化け者交流会談記ES4
時は20XX年。そう遠くない未来、人類は繁栄の頂点を迎えていた。科学技術の進歩、取り分け医療技術においては神さえも冒涜する禁断の秘術を人間は手に入れていた。
遺伝子操作やナノテクノロジーといった技術は生物を根本から作り替え、そして意のままに操ることを可能にした。
しかし人類はその後、急速な衰退を迎えることとなる。
世界を欲望のままに作り替えてきた人類は、世界の怒りを買い、人々は暗黒の時代を生きることとなった。森は枯れ、生物は死に、今までの生態系は完全に崩壊してしまった。
その後新たに生まれた生態系は一部の者に、“楽園”と呼ばれ、楽園を傷つけると楽園の主である“紳士”が津波となって押し寄せ、そうしていくつもの国が楽園に飲み込まれたのであった。
『『『さっちーん!さっちーん!さっちーん!』』』
ドッドッドッドッドッドッドッド!!
「欲望で我を忘れてるっです!鎮めなきゃ!」
『自分らで紳士を呼び寄せているでござるよ!今の内に退却するでござる!』
『た、助かったんだぎゃー』
『う、うわっ!や、止めるでござる!は、話せば分かるでござるよ!』
「私たちを運ぶっです。さっちんを群に返します」
『そんなことしたって無駄でござる!あの欲望は収まらないで―――』
ババババババババッ!
『うわっ!お、落ち着くでござる!』
「私たちを群の先に下ろすだけでいいっです!運ぶっです!」
『そんなことしたら君は死んでしまうんだぎゃ!』
『『『さっちーん!さっちーん!さっちーん!』』』
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ!
『霊能参謀!やべーよ!マジやべーよ!退却しようぜ!?』
『落ち着け山田軍曹』
「そうだぜ。第一逃げるったってどこに逃げるんだよ」
『う、うわぁぁああああ!!』
「あ!おい逃げんな!待てって!くっちー殿下が戻られるまで持ちこたえるんだ!‥‥‥ん?あ!殿下だ!」
ガラガラガラガラガラガラ。
『何をしているのバケモノ!さっさとしなさい!』
『くおぉぉぉ‥‥‥‥』
ドロ~~~ズシン!
「腐ってやがる。暑すぎたんだ」
『凍りつくしなさい!‥‥‥どうしたの!それでも世界でもっとも冷血な種族の末裔?』
『‥かぁあああぁ‥‥‥‥』
ピカッ!ガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ!!
「うお!すげぇ、世界が凍っちまうわけだぜ」
『くっちー殿下万歳ー!』
『現金だな山田軍曹』
『『『さっちーん!さっちーん!さっちーん!』』』
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ!
『くっ!凍りつくしなさい!‥‥‥どうしたのバケモノ!さっさとしなさい!』
『‥‥‥かぁああ!!』
ピカッ!ガチガチガチガチ!
ドロドロドロドロ‥‥‥‥ドスーン!
「きょ、虚心兵が死んじまった‥‥‥」
「その方がいいんや。紳士の欲望は世界の欲望や」
『‥‥‥‥さ‥‥け‥‥‥きなさ‥‥い』
『くっ!使えないわね!』
「殿下!!ご無事でしたか!」
『あ、霊能参謀‥‥‥』
『‥‥‥くち‥‥‥け‥‥起き‥‥』
「殿下、ここはもうダメです!俺と一緒に逃げて下さい!」
『え!そ、そんないきなり‥‥‥私、困るわ』
『‥‥‥ち‥‥さけ!‥‥きなさい!』
『もう!何よさっきからうるさいわね!今いいところなんだから黙っ―――』
『口裂け!早く起きなさい!』
『ふえ‥‥‥?あ、あれ‥‥?』
私はコンビニの休憩室で目を覚ました。
番外編:くっちーと深夜アルバイト
『あ、あれ?霊能参謀は?』
『何まだ寝ぼけてるのよ。シャキッとしなさい』
虚心兵の変わらない口調でようやく私は我に返った。今までの出来事は全て夢だったようで、落ち着いて状況を整理すると、休憩に入った私は突然睡魔に襲われて、そのまま眠ってしまったみたい。
『ところで虚心兵は何してるんです?』
『もう一回永眠る?あなたが交代の時間になっても来ないから呼びに来たのよ。ホント使えないわね』
『あ、すみません。深夜のアルバイトは初めてで』
『いい訳はいいから、さっさと逝きなさい』
『店長、その漢字の間違いに悪意が感じられるんですけど』
『文字通りの意味にして上げてもいいわよ?』
『店長ぉ、冷たいですよ‥‥‥‥』
ガクンと肩を落としつつ私は店頭に出る。
今日は初めての深夜アルバイト。理由は簡単で、深夜の方がお給料がいいから。
でも流石に眠いわ。昨日は金曜ロードショーでナウ○カ見て夜更かしした上に、今日は朝早くから自動車教習所で実技テストがあったからあまり寝てないの。
あ、ナウ○カ見てたことは店長には秘密よ?またどやされるから。
それにしても深夜のコンビニって暇ね。深夜っていってもまだ午後11時半だけど。
ウィーン
あ、誰か来たみたい。
『いらっしゃいませー』
『お弁当温めますか?』
『970円になります』
『三十円のお返しです』
『ありがとうございましたー』
一連の動作を繰り返すだけの単調な作業だけど、初めの頃はレジ打ち一つままならなくて、よく店長に叱られたわ。あの頃は毎日、苦悩が絶えなかったなー。
ここで働き始めてもう早3ヶ月。今ではレジ打ちも完璧にマスターしたけど、最近私には別の悩みが2つあるの。
一つは霊能君との進展が全くないっていうこと。作者がラブストリー書くの苦手なのは分かるけど、苦手だからって逃げるのは私良くないと思う。フロンティアスピリットは大事だと思うの。
でもそんなこと考えてたら、今度は本編にすら出して貰えなくなってきて、つまり何がいいたいかと言うと、
生意気言ってごめんなさい!靴でも何でも舐めますから霊能君に会わせて!このままだと番外編要員にされそうで不安なの!
ってことかしら。
2つ目は、
ウィーン
お客さん来ちゃった。続きはまた後で。
『いらっしゃいませー』
軽快な足取りで入店して来たのは一風変わった雰囲気のご老人。彼は迷うことなく奥の雑誌コーナーへと歩いていったわ。そして何冊か本を持って、
「この週間少年ジャ○プを欲しいんじゃが!」
って、完全にカモフラージュじゃないのよォォォ!!!下にアダルト雑誌が見え隠れしてるわよ!!!てゆーかもろ見えてるわよ!!
と、本当ならツッコミを入れるところだけど、今はお仕事中、冷静に冷静に。
『ジャ○プが一点とその他の雑誌が五点で合計、3,250円になります。よろしければ雑誌の方は黒色のビニール袋にお入れしましょうか?』
「いいんですかな?いや婆さんと孫にバレると、ちと面倒でしてな。助かりますじゃ」
『いえいえ、仕事ですから。ところでお孫さんというは、濃茶のセミロングで大学生くらいお嬢さんですか?』
「ほお、お前さん燐子を知っとるのか?」
『いえ、お客様と目元がそっくりでしたので。ご家族の方かと』
私はゆっくりと手を上げ、ご老人に背後で釘バットを構える女性の存在を教えて上げる。
「おじいちゃん♪話はおばあちゃんと一緒に家でゆっくり聞くから♪」
額から冷や汗がだらだらと流れ落ちてるけど、それが真っ赤に染まったときが見物ね。
「り、り、燐子や。お小遣いやるで許して‥‥‥くれんかの?」
「だ・め♪」
「後生じゃぁぁあああ!!婆さんにだけは!婆さんにだわー‥‥‥!」
わぁすごい。人間って意外と簡単に引きずれるものなのね。一つ勉強になったわ。
そしてこの忘れ去られた雑誌はどうしたらいいのかしら?代金はもう貰っちゃったし‥‥、次来た時に渡すしかないわね。とりあえずカウンターの隅にでも置いといて、と。
そんなことを考えながら私は視線を店内へと戻す。
店の中を見回してみても、この時間はお客さんなんて一人もいなかった。
『‥‥‥暇だわー』
あ、そうだ悩み事の2つ目がまだだったわね。
私の最近の悩み、それは私の名前についてよ。
どういうことかと言うと、私にはちゃんとした名前がない気がするの。名字すらないわ。貞子ちゃんや暗菜ちゃん、ついにはツキミちゃんの名字まで明らかになったのに、私にはなし。
待って待って小次郎君にも名字がないって言いたいんでしょ?でも彼と私には大きな差があるわ。それは、よくよく考えてみると、“くっちー”っていうのは口裂け女のあだ名であって私の名前じゃないってことよ。いわば小次郎君のことを“ぬらっち”って呼ぶようなもの。何で!?何で私だけこんなに扱い酷いの!?名前なの!?名前のせいで本編に出られなくなって来てるの!?そうだとしたら今すぐに―――!
ウィーン
あ、お客さん。
『いらっしゃいませー』
黒服にマスクの男性が入店。
男の人は、ポケットに手を突っ込んだままレジの方へと歩いてきて、レジの前に着くや否やポケットからナイフを取り出し、私に突きつけ―――
「おら!金を出―――!」
『遅いわ。刃物っていうのはこうやって抜くのよ』
―――る時にはもう既に、私は彼の首に鎌を添えているけど。
「なっ!は、早い‥‥‥!」
『今日は見逃してあげるけど、次やったらただじゃ済まないわよ?』
ナイフだけ没収して、今回は見逃してあげる。
「く、くそ!覚えてろよ!」
男はそう言って、ふらつく足で走り去っていく。他に言うことはないのかしら?
まぁいいわ。それにしてもやっぱりコンビニ強盗っているのね。初めての深夜アルバイトで強盗にあうなんて運悪いなぁ‥‥。
ウィーン
そんなことを考えているとまたお客さんが入って来た。既に午前0時を回ってるから、当然やって来るのは大人だけよ。
今度は袈裟を着た男性。多分お坊さんだと思うわ。
『いらっしゃいませー』
お坊さんでもコンビニとか来るんだ。ちょっと意外ね。コンビニは少し俗なイメージがあるから、お坊さんとか立ち寄らない気がするのに。
あ、こっちに来た。
「この週間少年ジャ○プを頼んます!」
って俗ぅぅぅ!!想像以上に俗なんですけどこのお坊さん!そして何でいつもジャ○プで隠すの!?いや隠せてないけどね!?
『週間少年ジャ○プが一点その他の雑誌が六点、ちくわが三点で合計3,980円になります。よろしければ雑誌の方は黒色のビニール袋にお入れしましょうか?』
「ええんですか?なんやすんまへんなぁ。いやぁ寺の連中にバレるとうるさいんですよ。中でもツキミっちゅう娘がこういうのに敏感な年頃やもんで、ホンマ気ぃ使いますわ」
『あ、ツキミちゃん久しぶり』
私はお坊さんの背後で釘バットを持って立っているツキミちゃんに声をかけた。
そっか、このお坊さんがツキミちゃんの寺の住職さんなのね。
「つ、つ、ツキミ?お小遣―――」
「ダメっです」
「な!待ってくれ!空海には!空海には言わんでくれ!空海にはー‥‥‥!」
私が見ているものが、いわゆるデジャヴってやつよね。
そして案の定、和尚さんは雑誌を忘れていったわ。このままだと、カウンターにどんどんアダルト雑誌が溜まっていくことになるわね。
あーあ。深夜のコンビニってほんと暇よね。
完