国の悩み事
あるファンタジーの世界の一つの王国。
城の謁見の間で、国王は騎士団長からの報告を受けていた。
「申し訳ありません。あと一息のところで賊どもを退治できていたのですが、惜しくも取り逃がしてしまいました」
「ううむ、また取り逃がしたのか。これは考えを改めねばならんのかもしれんな」
目の前でひざまづく騎士団長からの任務失敗の報告を聞いて、玉座に座った国王は白い髭を触りながら低くうなった。
この国ではある悩み事があった。都から遠く離れた国境付近の街道で正体不明の賊どもが現れるというのだ。
人里からも遠く離れた場所の出来事で、被害もたいした物は出ていないのであまり深刻な問題ではなかったが、いつまでも好き勝手にうろちょろされるというのは気分のいいものではなかった。
「我が国の騎士団では無理か。こんな時に伝説の勇者でも現れてくれればな・・・・・・」
国王のそんな呟きに、騎士団長はびっくりして顔を上げた。
「無理だなんてとんでもない! 本当にあと一息のところだったのです! 我ら騎士団の力を信用してください! 今度こそ奴らを退治してご覧にいれましょう!」
「そうか。お前がそこまで言うなら今一度・・・・・・」
「待ってください!」
その時、言いかける国王をさえぎる者があった。
謁見中だというのに堂々と扉から入ってきて、ひざまづく騎士団長の隣に立った黒い髪の少女。年若くありながら凛々しさを感じさせる彼女の名はセリカ。この国の王女だった。
「父様、もうこんな奴に期待するのは止めましょう。我が国の騎士団では何度やっても無理です。だってこいつら、わたしより弱いんですから」
「ひ、姫様。それはあまりにあまりなお言葉では」
騎士団長が震えた声をあげる。セリカはそれを無視して王に進言した。
「能無しにいつまでも任せておいても事態は終結いたしません。被害は軽微とはいえ何度もやられて帰ってくるなど我が国の恥さらしもいいところ。わたしにやらせてください。こんな問題すぐに片付けてみせましょう」
気の強い娘のその発言に、国王は優しい目をして迷うこともなく答えた。
「お前の剣の腕は認めている。だが、お前はわしの娘。万一のことがあっては困る」
「だからってこんな能無しの愚図にいつまでもやらせておくのですか? そもそも父様は甘いのです。騎士ならば任務の失敗には死をもって責任を償う覚悟で挑むべきなのです」
「口がすぎるぞ、セリカ。騎士団長も頑張っているのだ」
「そうです。我々も頑張っているのです」
「黙りなさい。頑張っても勝てなければ意味がないのよ」
「むぐう・・・・・・」
王女からの有無をも言わさぬ言葉をぶつけられて、騎士団長は口をつぐんでしまう。
国王はやれやれとため息をついた。
「まあ、事態はそれほど急を要する物でもない。この件は引き続き騎士団長に任せる」
「ハッ、我が騎士団の総出をかけて賊どもを成敗してご覧にいれましょう」
「父様! 我が国の恥をまだ晒し続けるのですか?」
「くどいぞ! この話はこれで終わりじゃ! お前は部屋で勉強でもしておるがいい!」
「むうう・・・・・・」
国王からの有無をも言わさぬ言葉にセリカは口をつぐんでしまう。そんな彼女に立ち上がった騎士団長は明るく気楽な調子で声をかけた。
「まあ、我々に任せておいてください。今度こそ姫に恥と思われぬ成果を持ち帰ってみせましょう」
まるで子供に言って聞かせるように言ってマントをひるがえして退室していく。
その背を見て、セリカはこれはまた駄目だなと思うのだった。




