新しい王女
それから数日後。建国を記念する祭りの日に合わせて、この国の新しい王女を紹介するパーティーが開かれた。
素性の知れない外国からの流れ者が、どのように国王にうまく取り入ったのかと陰口を叩く者達もいたが、そんなものは美しく着飾った少女が現れたらすぐに感嘆の息に取って代わられた。
本当にクリスは容赦がない。彼女が必死に頑張って着飾ってきた姿を見て、セリカも内心で舌を巻いていた。
歩きながらクリスがこっそりとセリカに向かって勝ち誇った笑みを浮かべる。普段のセリカならその挑戦的な態度に敵対心をあらわにしてにらみ返すところだったが、今は彼女もそんなクリスに見とれることしか出来なかった。
期待通りでありながら、ある意味期待した反応とは違っていて、クリスは顔を赤くして目をそらしてしまう。
パーティーの会場でクリスはみんなの人気者だった。明るく笑う彼女を見て、セリカも幸せな気分だった。
パーティーが終わり、セリカが廊下で一息をついていると、クリスはパーティーで着飾った姿のまますぐにセリカのところにやってきた。
同じ姿でありながら、そこにはもう会場にあったような優雅な雰囲気はなく、幼い頃から見知った自信家で鼻持ちならない少女の姿がそこにはあった。
「わたしの実力を見ましたか? もう誰もあなたなんか見てませんでしたわよ。姫としての勝負もわたしの勝ちのようですわね。悔しいでしょう」
嬉しそうに声を弾ませて言うクリスに、セリカは寂しそうな眼差しを向けた。
「悔しいというよりも寂しいわね。美しいあなたはこのままわたし達の手の届かないところへ行ってしまうのかと気が気ではなかったわ」
「そんな・・・・・・わたしはどこにも行きませんわよ。だって、わたしはあなたとこの国で・・・・・・」
そこまで言って、クリスは言葉を飲み込んだ。セリカが笑いをこらえていることに気づいたからだ。
「もう、からかわないで! ちゃんと悔しがりなさいよ! あなたがお猿さんのようにウキーと悔しがる姿が見たくてこんなにお洒落を頑張ってきたのに、台無しですわよ!」
「そっか、クリスはわたしのために頑張ってくれたんだ」
「・・・・・・別にあなたのためじゃありませんわ。この国の姫として恥ずかしくない格好をするのは当然のことです」
「綺麗だよ、クリス」
「あ、あなただって。・・・・・・ありがとう」
クリスは赤くなってうつむいてしまった。
その時、窓の外で花火が上がった。今日はお祭りだ。セリカは窓を開けて外を見た。
「花火が綺麗よ。遊びに行こうか」
「お父様に勝手な外出は禁止されているでしょう。言っておきますが、わたしが見張っているうちは勝手な真似はさせませんわよ」
クリスが意地の悪そうな目でセリカを見る。
あの日、王が付けると言っていた見張りとはクリスのことだった。クリスはその任務を忠実にこなし、セリカはもう自由気ままに行動することは出来なくなっていた。
クリスが今まで積極的に外の任務へと向かっていたのは、手柄を上げて国のみんなに認められたいがためだった。それが叶った今となっては、クリスはもう前ほどには外へ出て行くこともなくなっていた。
「クリスは真面目すぎるよ・・・・・・」
セリカは肩を落としてため息をついた。そこへ国王がやってきた。
「祭りを見に行きたいのか? いいぞ、行ってきなさい」
「いいの?」
セリカはぱっと顔を上げる。国王は優しくうなづいた。
「ああ。頼もしい護衛もついているしな。クリス、セリカのことを頼んだぞ」
「はい、お父様」
「もう、父様。わたしがクリスを護衛するのよ」
「そんなことはわたしに勝ってからおっしゃいなさい」
「むうう~」
「ははは、二人ともあまり遅くならないうちに帰ってくるのだぞ」
「はい! さあ、クリス。行こう!」
「ちょっ、引っ張らないで! その前に着替えてから」
「どうして? わたしは可愛いクリスを街のみんなにも見てもらいたいよ」
「まったくあなたは・・・・・・仕方ありませんわね」
国王に見送られ、二人の娘は明るい街へと出かけていった。




