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劉禅戦記  作者: Ravenclaw
第1章 劉禅
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 劉禅という名前をご存じだろうか。

 三国志のファンならおなじみである。

 劉備の息子である。

 ただの息子ではない。

 蜀が滅亡した時の当主である。

 父劉備が義兄弟関羽と張飛、稀代の戦略家諸葛孔明とともに建国したあの蜀漢帝国の第二代目にして、最後の皇帝である。

 劉禅が三国志ファンの記憶にとどめられるのは、以下の三つの場面によってである。

 一つ目は、劉備が劉表の治める荊州に寄寓していたとき、曹操の侵攻を受けて住民とともに逃亡する際の長坂坡の戦い。大混乱の中で、劉禅を抱いた甘夫人を、趙雲が単騎突入して救い出す場面。趙雲ここ一番の名場面である。

 二つ目は出師表。

 諸葛亮が魏討伐に出陣する場面。

 すでに劉備はなく、当主は劉禅。

 孔明の決意と蜀への思いを表すその文章は、名文中の名文といわれている。

 三つめは、蜀滅亡のあと、洛陽に移されて数年後、司馬昭の宴会に招かれた場面。

 始終ニコニコして上機嫌で、「ここが楽しくて蜀を思い出すことはありません」と言って旧来の臣下を嘆かせ、魏の人々もこれでは蜀が滅んだのも当然と呆れるばかりだったという。

 こんな風だから三国志ファン――多くは蜀のファンだろう――の劉禅への評価はきわだって低く、コーエーの最新版ゲーム、三国志12のパラメーターは、統率3武力5知力9政治4となっている(それぞれ100が最高値。3594はもちろん三国志からである)。

 中国でもその不人気は徹底していて、劉禅の幼名である「阿斗」といえば、どうしようもない人間や愚か者のことを指すという。

 この男がもう少しましだったら、劉備が亡くなった後の蜀ももうすこしどうにかなったのではないかと当然誰しも思うところである。

 もうちょっと為政者としての能力があれば、孔明にあれほど重責を負わせずにすみ、過労で死なせてしまうようなことはなかったのではないか。

 もう少し将軍としての才能があれば、姜維にのみ頼らずとも蜀を運営できたのではないか。

 そういう読者の思いが劉禅に集中して、劉禅もちょっと気の毒なようなところがあるが、やはり凡庸な男だったのだろう。そういう男では、あのような時代は生き延びることはできなかった――いやかれ自身は生き延びてしまうのだが、国を延命させることはできなかったのだろう。

 かれに対する悪罵や嘆きや嘲りや、ああいった低評価は至極当然といわなければならない。

 ところで、そういうわたしは何者かというと、三十代後半の普通のサラリーマンである。

 ビルメンテナンス会社の営業課長をしている。

 それほど大きな会社ではなく、一部上場もしていないが、一応業界では名を知られている。

 三国志のファンである。

 といっても、マニアックに、三国志のことならなんでも知っているというわけではなく、代表的作品はひととおり読んでいて、ゲームもそこそこやったことがあるというぐらいのレベルである。

 吉川英治の「三国志」で目覚めて、陳舜臣の「秘本三国志」で曹操の魅力を教えられ、北方謙三の「三国志」に至ったというケース。関羽の死はこの本がいちばん美しいと思う。

 もちろん「蒼天航路」は愛読書の一つ。それまで十把ひとからげだった郭嘉、荀攸、程昱といった軍師たちや、夏候惇、夏侯淵など、曹操軍のキャラの違いに関心を持つようになった。

 ゲームはコーエーの三国志シリーズをかなりやったが、さすがに飽きてきたので最近はやっていない。

 「三国志演義」は、むかし岩波文庫で読んだことがあるが、たしか最後までいかなかったと思う。それほど面白いとは思わなかった。やっぱり、日本の作家が書いたものの方が面白い。

 宮城谷昌光の「三国志」はまだ読んでいないので、これから読むつもり。

 だいたいこれぐらいがわたしの三国志履歴だ。

 ファンとしてはそこそこ標準かな。

 そうそう、横山光輝の「三国志」は読んでいない。その前に吉川英治本を読んでしまったので、読む機会がなかった。そこが普通のファンに劣るところ。

 もちろんマニアの方には負けますが。

 これからお話しするのは、そういう標準的な三国志ファンであるわたしに、突然降りかかったできごとについてである。 

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