食事の時間
夜。クリスは国王と夜食をともにしていた。そのテーブルの席にセリカの姿はなかった。
おいしい料理を口にしながらもクリスの表情は晴れなかった。
「お父様、セリカにこの国をまとめることは無理なのでしょうか」
「分からん。それはあいつ次第じゃ。じゃが、わしは何も心配はしとらんよ」
「と言うと?」
「この国はお前がまとめればいい」
「え・・・・・・?」
クリスは思わず耳を疑ってしまった。そして、立ち上がってしまった。
「それは駄目です! この国はセリカがまとめるべきです!」
「なぜ駄目なのじゃ?」
国王の瞳は真剣だ。クリスは迷いながらも答えた。
「だって、わたしはこの国ではよそ者なんです! そんなわたしが支配者になるなんて、国のみんなも良く思わないと思います!」
「お前はもうわしの子じゃ。国のみんなもお前のことは好いておるぞ」
「そんな・・・・・・わたしはセリカを陥れるために養子になったわけじゃ・・・・・・」
「まあ、そう気にするな。わしはまだあいつを見捨てたわけではない。お前もこれからもセリカのことを支えてやってくれ」
「はい、それはもちろんです」
「さあ、早く食べなさい。食べ終わったら食事をセリカに持っていってやりなさい」
「はい」
クリスは席に戻る。そして、食事の箸を進めていった。
セリカは部屋のベッドで寝転んでふてくされていた。
「みんな何も分かっていない。戦いを知って強くならなくちゃ何も出来はしないのに」
前の賊との戦いを思い出す。そして、さきほどのクリスと睨みあったことを思い出す。
「もう少しで久しぶりにクリスと戦えたのに」
そんなことを思っていると、部屋のドアをノックする音がした。
「どうぞ~」
セリカは適当な返事を返す。扉が開かれる。
「さきほどまで荒ぶっていた人が、随分とおとなしくしていますのね」
入ってきたのはクリスだった。手に食事を乗せたお盆を持って優しい微笑みを向けてくる。セリカはその微笑みに居心地の悪さを感じながら起き上がった。
「クリス、何しに来たのよ」
「お父様に言われて食事を届けに来たのよ」
「お父様が?」
「ええ」
クリスはベッドの横の机に食事を置いて、椅子を引いて腰かけた。
「みんなあなたを心配してますのよ。さあ、早くお食べなさいな。空腹で元気のないあなたなんて猿以上に見れたものではありませんわよ」
「どうしてわたしに優しくするのよ・・・・・・」
その言葉にセリカは肩を震わせてうつむいた。
「セリカ・・・・・・?」
クリスが心配になって手を伸ばそうとすると、セリカは顔を上げて叫んだ。
「クリスにまで優しくされたら、わたしはいったい誰と戦えばいいのよー!」
「セリカ、落ち着きなさい」
クリスは何とかなだめようとするが、セリカの勢いは止まらなかった。
「わたしは強くなる。絶対に誰にも負けないほどに強くなる! そのためにまずお前に勝つんだー!」
セリカはクリスに飛びかかっていった。クリスは避けることも出来ずにそのまま床に押し倒された。
「わたしと戦ってよ、クリス! いつまでもこんなドレスなんて着て!」
セリカは力任せにクリスの着ているドレスを掴むが、悲しそうに見上げる彼女の瞳を見てその手を緩めてしまった。セリカは戸惑いを隠せなかった。
「どうしてそんな目でわたしを見るのよ。クリスは誰よりも強くて憎たらしいわたしの敵だったじゃない!」
「セリカの・・・・・・」
クリスの瞳が震える。その手と足がセリカの体を跳ね上げる。
「セリカの馬鹿ーーー!!」
クリスは勢いよく立ち上がるとそのまま部屋を飛び出していった。
セリカは呆然とそれを見送っていた。
「クリス・・・・・・」
セリカは見ていた。クリスの瞳から涙がこぼれていたのを。
「わたしが泣かせたというの・・・・・・?」
そして、胸に空虚な想いを感じていた。




