化け者交流会談記ES6.5
暗い部屋。
とても静かなその部屋で、数人の男女が真剣な目で佇んでいた。
彼らは何も言わず、ただただ沈黙を貫くのみ。
彼らは知っている。今は自分が動くべき時では無いと。
そう、今は雌伏の時。口を開き発言するのは自分ではない。
“彼”が動きを見せるのを待つべきなのだ。
なぜなら今回、緊急という名目で彼らを集めたのは“彼”なのだから。
そしてその“彼”がカッ! と目を見開く。
……彼らに緊張が走る……
そして幾分かの沈黙のあと、今までの静寂を破るかのように“彼”は口を開き、会議は始まりの鐘を告げた。
「主人公っぽいアイデンティティが欲しい」
番外編:霊能太郎とアイデンティティ
「いやー、なんかこう……ゴムゴムのー! とか、鬼の手ー! とか、真実はいつも一つ! とか、それだけで誰だか分かる特徴が欲しいんだぜ。協力求む」
『……はぁ、霊能が緊急会議だって言ったから何事かと思ったのに……て言うかこのやり取り前にもやらなかった? 凄いデジャヴなんだけど』
『また霊能はんは……本当にくだらないどす。緊張して損した気分どすぇ……』
ここは霊能ハウス。
なんか真面目な感じで始まった冒頭からは考えられないような議題だが会議が行われていた。
会議に集められたメンバーはもはや恒例となったいつものメンバー……ではなく。霊能、蘇我、さっちんは同じだが、今回はこの三人と前回未登場のくっちー小次郎がこの場にいる。
何故くっちーが出席できたかって? それは今回はたまたまバイトが休みだったからだ。
『ねぇ、番外編って、本編で消え行く運命にあるキャラの巣窟って聞いたんだけど、私って……いらない?』
「そ、そんなことないと思うぜ」
『霊能君!? なんで視線を逸らすの!!?』
慌てふためくくっちーを置いて会議は始まる。
「さて話を戻すが……何て言うか俺もそろそろ主人公らしさってのが欲しいわけだ」
『そう? 霊能君は格好いいし、十分主人公っぽいわよ?』
「甘ぁぁぁい!! 甘い甘い甘すぎるぜ! くっちーは分かっちゃいない! 世の中格好いいだけじゃ主人公とは言えないんだぜ!」
『ねぇ、いつまで本編の使い回す気? いいの? 新しいネタが浮かばないからってこんなことでいいの?』
『蘇我はんは何を言ってるんどす? 言ってる意味がよく分からないどすえ~』
『しらばっくれた! しらばっくれたよ!?』
蘇我の抗議はもっともだが、今回は全編こんな感じで行きます。ご了承下さい。
そんな会話をしていると小次郎が少し疑問に思ったような顔で質問をする。
『因みに霊能殿は今までどんな主人公っぽいことをしてきたでござるか?』
『いや小次郎は一番よく知ってるよね!? 質問の仕方がおかしいよね!? ほら! 使い回すから早くもストーリーに矛盾が出て来ちゃってるじゃん!? いいの!?』
「え……なんか直接そう聞かれると恥ずかしいものがあるな。なんかこう……一度滑ったギャグを聞き返されるような恥ずかしさが……」
『僕の意見は無視か! あくまでも台本通りか!!』
大声で叫ぶ蘇我の隣で、さっちんが小声で耳打ちをするように、
『蘇我はん、セリフが違うどすえ。ここは『僕が知ってる限りだと……中臣鎌足戦でちょっと主人公っぽかったよね』どすえ』
「いやぁぁぁぁ止めろぉぉぉぉ!! 何これ何この公開死刑、めっちゃ恥ずかしいんだけど」
『いやまだ続けるのかよ!! 今のでいいの!? さっちんの代弁だよね!?』
『閻魔はん戦のラストとかも主人公っぽく決まってたどすぇ』
『冷静に考えると……痛いわねぇ……』
『いや何も痛くないよ!? 普通だよ!? 無理して使い回し過ぎだよ!』
「うっせぇ! いいんだよ! 男は皆主人公に憧れるんだよ! 入学式の自己紹介で意味不明なことを言う奴が後ろの席にいるんじゃないかとか! 毎日変わる髪型について質問したら思いのほか会話が弾んじまうんじゃないかとか! 最終的に存在意義の分からん団に無理やり入部させられてドタバタな日々が始まるんじゃないかとか妄想しちゃう生き物なんだよ!!」
『それ明らかにある一点の作品について言ってるよね!? 憂鬱だよね!? いや今の僕が一番憂鬱だよ!!』
「違う俺は溜息派だ」
『どっちでもいいよ!!』
他にも突然学校にゾンビが現れたらどうしようとか、魔術と科学が交差したらどうしようとか考えちゃう生き物です。
『それで、性懲りも無く格好いい主人公になりたいと、そういう訳でござるな? ……面白そうでござる』
「性懲りも無くとか言うな、……でだ。個人的には左手に黒の手袋はめてみようかと考えてるんだが、どう思う?」
『すごく……くだらないです……。ってやらすな!! 僕を巻き込むな!!』
『いやぁ蘇我はん……流石にそれは無いどすぇ……』
『さっちん止めて!! 素で引かないで!!』
「じゃあ右目に眼帯付けてチャリを乗り回すのは?」
『なんかしょぼいでござるな……』
「文句ばっかりだな……じゃあなんかいい案を出してみやがれ」
その言葉をきっかけとして部屋に再び沈黙がもどる。
みんなそれなりに真面目に考えてくれているようだ。
『よし霊能、思いついたよ』
「お、蘇我! マジか! 聞かせてくれ!」
『もうこのくだらない会議は止めて、僕といっしょに表現の自由について話し合――』
「却下だ。はい次の人」
『ちょっとぉぉおおお!!! 僕にもボケさせてよ!! だいたい僕ツッコミキャラじゃないんだけど!!』
『私も思いついたんどすが……』
「お! さっちん! いいぜ! どんどん発表してくれ!!」
『だから僕の話を聞けよ!! 台本を置け!!』
『私が思うに、霊能はんは見た目のインパクトが足りないんどすえ。だからそれを補えばいいと思うんどす』
「見た目のインパクトか……具体的には?」
『スーパーサ○ヤ人なんてどうどすえ?』
『オイィィイイイイ!! さっちんだけど言わせてもらうね! バカだろ!! もろパクリじゃん!!』
「スーパーサ○ヤ人か……ありかもな!」
『いやないよ! ダメ過ぎるよ!!』
『では、スーパー野菜人というのはどうでござるか?』
『帰れ!! それただのベジタリアンの人じゃん!!』
『違うでござるよ。スーパーの野菜売り場担当のおじさんのことでござる』
『もっと普通の人だろ!!』
まぁこれは無いよな。これはない。
『そもそも霊能君はどんな主人公になりたいの? 共感型? 羨望型?』
『ねぇ……なんかめだかボ○クスみたくなって来たんだけど、いつまで続くのこれ?』
「そうだな……うん、全然考えてないぜ。それも含めて募集中、採用者にはもれなく教会で貰った粗品をプレゼント」
『またティッシュだよ! 6箱入りのティッシュだよ! そして上手いこと前回のセリフにはまったな!』
『さらに今ならおまけとしてこけしもついてくるどすぇ~』
『いつまで取っておく気だよ! その不良債権!! いい加減捨てようよ!!』
「んじゃとりあえずみんな考えてくれ。武器やアイテムの使用も許可するから」
霊能がそういうと皆口を閉じ、わりと真面目に考え始めた。
なんだかんだで付き合いはいいのだ。
そんなこんなで静まったあと、二分ほどして小次郎が手を上げた。
『拙者にいい考えが浮かんだでござる。これはなかなか思い付かない主人公のスタイルでござるよ!』
「発言を許可するぜ」
『まず主人公はなんと大妖怪ぬらりひょんの孫という設定から入るでござるよ! そして、そのぬらりひょんの孫小次郎が四国八十八百鬼夜――』
「却下だ。まず主人公が俺じゃないってのがダメだ。それ以外は概ね良かったんだけどな」
『いや何もよかないよ!! 又してももろパクリだよ!! まんまネクストで最終章が連載中だよ!!』
『なん……だと……!? 拙者のシナリオが既に誰かにパクられていたというのでござるか!? くっ!』
『くっ! じゃないよ!! パクったのお前!!』
『私も思いついたどすぇ~』
「発言を許可するぜ」
『さっきも言ったどすが、霊能はんはまず見た目を変えるべきどすえ。シルエットだけで判断できないキャラに未来はないどすえ』
「つまり?」
『頭を銀色に染めて、額には肉の文字、そして胸に北斗七星のアザを刻めば完璧どすえ!』
「なるほど……」
『なるほどじゃないよ! 結局シルエットだけで判断付かないじゃん!!』
『シルエットなんて蘇我はんみたいものどすえ。ほとんど価値なんてないんどすえ』
『さっちん!? 数行前読み返して! 自分のセリフ反芻して!! そして僕の存在価値はそんな低くありません!!』
「文句ばっか言ってねぇで、蘇我もなんか案出せよ」
『えー、いいよ僕は。興味ないし』
「いいからなんか出せ」
『って言われても、霊能が男で12歳以上な時点で主人公に向いてないと思う。ぷっ』
「お前はあとで死刑な」
ホント、馬鹿ばっかりである。
……いや、今の発言は訂正しよう。
この騒ぎの中、一人まだじっくりと考えている人物がいた。
どうやら彼女は真面目に考えているようだ。
彼女は霊能に顔を向け、何かを思案するような表情で疑問を投げかける。
「霊能君……主人公が霊能君だとしたらヒロインは当然私なのよね? そうよね!?」
「いや……うんまぁ多分……」
『ねぇ! だからどうして目を逸らすの!? 霊能君!!?』
うん、やっぱり馬鹿ばっかりなようだ。
「もっと無いのか!? なんかこう……戦いのクライマックスで人類の存亡が主人公の肩にかかってくる的な……格好いいキャラ設定は!!」
「思いついたわ! 人類の想いを全て乗せたシチュエーション!」
「発言を許可するぜ!! 頼むぞ!!」
「ああ、霊能君! どうしてあなたは霊能君なの? よ!」
『想い載せ過ぎてもはやキャラ設定でもなんでもないよ!! てかそれくっちー個人の願望じゃん!!』
「おい蘇我、それ俺のセリフだぞ」
『だからセリフって何だよ! いつまで台本通りに続けるつもりだよ!!』
『想いを乗せればいいでござるか? そなら思いついたでござよ!』
「おう! 格好いいやつを頼むぜ」
『必殺! 働いたら負けだと思っている。でござる!!』
『それもお前個人の想いだろうが! 小次郎はいい加減働けよ!!』
『なら私の案を聞いて欲しいどすぇ!』
「お、自信満々だな。格好いいのを頼むぜ!」
『秘奥義! エターナル・パラサイトニートどすぇ!!』
『小次郎のやつと微塵も変わってないよ!! さっちんはあんな大人になっちゃダメだからね!?』
『効果、働かない。どすぇ』
『いや別に説明しなくても分かるよ! っていうかどんどん主旨がずれてってるんだけど!? これほとんど前回のやり取りと変わらないよ!?』
もはやキャラ設定でもなんでもない。ただみんな自分の願望をぶつけているだけである。
「まぁ確かにだいぶ話が脱線してきたな。ここらで仕切り直そう……で、なんの話してたっけ?」
『覚えてないのかよ!! 霊能を主人公たらしめるアイデンティティは何かって話だよ!!』
「ああそうそう。アイデンティティだ。要は設定を増やしたいって話だったな」
『そうそう。で、思ったんだけど、いくら番外編で話し合っても本編じゃないんだから意味ないよね』
ピシィ!!
空気が止まる。霊能も止まる。
そう、ここは化け者交流会談記であって化け者交流会談記ではない。いわばパラレルワールド。彼らがいくら真剣に話し合ったところで本編の設定は微動だにしない。あるのはせいぜい補正(笑)程度である。
シーン……
この擬音がここまで似合う五秒間は未だかつて無かったであろう。いや実際は一回あったわけだが。
そして発言から五秒がたった時、霊能が口を開いた。
「それを言っちまったら……おしまいだろうが……」
こうして今日の緊急会議は終わった。
……見事なほど無駄な会議であった。
完