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国の外れの賊退治  作者: けろよん
城の中でのすれ違い

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11/16

セリカの不満

 祭りが終わって数日が過ぎ、国には元の落ち着いた日常が戻ってきていた。

 だが、セリカにとってはまだ終わっていないことがあった。

 それはあの賊との戦いに敗北したということだ。奴らの目的はまだはっきりとはしていなかったが、そんなことはたいした問題ではない。相手が何を企んでいようが叩きのめせばそれで済むことだからだ。

 セリカにとって問題だったのは勝てなかったというただその事実だけだった。

 今、城の中庭でセリカは軽い鎧を身にまとい不機嫌を露わにした顔をして剣の素振りをしていた。

 彼女が不機嫌なのには理由があった。幼い頃から気に食わないながらもライバルとして力だけは認めていたクリスがあまり戦いに乗り気ではなかったからだ。

 国王の養子となり同じ王女という立場になったのならもっと身近な存在になれるかと思っていた。だが、そんなセリカの思いとは裏腹に最近のクリスは教育係について勉強をしていることが多くなっていた。

「どういうつもりなのかしら。いくら勉強してもこの前のような奴らが攻めてきたらどうしようもないのに」

 前の賊との戦いを忘れられない。もう二度とあのような敗北などしないように自分達は強くならなければいけないのに。

 そんなことを考えていると背後から声がかけられた。

「お猿さんが棒切れを持って何を考えていらっしゃるのかしら。あら、失礼。お猿さんが振り回しているそれは立派な剣でしたわね」

 セリカは振り返る。中庭の横に伸びる渡り廊下の日陰から声をかけてきたのはクリスだった。今は戦っていた頃に見慣れた白い軽い洋服ではなく王族らしく重そうなドレスを着ていた。

 お洒落で気立ての良いクリスは黙って立っていれば本当にお姫様が板について見える。だが、セリカが彼女に求める役割はそんな見栄えのいいお飾りのお姫様などではなかった。

「クリス、勉強が終わったならわたしの剣の相手をしてよ」

 セリカは相手の軽い嫌味を聞き流す。それはクリスにとっては挨拶のようなものだ。セリカは代わりに自分の要望を突きつける。その要望をクリスは断った。

「嫌よ。だって今日はとてもいい天気なんですもの」

「いい天気だからこそ、気分良くわたしと戦って欲しいんだけど」

「日焼けするではありませんか。それにお猿さんとたわむれて服が汚れても困ります」

「汚れてもいい服に着替えればいいじゃない」

「わたしの着るものに汚れてもいいなどというものはありませんわ」

 のらりくらりとしたクリスの返答にセリカは次第にいらついてきた。以前までのクリスなら嫌味ではあっても真っ直ぐに芯を貫いた態度で自分に挑みかかってきていた。こんな遠まわしにはぐらかすような物言いは彼女らしくなかった。

 セリカの不満はすぐに爆発した。

「どういうつもりなのよ、クリス! わたし達は負けてるのよ! いっぱい修業して強くならなくちゃいけないのよ!」

「あなたこそ、どういうつもりなんですの?」

 セリカの怒りの言葉にクリスは強い眼差しを向けてきた。それはセリカのよく知るクリスの相手を威圧する目だった。油断していたセリカは思わずその目に飲まれかけるが、クリスはすぐにその表情を緩めてしまった。

「戦いなど騎士団の仕事でしょう。お姫様はお姫様らしく他にやることがあるのではなくて?」

 その言葉をセリカは一笑に伏した。

「あなたの口からそんな笑い話が出るとは思わなかったわ。あいつらが役に立たないからわたし達が戦わないといけないんじゃない。クリスだってそのことはよく知っているはずよ!」

 この国の騎士団は弱い。姫である自分よりも。悔しいことだが、自分より強いクリスから見ればそれはなおさらのこと分かるはずなのに。

 クリスは戦おうとする素振りを見せない。ただ優雅で少し憎たらしいお姫様の態度で話しかけてくる。

「あなたは本当にただのお猿さんに成り下がるつもりなんですの? あなたがそんな調子ではいずれこの国はわたしの物になりますわよ。あなたにとってもこの国の民達にとってもそれは面白いことではないはずでしょう?」

「わたしはただクリスと一緒に戦って強くなってこの国を守りたいだけなのよ!」

 セリカの意思の強い瞳に今度はクリスの方が気圧されていた。つばを飲み込み、姿勢を正す。

「まあいいでしょう。あなたがそうしたいのならそれはそれで。あなたはずっとそこで剣を振っていればよろしいですわ。では、失礼いたします。お姫様」

 クリスは優雅に一礼して立ち去っていく。セリカはその背を見送り、

「もう! あいつどういうつもりなのよー!」

 大きく剣を振りかぶり、振り下ろした。そして、横の芝生の向こうの建物を睨みつける。そこは騎士団の本部がある建物だ。

「そんなに騎士団が頼りになると思っているなら、わたしが現実を教えてやるわ!」

 セリカは大股でそちらに向かっていった。

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