禁じられたので、小高い丘に登ることにした。そこからなら両軍の配置を見ることができる。

 魏軍と劉備軍は玉帯河を挟んで対峙している。

 劉備軍は一万。まもなく増援軍が到着し、一万五千となる。劉封が率いる二千も明日到着する。

 成都からは、さらに第二陣の増援軍も来るらしい。ただし到着にはまだニ、三か月かかる。

 魏軍は現在のところ一万あまり。だが、次第に増えつつある。率いるのは魏の強将、張郃である。

 劉備軍が来る前は、張飛、馬超、黄権の二千五百で、魏軍の五千と向かい合っていた。

 劉備が到着したのが四、五日前で、そのあとすぐに張郃軍も姿を現した。

 いずれの軍も山道を動いているので一挙に全軍到着というわけにはいかない。川の水嵩がしだい増すように、両軍は静かに膨れ上がりつつある。

 最終的には、魏軍の兵力が蜀軍をかなり上回ることになるだろうが、それでもかまわないのだと黄権が説明した。それどころか、それが劉備軍の狙いだという。

 魏軍の最強の兵種は騎馬兵だが、山間地では使えないため、漢中には出動してきておらず、また大兵力を投入する場所がないため、少人数の山岳戦とならざるをえない。

 山岳戦となれば、蜀軍に一日の長がある。

 いくら魏軍が精強だといっても、この地ではその力を十分発揮できないので、少々の兵力差はカバーできるのだという。

 その山岳戦のスペシャリストである黄忠は、陽平関から定軍山に向かって、魏延や呉懿・呉班らとともに、じわじわと夏侯淵を押し込んでいた。

 劉備が寧強に移動してきたのは、魏軍を陽平関方面から引き剥がし、黄忠の進撃をさらに容易にしようという狙いである。だから、こちらの敵が増えれば増えるほどいい。

 あわよくば、寧強でも魏軍を打ち破ってしまおうという狙いもある。そうなれば、寧強ルートと陽平関ルートの二方向から漢中をめざすことができる。

 だが、張郃がこちらに出向いてきたとなると、そううまくはいかないだろう。

 劉備の考えでは、漢中の総大将である夏侯淵よりも、張郃の方がしぶとくて難敵であるという。

 このため、魏軍の一部をここに足止めしておくだけで十分だ。相手が仕掛けてくれば別だが、ここで大規模な戦を起こすつもりはない。

 黄忠・魏延軍が定軍山に近づくにしたがい、張郃軍もいずれ漢中に引かざるをえなくなる。その様子をうかがって、劉備は、ふたたび陽平関に戻る計画だという。

 あるいは、相手に隙ができれば、やはりここから討って出るかもしれない。それはそのときの状況次第だ。

 昨晩、劉禅たちが幕舎を出た後の会議で、居並ぶ武将たちを前に、法正はそうやってこれからの戦略を説明した。丘に登りながら、黄権がその話をしてくれた。

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