黄金の閃光
馬を走らせるクリスはやがて賊の出現が報告されていた地点にたどり着いた。
探す必要もなかった。賊達は山のふもとのその開けた場所で我が物顔で思い思いに野営をしていた。
クリスは馬を降りてその一団に近づいていった。
「この場所を荒らしている賊とはあなた方のことですね?」
「なんだ、お前は?」
荒くれ男どもが怪訝そうな目を向ける。大勢の視線を前に、クリスは全く動じることもなく恭しく一礼をした。
「お初にお目にかかります。王国より参りましたクリスと申します。国王陛下の命によりこれよりあなた方のお相手を務めさせていただきます。どうぞお見知りおきください」
「ああ、これはどうも」
場違いなまでの少女の丁寧な挨拶に周囲が少しざわざわとなる。だが、呑気に構えていられるのも今のうちだけだった。
「愚か者どもには罰を。では、行きますわよ」
クリスが手に持った長い棒状の物の包を解く。そして、黄金の閃光が駆け抜けた。
少女が一瞬にして走った直線上にいた男達が声も立てずに倒れていく。周囲のざわめきがどよめきへと変わっていった。
「何だ今のは?」
「そう言えば聞いたことがある。あの国にはとんでもなく強いお姫様がいるってよ」
「まさか、お前がそうなのか」
警戒する男達の声を、髪をかきあげ黄金の槍を手にしたクリスは軽く鼻で笑い飛ばした。
「フッ、あのような者と一緒にしないでください。わたしの品位が汚れますわ」
「では、お前はいったい・・・・・・」
「わたしはクリス。この名を胸に刻んで・・・・・・逝きなさい」
少女の冷酷な視線が男達を見る。そして、黄金の閃光が再び駆け抜けていった。
戦いの喧騒はクリスを追って馬を飛ばしていたセリカの耳にも届いていた。
賊との戦いには間に合わなかった。だが、賊などは自分とクリスどちらが相手をしても倒せる相手だ。重要なのはクリスと優劣をつけること。
自分を前に勝ち誇る少女の姿を胸に描き、セリカは戦場へと急いでいった。
賊達に戦いを挑んだクリスは瞬く間にそのほとんど全てを打ち倒していってしまった。
「後は一人。噂に高い賊と言ってもこの程度ですか。肩透かしでしたわね」
腰を抜かし怯えて後ずさる最後の一人を楽しむように追い詰めていく。
「まあ、期待外れとは言っても手柄は手柄。今度もわたしはノーダメージ。みんなを納得させる功績としては十分でしょう。では、ピリオドを打たせていただきますわ」
「ひええ、助けて兄貴~」
「兄貴?」
クリスが怪訝に思った時だった。不意に彼女の頭上を黒い影が覆った。
降ってくる馬の足を、クリスは素早く横に跳んで地面を転がって避けた。起き上がる彼女の顔が屈辱の表情に歪む。
「このわたしに土を付けるとは・・・・・・誰です!?」
「いい気になるのもそこまでだ、クリス!」
凛とした少女の声が大気を震わせる。その声を発した少女は馬から飛び降りて大地に立った。
「あなたですか、セリカー! わたしの完全勝利によくもこのような汚点を!」
クリスは自分の白い服についた土をはたく。だが、それは到底それだけで綺麗になるようなものではなかった。
普段の礼儀正しさをかなぐり捨て、クリスは怒りに身を震わせて目の前に立つ少女を睨みつけた。
「これほどのことをして・・・・・・ただで帰れるとは思うなよ!!」
怒りに燃えるクリスに、セリカは負けじと言い返す。
「綺麗に着飾っていてもそれがお前の本性だ! どちらの実力が上か。今日こそお前の体に叩き込んでやる!」
そして、黒塗りの剣を抜いて構えた。クリスは黄金の槍を向ける。
「フッ、返り討ちにしてさしあげますわ。この地面に這いつくばり、猿のように惨めに鳴くがいい!!」
「這いつくばるのはお前の方だ!!」
二人の足が大地を蹴る。黄金の閃光と黒の刃の軌跡が火花を散らす。そして、少女達の戦いが始まった。




