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化け者交流会談記ES9

後半に登場する金華猫には、悪さをしていたところをゴンザレスに捕まったという別のエピソードがありますが、都合によりそのエピソードは掲載できません。大変申し訳有りませんが、ご了承下さい。

 


 まぁ‥‥あれか。世の中辛いことの方が多いってことか?

 知ってる、知ってるさ。分かっちゃいるんだよ俺も?俺って奴はそこまで賢くねぇけどよ、人に見下されるほどバカだとも思ってないからな。そういう分別つっーか、まぁ状況に応じた対応くらいは出来るわけだよワトソン君。


 ところでだが、人間ってのは想像以上にバカな生き物だと思わないかい?

 突然何だ?と思うかもしんがまぁ聞けよ。

 人間以外の動物‥‥‥要するに人間を除く全ての生き物は、賢い生き方ってやつを遺伝子情報として持ってやがるんだな。まぁ人間にもあるかも知れんが、今は虫垂にでもしまっとけい。

 つまり動物ってのはな、知ってんだよ。どうやったら生き延びれるかってことを。


 “面倒事には首を突っ込むな”


 子孫繁栄の第一法則とでも名付けてやろうか?知らねぇけど。

 要するにな、自分が生き残ることだけ考えてりゃいい、それだけのこった。当然っちゃ当然だな。

 例えばサバンナで、シマウマの群がライオンの奇襲を受けたとするだろ?案の定一頭の年老いたシマウマが捕まっちったぜ。さーて群の仲間はどうする?


 ①助ける。

 ②逃げる。


 三分間も待ってやらん。さあ答えろ。どっちだ?

 答えは③のもう既に地平線の彼方だ。

 当たり前だろ。その場に残ってりゃそいつもライオン伯爵の豪華ディナーに招待されちまうからな。無論、食材としてだが。

 だから他のシマウマはこの場合、自分が生き延びることしか考えてねぇんだよ。

 薄情か?違うだろ。これが自然界の模範解答だ。先生だって花丸の上にシールまで付けてくれるぜ?きっとな。

 だがそれがどうした?人間様と来たら自然界のルールも無視して、簡単に他人の揉め事に首突っ込みやがる。バッカじゃねぇの?何が悲しくて人助けなんぞせないかんのじゃわれ。小学校からやり直してこいカスが。

 まぁ要するにだ。俺は全人類に向けてこう言いたい。

 長生きしたけりゃ変な気は起こすな。賢く生きろ。自分から面倒事に巻き込まれる必要なんてないんだぜ?そう―――


「このクソがぁぁああああ!!!」

「止めて!!」


 そう、俺みたいにな。


『グ、ガッ!!』


 っつゥゥゥ‥‥‥。なかなかいい拳してんじゃねぇか、金髪の兄ちゃんよ。これなんつったっけ?クロスカウンター?違うか?っつ‥‥!あーあ、口ん中切れてらぁ。痛ぇ‥‥。


「もういい、もう止めて!」


 止めて?止めてってのは何?もしかして俺に言ってる?このチンピラ共から貴女を守るのを止めろと言ってますか?

 そりゃムリな相談だぜ姉ちゃん。この場を見て見ぬ振りが出来るほど、俺の神経は図太くないんでね。そのくせチキンハートときたもんだから、もうどうしようもないわな。

 ありゃ?こうなると俺もバカの一員か?いやいやさっきも言ったが、他人に蔑まれるほど俺はバカじゃねぇのよさ?

 バカってのはな、自分の身も顧みず他人の揉め事に首を突っ込むような人間のことを言うんだよ。

 ホント、バカだよなぁ人間って奴は。バカだバカ。どうしようもねぇバカだ。こればっかりは死んでも治らないね。


「うらぁぁああああ!!死ねぇクソがぁぁああああ!!」

「止めてーーーッ!!」


 まぁ俺、


『ガルルルルルルル!!!!』


 ケルベロスだから関係ねぇけど。



 番外編:ケロちゃん奮闘記その2



 あー、だりぃ‥‥‥‥。

 八月の初旬。暑さからくるこの気だるさに身を任せて、俺は不健康にもクーラーの効いたリビングでだらけていた。


 にしても人間ってのは身勝手な生き物だなぁオイ。地球を自分たちの物だと思いこんでやがる。フロンガスがどんなけオゾン層を傷つけると思ってんだすいません!!

 やっぱ暑いものは暑いんです!超涼スィー!クーラー最高ー!ちなみにここ共感するところだぞ?


 最近の俺は毎日こんな感じだ。とくにやることもなく、これと言った見せ場もなく、単調な日々をだらっだらと過ごしている。たまに外に出かけたとしても、暑さにやられて四半刻も経たない内に帰ってくる体たらく。地獄の番犬も堕ちたもんだねぇ。

 加えてここ数日はその散歩もどきすらやっちゃいない。

 今日こそは!今日こそは変わってやろう!と心に決めて、やはり俺は扇風機の前に突っ伏していた。


(あーあー、全く決心が緩いなー、もー)


 うるせぇ。暑さには勝てねぇんだよ。


(しかし、こう部屋に引き籠もっていては体も心も腐ってしまいますよ?ここは一つどうでしょう。気分転換に森林浴にでも出かけてみませんか?)


 森林浴?はっ、真っ平御免被るね。そんなに行きたいならお前一人で行ってこいよ。止めはしねぇから。


(それはムリでしょー。僕たちの首は繋がってるんだからー)

(では多数決で決めるというのはいかがでしょうか?)


 却下だ。いつもセンター張ってるのは俺だ。ここはリーダーの指示に従え。


(えー、なんで中首がリーダー)


 黙れ。理由は今言ったろうが。二度も言わせんな。


(やれやれ、仕方ありませんね。何かありましたら呼んで下さい)


 そう一言告げて右首は意識を閉ざした。


 そうそう、大人しく引っ込んでろ。

 あー、にしてもだるいなぁ。夏バテか?うなぎが食いてぇ‥‥‥。つーか、朝飯はまだかよ。もう10時過ぎてんぞ?


 俺がそんなことを思っていると、知ってか知らずかジャストタイミングで、山村貞子が朝食を運んで来た。


『ケロちゃーん。ご飯どすえー』


 やっとか。腹ペコで死にそうだったぞ。

 まぁ食欲があるってことは夏バテの線は薄そうだな。つーかよ、今日の朝飯もどうせアレだろ?アレなんだろ?OKOK、みなまで言うな。分かってるよ。


 俺は仰向けで寝そべっていた身体を、グルリと一回転させて起き上がる。

 重い身体を引きずりながら差し出された皿の前まで行くと、案の定皿は山盛りのドッグフードで満たされていた。


『ほーらケロちゃん食べるどすえー』


 だよなー。ドッグフードだよなー。やっぱりかー。ホント予想を裏切らないなー。

 ‥‥‥‥つーか、何で毎朝毎晩ドッグフード!?いい加減食い飽きたわ!残飯でも何でもいいから、俺は何か他のもんを所望したい!!


(まぁまぁ落ち着きなよー。僕は結構好きだよー?ドッグフードー)


 お前の意見は聞いてねぇよ!引っ込んでろ!こちとら暑さとエンドレスドッグフードでイライラしてんだよ!黙りやがらねぇと首へし折りやがるぞ!!


(確かに、ドッグフード以外の物も食べてみたい気はしますね。それについては私も予てより思っておりました)


 だよなぁ!!そう思うよなぁ!!だいたい俺たち犬じゃねぇしな!犬っぽい魔獣だかんな?

 ああ!くそー!冷やし中華!冷やし中華が食いてぇ!


(まぁ僕は腹に入れば何でもいいんだけどねー)


 だったら黙っとけよ!


(私は‥‥‥、とくにこれといった希望はないのですが)


 何だ?何もねぇのか?ステーキとか魚とかハムとか、何かあるだろ?冷やし中華でもいいぞ。


(じゃあ僕はハギスで)


 だからお前には聞いてねぇんだよ!つーか偉く凝ったもん求めんのな!


(あ、一つありました。ですが‥‥‥)


 おう何だよ?言ってみろ?


(いやしかし‥‥‥これは‥‥‥)


 もったいぶるな。左のバカはハギス言ってんだぞ?この際だ、遠慮はいらねぇ。


(では僭越ながら一つ。私は幼女が食べ―――!!)


 却下だカス。腐って抜け落ちろカス。

 ったく‥‥‥、相も変わらずお前は変態だったな。


(幼女への愛も変わらず、という意味で受け取っておきましょう)


 字が違ぇだろ、字が。


『どうしたんどすか?食べないんどすか??』

『バウ!!』


 どうしたもこうしたもドッグフードは飽きたんですが何か!?


「おーい、さっちーん。ケロの奴ドッグフードは飽きたってよー」


 二階から霊能太郎の声が聞こえてくる。


 まぁ通訳はありがたいし、その通りなんだがな‥‥‥‥何でお前は魔獣語が分かんの?不思議過ぎるだろ!


『そうだったんどすか!ごめんなさいどすえ。すぐに別のものを持ってくるどすえ』


(幼女さっちんちゃんはドッグフードの皿を拾い上げ、その慎ましくも日々成長を続ける胸の内に抱きかかえると、着物の裾を翻し、そして色白く細いその太もも見せつけながら、絵にも描けない美しい笑顔とほのかな甘い香りを残して部屋の奥へと走り去って行きました)


 つーか何でお前がナレーション!?しかも表現が微妙に卑猥なんだよ!


(私は一言だけ言いたい。私にはドッグフードもステーキもいらい。ただ君さえいてくれれば私はそれだけで満―――!!)


 腐れ落ちろゴミがぁあ!!


『ごめんなさいどすえー。こんなものしか無かったんどすが、いいどすかー?』


(それじゃあ次は僕の番だー)


 僕の番って何だ!?そういう流れじゃねぇだろ!


(えーっと、さっちんは台所の奥から出て来てー。あ、ドッグフード‥‥‥じゃなかった、なんかよく分かんないけどお皿を持ってこっちに‥‥‥あ、蘇我だー)


『バウ!』


(おはようー。蘇我って、よくさっちんの下着盗んでるHENTAIさんだよねー)


『ケロちゃんおはよー。なんかさり気に今僕のこと貶してなかった?』


(いやー。気のせいだよー。ところで今日って何曜日なんだろー?霊能君いるし、土日ってことは分かるけどー。あ、でも夏休みの可能性もあるかー。そういえば鳥って電線に留まってても感電しないよねー。ずっと疑問に思ってたんだけど、あれって鳥の足がゴムでできてるかららしいねー。僕ビックリし―――)


 ナレーションをしろォォォォ!!!どんだけ集中力ないんだお前は!!話変わり過ぎだろうが!!しかも誰か知らん奴に騙されてるしよ!!


(えーナレーションて何かめんどくさい。‥‥‥じゃあ皿に入っててー‥‥‥おいしかったー)


 てきとーかッ!しかもまだ食ってねぇし!つーかこれ‥‥‥キャットフードじゃねぇか!!


『召し上がれっ♪どすえ』

『バウウ!!?』


 すいません!召し上がれません!残飯でもなんでもいいんで、人間の食べ物をください!


「さっちーん。ケロの奴、それじゃ嫌だってよー。俺たちの食べ残しでもいいから、何かくれってさー」

『あ、じゃあ例のちくわの残り上げとくどすえー』

『バウゥゥゥウウウウ!!!!!』


 すいませぇぇぇん!!!!キャットフード!!キャットフードでいいです!!僕みたいな犬だかネコだか分からないカス野郎にはキャットフードで十分です!!むしろキャットフードを下さいっ!!


「おう、ちくわでいいってよー」


 よくねぇだろ!オイお前ちゃんと通訳しろよ!さっきまで普通に出来てたろうが!!


『それじゃあ取ってくるどすえー』


 うぉぉおおおおい!!可愛い顔した悪魔が台所へリターンズ!?

 ダメだ!こうなりゃもう逃げるっきゃねぇ!


『バウッバウゥゥゥ!!!』


 俺は渾身の力を足に込めて床を蹴った。一気にトップスピードまで加速し、玄関を抜ける。とにかくその場を逃げ出した俺は、無我夢中で走り続けた。

 道中、何人か知り合いに出くわしたが、追われている可能性を考えそいつらを無視した。

 そして走り疲れた俺がたどり着いた先は、町外れの小高い丘の上に佇む民家だった。いや民家というより屋敷と言った方が適当かもな。とりあえず俺は、その家の門前に腰を下ろした。


『バウー』


 ここまで来れば一安心だぜ。

 ったく、何考えてんだあいつらは。あのちくわのせいでどんな酷い目にあったと思ってんだ。


(まぁ主に霊能君が、だけどねー)


 うるせぇ。その救出作戦に駆り出されたのを忘れんな。


(良いじゃないですか。そのおかげで、さっちんちゃんやツキミちゃんと旅行が出来たのですから。役得ですよ)


 そりゃそうだろう。基本お前らは遊んでただけなんだからよ。岩男と戦ったのも俺だしな。


(まぁまぁ昔のことは忘れて忘れてー。それよりこれからどうするー?)


 どうするも何も今あの家に戻―――


 俺がそう言いかけたとき、突如として後ろの門がガラリと開けられた。

 驚き、身を強ばらせる。


『バウッ!?』


 誰だ!?


「あれ‥‥?ネコちゃん??」


 振り返り見上げると、そこには二十歳くらいの結構ボインな姉ちゃんが立っていた。


「燐子やーどうしたー」


 屋敷の中、具体的には玄関のあたりから老人と思しき人物の呼び声が聞こえてくる。老人なんて堅い言い方はガラじゃねぇな。要は爺さんだ爺さん。

 するとボインな姉ちゃんは俺を抱き上げ―――


(私をその淫靡な胸の谷間にまるでジクソーパズルの抜けた最後のピースをはめ込むかのように強くそしてソフティに押し付けました。撓わに実った果実が私の両の頬をプレス!プレス!またプレス!!私はもう死んでも構わない!!)


 おう。出来ればもう死んでくれ。

 どんだけ卑猥な単語を羅列したら気が済むんだお前は!つーかまた俺のポジション取ってるしよ!だいたいお前、幼女萌えだったろうが!


(失礼な。私は美女蕩れですよ?きらーん)


 きらーんて、お前眼鏡かけてねぇだろ!何カッコよく決めてごまかしてんの!?いやカッコよくねぇけどさ!


「おじいちゃーん。家の前にネコがいるのー」


 つーかネコじゃねぇだろ。どっからどう見ても犬だろ。いや本当は犬ですらねぇしな。


(我が輩はネコでもいいである。むしろ積極的にネコである)


 一人でやってろ。つーか積極的にネコってなんだ。三十文字以内で説明してみやがれ。


「燐子や、それはネコじゃないぞ」


 ふと気がつくと爺さんは姉ちゃんの隣まで来ていて、こんなことを言い出した。


「それはモケーレ・ムベンベというUMAじゃ。つまりツチノコの仲間じゃな」


 嘘つけクソジジイ!首は多いが長くはねぇぞ俺!?


「えぇ!そうなの!?」


 んなわけあるか!信じちゃってるよ!どんな教育してんだクソジジイ!


「おじいちゃん凄い!物知りー!!」

「ふっ、伊達に老師と呼ばれておらんわい」


 老師?なにそれ?詐欺師の新しい呼び名か何かですか!?


「因みに鳥が電線に留まっとっても感電しない理由を知っとるか?実はあれは鳥の足がゴムでできてるからなんじゃよ?」

「えー!そうなの!?」


 うぉい!ガセだらけじゃねぇか!!つーかそれどっかで聞いたことあるぞ!?


「それで、モケーレ・ムベンベってどんな生き物なの?」

「う!?‥‥う、うむ‥‥‥それはじゃな‥‥‥なんと言うかこう‥‥‥丸くての、毛むくじゃらの‥‥‥ワンとよく吠える犬のような‥‥‥」


 ジジイィィィイイイイイイ!お前絶対モケーレ・ムベンベ知らねぇだろ!!俺見て言っただろ!!


 ったく付き合ってらんねぇよ。


「あっ‥‥‥」


 俺は姉ちゃんの腕をすり抜け再び地面を踏みしめた。そして振り返ることなく走り去ろうとしたとき、


「ちょっと待って!」


 姉ちゃんが後ろから俺を呼び止め、


「これ、食べる?」


 笑いながら、そっとソーセージを差し出して来た。


 ここで一つ言っておくと、俺は人間が嫌いだ。

 まず種族としての人間が嫌いだ。散々言って来たが、人間て奴は自然の理から外れている。

 愚直に生きるバカな人間がいるかと思えば、私利私欲のためだけに同胞を食い物にするゴミのような人間もいる。

 神の犯した唯一の過ちは人間を作ったことである、と言った奴がいたが実に的確な意見だ。そいつが宗教かなんかを開いたとしたら、是非俺も入教させてくれ。

 だからこそ、こういう偽善者ぶった野郎を見ると全身に虫酸が走る。誰にでも何にでも平等に振り撒かれるその笑顔を見るのが、俺は大嫌いだ。


「いらないの‥‥‥‥?」


 まぁそれはそれとしてソーセージはしっかり食べるけどな。

 実はもう限界だったんだなぁ。ケロを。


 俺は姉ちゃんの手からソーセージを奪い取り、その味を噛み締めた。


 ったく、もうちょいで腹の虫がブレイクダンス始めるところだったぜ‥‥‥。


「やれやれ、そうとう腹ペコだったようじゃな。じゃが、ワシのソーセージはやらんぞ?ワシのソーセージは婆さんだけのものじゃからな!!」

「死ねクソジジイ‥‥‥」


 おお!?今一瞬姉ちゃんの方から凄い殺気を感じたんだが!?

 う、うん、まぁ気のせいだよな。気のせいってことにしといてくれ。


「それじゃ気をつけて帰るのよ。またね」


 姉ちゃんはそう言い残すと、爺さんと一緒に街の方へと下りていった。


 さてと、腹も満たしたし、このあとどうすっかなぁ。

 とりあえず山を下‥‥‥り‥‥‥あ、ヤバい。急に‥‥眠く‥‥‥。



 ◇



「‥‥‥さん!‥‥‥子‥!?‥‥‥んか!?」


 ‥ん‥‥?何だ‥‥‥?やけに騒がしいな‥‥‥。つーか、ここはどこだ?


「婆さ‥!!燐‥‥‥!!‥‥‥ったい‥‥‥に!!」


 うるせぇな‥‥‥。どうしたんだ?俺はいったい‥‥‥。ああ、そうか。寝ちまってたんだ‥‥‥。


 誰かのただならぬ叫び声に起こされた俺は、とりあえず現状を把握するため、ゆっくりと意識を集中させていった。

 先ず初めに視覚が活動を再開し、水平線の彼方が仄かに明るんでいる映像を俺の脳に届けた。


 もう朝か‥‥‥。って、んなわけあるか。まだ寝ぼけてやがる。

 夕焼け、もう夜ってことか‥‥‥。だいぶ寝てたんだな。それで、今は何時だ?


 ぼーっとする頭でそんなことを考えていたが、次に回復した聴覚によって俺の脳は一気に活性化させられることになる。


「本当に燐子は帰っとらんのか!?じゃあどこに行ったんじゃ!?」


 ジジイの叫び声が耳に響く。

 普段なら文句の一つでも言ってやるところだが、どうもそんな悠長なことを言ってられる状況じゃないらしい。親バカならぬ爺バカの線もあるが、声の緊張感からして本当に深刻な事態が起きたと考えて先ず間違いないだろう。

 話を聞く限りだと、どうやらさっきの姉ちゃんの行方が分からなくなっているようだ。


「夕方までには帰ると言っておったんじゃよ!!ワシも一緒について行くと言ったんじゃが、ランジェリーショップじゃからええと言って聞かんかったんじゃ!!ワシはそんなの全然気にせんと言っておるのに!!」


 いや違ぇだろ。明らかに姉ちゃんの方が気にしてんだろ。

 ったく、どうせろくでもない男にナンパされてるだけだろ。あの姉ちゃんなかなか美人だったからな。


(私は美女が好きだァァァアアアアア!!!)


 黙ってろカス。首噛み千切るぞカス。

 やれやれ付き合ってらんねぇ。行くぞ。


(探しに行くんだねー。優しいとこあるなー)


 探す??誰が?誰を?もしかして俺が?ホワイ?何故?


(だって妙な事件に巻き込まれてるかも知れないよー?)


 答えになってねぇよ。

 何で俺が見ず知らずの奴のために骨を折らにゃいかんのじゃい。明瞭な答えがあるなら是非ともお聞かせ願いたいね。


(それは勿論助けた後で、彼女からあんなこやこんなことをして貰うために決まっているじゃないですか!!!)


 ご高説どうも。辞世の句はそれでいいな?

 つーか言っただろ。俺は人間が嫌いなんだよ。だいたい探すったってどこをだよ?あの姉ちゃんがどこでいなくなったかすら知らないんだぜ俺は。


(薄情者ー)


 何と言われようが俺の考えは変わらん。

 どこの世界に人助けをする魔獣がいるってんだ。仮にそんな奴がいたとしても、俺はそいつを魔獣とは認めん。


(ですが真面目な話、彼女には食べ物を分けて貰った恩があります。受けた恩は返すべきでは?)


 それにしたって、こっちから頼んだ覚えはねぇよ。向こうが勝手に差し出して来ただけだ。俺はそれを食ってやったに過ぎん。むしろ感謝されたいくらいだね。

 恩もねぇし、義理もねぇ。悪い噂と同じさ。気にせず忘れるんだな。


(でもさー)


 しつこい。

 俺は俺のためにしか動かん。そんなヒーローじみたことは、どっかの物好きにでもくれてやれ。


(なるほど‥‥、そうですね、分かりました。忘れましょう)


 よーし、そうと決まれば肉屋にでも行くか。寄り道せず真っ直ぐにな。



 ◇



「いいじゃんかよぉ?俺たちとちょっとお茶しようぜぇ?」

「い、‥‥け、結構です!」


 肉屋肉屋っと。あっれ?っかしいなぁ?見当たらねぇぞ?道間違えたか?


「オイオイつれないこと言うなよ~」

「い、いやです!はなして下さい!」


 俺の嗅覚に間違いはないハズなんだが‥‥?けどこんな路地裏に肉屋があるとも思えねぇしなぁ‥‥‥。


「いいじゃねぇか一緒にイイコトしようぜぇ?ムフフフフ」

「そんな‥‥!絶対に嫌ァ!!」


 つーか晩飯もそうだが、今晩寝るとこどうすっかなぁ。家には帰えれねぇし、つーか帰りたくねぇし。まぁどっかで野宿するしかねぇか。幸い真冬じゃねぇんだ、死ぬこともないだろ。

 となると、あとはどこで寝るかだが‥‥‥‥、ま、そんなことは後で考えりゃいいか。それより今は、


「もう構わねぇ!どうせこの路地裏に人なんか来やしねぇんだ、さっさとヤッちまおうぜ!」

「嫌ァァァ!!」

『ガァルルルルル!!!』


 ソーセージを頂くのが、先決だよなっ!


「ギヤァァァアアアア!!!」

「お!おい!大丈夫か!?」


 茶髪の兄ちゃんは地面に倒れ込み、右の足首を抑えながら転げ回っている。

 俺は口の中の肉片を、道の脇へと吐き捨てた。


「ネコ‥‥ちゃん‥‥‥?」


 ボインの姉ちゃんは背中を壁に預けたまま、ストンとその場に腰を落とす。

 出来れば今すぐにでも逃げて欲しいもんだがね。戦い難くていかん。


 俺は姉ちゃんを背にして、俄然のチンピラ連中を睨みつけた。どいつもこいつもチャラついた奴ばっかりだ。俺には人間の顔なんてもんは皆同じに見えるんで、ここは髪型等で判別させて貰おう。

 今、俺の右斜め前で転げ回っている茶髪の兄ちゃんが、さっきこの姉ちゃんの手首を掴んで強引にヤらかそうとしていたカスだ。


「痛ぇ!!痛ぇよォ!!救急車!救急車呼んでくれェェ!!」


 オイオイいつまで喚いてるつもりだよ、大袈裟な奴だな。死にやしねぇよ。

 ま、アキレス腱は確実に切れたろうけどな。


「なんだこの犬!俺たち刃向かおうってのか、ぁあ!?」


 刃向かう?いえいえ滅相も御座いません。ワタクシこれでも平和主義者でして、できれば無用な争いは避けたいと思っている次第です。はい。


「構うこたぁねぇ!たかが野良犬だ!殺しちまえ!!」


 やれやれ、平和主義者だって言ってんだろうが。なんだその危なっかしいバットは。さてはお前らタミフル中毒者だろ。悪いことは言わねぇ、今すぐ精神科に行―――


「おらぁぁああああ!!」

『バウッ』


 おっと。

 危なねぇな、人の話は最後まで聞きなさいとお婆ちゃんに習いませんでしたか?なぁ長髪の兄ちゃんよ?

 つっても俺、ケルベロスだけどなっ!


『ガルルルル!!ガグッ!』

「ぐぁぁぁあああああ!!」


 バキボキという何かが折れる音が響いた。

 具体的には長髪の兄ちゃんの右手首の関節が砕ける音だが。


 え?攻撃がえげつない?いやいや、これは正当防衛ですよ。だって相手はあんな凶器振り回してるんですからね。腕の一本くらい壊しとかねぇと、こっちが殺られちまうってもんですよ。


「このクソ犬!なかなか強ぇぞ!こうなりゃ全員で一斉に飛びかかれぇ!!」


 この金髪の兄ちゃんがチンピラどものボスだな?さっきから指示を出すだけで自分は全く動こうとしねぇ。モリアーティ気取りが、自分の手は汚したくありませんか?ん?

 ったく、つくづく腐った野郎だぜ。吐き気がする。誰でもいいからエチケット袋持って来てくれ。


「殺っちまえぇ!!」


 金髪の兄ちゃんの合図で、その場にいた全員が一斉に俺目掛けてバットやら何やらを振るう。


 えーっとぉ?1、2、3、4、‥‥‥総勢七人といったところか。

 ま、関係ねぇけどなっ。


『ガルルルルルッ!!!』

「「「「「「「グアァァァアアアアアッ!!!」」」」」」」


 奴らが俺目掛けてバットやらを振り下ろした瞬間、俺は背後の壁を使い奴らの頭上へと躍り出た。そしてそのまま飛び石の上を渡る要領でチンピラ共の肩や頭を伝い、突撃部隊の後方で一人高見の見物を決めていた金髪の兄ちゃんの前へと舞い降りる。

 もちろん、その過程でチンピラ共に多大なダメージを与えてやったことは、言うまでもないな。

 なぁに心配すんな、再起不能になるような攻撃はしてねぇよ。


「て、てめぇ‥‥!もう容赦しねぇぞ!!」


 容赦??そんなものしてくれてたんですか?

 いやー、なんか気ぃ使わせちまったみたいで、えらくすいませんね。


 あと一人、それも指示を出すことしか脳がねぇモヤシちゃんだ。俺はずいぶん余裕ぶってたんだろう。気を抜いて、向こうの出方を窺っていた。

 そして、


「うらぁぁああああ!!!」


 金髪の兄ちゃんは拳を振り上げ、愚直にも真っ正面から突っ込んで来た。


 そんなへっぴり腰じゃ農家のお婆ちゃんにだって笑われるぞ。


 俺は、殴りかかってくる右手をよけるように飛んだ。飛んだはずなのに‥‥‥。


『ぐっ!‥‥‥ガッ!?』


 な‥‥に‥‥‥!?


 俗に言うメリケンサックとやらで強化された奴の拳が、俺の脳をダイレクトに揺さぶる。

 弾き飛ばされた俺の身体は後ろの壁へと激突し、ぼろ雑巾のようにそのまま地面に崩れ落ちた。


 くっ!‥‥‥身体が思うように動かねぇ‥‥‥。さっきの攻撃で‥‥‥腹に、一発食らっちまってたか‥‥‥、しかも薬付きたぁ‥‥‥サービスいいじゃねぇのよ‥‥‥。


 朦朧とする意識をなんとか奮い立たせる。この意識の混濁が、奴のパンチによるものなのか腹部から吸収された薬によるものなのかは分からない。いや、恐らくどちらもだろう。


「へっへっへ、さっきの威勢はどうしたんだよぉ?お腹でも痛いんでちゅかー?ギャハハハハハ」


 奴の嘲笑う声が妙に腹立たしい。

 そしてそれ以上に、驕り高ぶっていた自分自身が何より腹立たしかった。


 ヤバいな‥‥‥、立ち上がるので精一杯じゃねぇか‥‥‥、身体が言うことを聞きゃしない。どうしたもんか‥‥‥。


「どうやら動くことすらままならねぇらしいなぁ?そっちから来ねぇならこっちから行くぞぉ!!」


 オイオイ、ベタなセリフ吐いてんじゃないよ。死亡フラグってもんを知らんのか?

 お前みたいな奴はな、そう言って負けていくんだぜっと!


『ガルルルル!!』


 俺は自慢の牙を剥き出しにし、野郎目掛けて地面を強く蹴ろうとしたが。


 ちっ!やっぱ力が入らなねぇや‥‥‥。


「このクソがぁぁああああ!!!」


 金髪の兄ちゃんの拳は地面すれすれを掠め、俺の顎骨を直撃し、意識が飛びそうなほど衝撃を俺の脳髄へと送り込んで来た。


 姉ちゃんの叫び声も聞こえた気がしたが、なにぶん頭がクラクラしてるもんでね。細かいことは割愛させてくれ。


「へへっ、口ほどにもない野郎だ」


 あークソぉ‥‥‥マジでやべぇな‥‥‥。意識が持って行かれそうだぜ‥‥‥。


「もういい!もういいよ‥‥‥。なんでそこまでするの?」


 さっきからギャアギャアギャアギャア五月蝿い人だなあんたも。ちょっとでいいから黙ってて貰えませんか?こちとら意識が彼女作って地平線の彼方へランデブーしそうな状況なんですよ。


「だってネコちゃんもう傷だらけで、三日間履き続けたおじいちゃんの靴下みたいになってるよ?」


 おーい、どういう意味だー。それもう存在価値ねぇじゃねぇか!つまりなんだ!?役立たずってことか!?

 姉ちゃん何気にエグいこと言うのな!くそぉ、だったらやってやる、やってやるよ!こんな野郎軽くあしらってやるよ!!オイてめぇらちょっと手ぇ貸せ!


(んー?僕たちに言ってるー?)


 ったりめぇだろ。あいにく俺一人の意識じゃ保ちそうにねぇ。不愉快だがお前たちの力を貸してくれ。ケルベロスモードでいくぞ。


(しかし、よろしいのですか?それですと、彼女に私たちの正体を知られることになります。それは彼女を余計に怖がらせることになるのでは?)


 サイズまでは戻さん。あくまで三首にするだけだ。


(それでも十分に化け物だよー)


 ここの路地幅はおよそ四メートル。ここから向かいの壁までなら三メートルもないだろう。

 だから向かいの壁を使って、奴の後方から奇襲をかける。なぁに高速で移動するからまず分かりゃしねぇよ。


(そう上手く行きますかね)


 体力的にも一撃で仕留めにゃならん。チャンスは一度っきりだ。次に奴が仕掛けて来た時を狙うぞ。


(はいはーい)


(分かりました)


 俺は震える足でなんとか立ち上がり、金髪の兄ちゃんをその目にしかと捉えた。


「こ、こいつ‥‥!まだ生きてやがる!」


 まだこいつらの力を借りるわけにはいかない。後ろには姉ちゃんがいる。最初のジャンプだけは俺一人の力で決める必要があった。


 くっ‥‥‥、まだ思うようには動かねぇか。せめて薬の効力が少しでも弱まってくれてると助かるんだがな。


 精神を落ち着かせ、後ろ足に力を込める。

 そして、


「うらぁぁああああ!!死ねぇクソがぁぁああああ!!」

『ガルルルルルルルル!!!!』


 力の限り地面を蹴り上げた。

 がしかし、


 ダメだ!加速が足りねぇ!!


 予想を上回る薬の効力に期待通りの力が出せず、俺の身体はまだ数メートルも飛ばない内に失速を始める。そして運のないことにそれは奴の右手の軌道上だった。


 あークソ、ダメだ。情けねぇが、ここまでか‥‥‥。


 俺がそう覚悟を決めたその刹那、奇跡は起きた。いや下手に奇跡なんて言葉は使いたくない。誰か知らねぇが力を貸してくれた奴がいる。

 金髪の兄ちゃんは右手を振り上げたまま、無言でその場に膝を着いて倒れた。


 何も聞こえなかった。

 何も見えなかった。

 何も臭わなかったし、何も触れなかった。


 ただ、何かが左から右に通過したのを感じた。

 例えるなら、透明な波のようなものが金髪の兄ちゃんの中をすり抜けていったような‥‥‥。

 今のが何だったのか、そして誰がやったのかを今すぐ暴き出して、そいつに罵詈雑言を浴びせてやりたかったが、今の俺にはそれが出来るほどの余裕はなかった。


 ふらつく足で地面に着地するのが精一杯、か‥‥‥。

 やれやれ、呆気ない幕切りだったな。


「ネコちゃん、大丈夫?」


 姉ちゃんがよろけながら俺の隣までやって来る。


 大丈夫なわけないっしょ。腹は痛ぇし頭はクラクラするし、ホント踏んだり蹴ったりだぜ。

 まぁんなこたぁいいからよ‥‥‥‥、ソーセージをくれ。


 俺が物欲しそうな目でそう訴えると、姉ちゃんは俺の言ってることの意味が分かったのか、


「もしかしてこれが欲しいの?」


 ポケットの中から一本のソーセージを取り出した。そっと差し出されたそれを口で受け取り、ビニールの包みごと噛み砕く。

 感想としてはビニールはない方が美味い。


「それ、最後の一本だから。それと、ありがとうね」


 ‥‥‥‥感謝されるようなことはやってねぇ。俺は俺のために動いただけだ。それ以上の意味はねぇよ。


 その後姉ちゃんは一言も喋らず、ただ俺をじっと見つめていた。初めは傷の手当てをしようとしてきたが、俺がそうさせなかった。時折頭を撫でてくるのが鬱陶しいが、それくらは好きにさせてやろう。

 俺はソーセージの味が消えるのを待って、その場を離れた。



 ◇



 姉ちゃんを家まで送ったあと、俺は左ヶ西町にそびえ立つ山の山頂へと足を運んだ。山っつってもそんなに高いわけじゃない。それにケルベロスモードで登ったからな。体力的にも余裕だった。

 俺は今、頂上に根を下ろしている一本の立派な杉の木に身を寄せて、煌めく星空を見上げている。

 ところで杉の木の隣には古びた社が立てられているんだが、その社の守り神ってのが驚くことになんとコイツだ。


(ニャーー)


 おいお前いい加減にしろよ?さっき打ち合わせしたろ!ちゃんと喋れよ!!


(ニャニャアー)


 ダメだコイツ早くなんとかしねぇと。

 あー、まぁ気づいただろうが、前に会った金華猫だ。なんでも黒人坊主に捕まった際、罪滅ぼしとして三年間この社を守り続けろと命じられたらしい。ご苦労傷み入るね。


(我が名はニャッキー・チェーン)


 オーイ、もう一回坊主よんで来い。なんなら猟友会に言って射殺してもらっても構わん。

 ったく、付き合ってらんねぇぜ。


 俺は金華猫を無視して再び夜空を見上げる。

 俄然に広がる星空。これがまた格別に美しい。無数の星たちが織り成すこの輝きは、決して地獄では味わえなかった感動を俺に与えてくれる。なあ?そう思わないか?


(アイム、スニャットマン)


 本当にダメだなコイツ‥‥‥。


 それからいったいどれほどの時が流れただろうか。俺は自然と今日の出来事を思い出していた。


 はぁ、にしても今日は散々な日だったぜ。あの時ドッグフードで我慢しときゃ良かったと、つくづく思うね。

 やはり変な気は起こすもんじゃねぇな。勝手に助けに行って、勝手にボロボロなって、勝手に負けて、挙げ句の果てに誰とも知らん奴に助けられたなんて、カッコ悪いにもほどがあるぞ。とんだ大バカ野郎だな俺は‥‥‥。


 そう思った直後、ハッとして気づく。


 何言ってんだ俺は?アホか!

 いやいや、これは一瞬の気の迷いだ!一時的な脳の錯乱による妄言だ。決して俺の本心ってやつじゃない。薬の効力がまだ続いているんだきっと!薬が俺の脳を惑わしちまったに過ぎん。それで心にもないことを言っちまっただけだ。ホント何を世迷い言を。


 “大バカ野郎”


 だと?んなわけあるか!俺がバカな人間共と一緒だって言うつもりか!?認めん!断じて認めん!

 身勝手でお人好しで自分のことより他人の幸せを優先するような連中だぞ!?そんなバカな奴らと俺が一緒だってのか!?ふざけるな!名誉毀損で訴えるぞ!

 俺は人間が大嫌いなんだ!少なくとも今まではそう思っていたはずだ!

 じゃあ何故だ?何故あんなことを言っちまったんだ?薬のせいか?星空を見て感傷的になったせいか?本当にそれだけか?


 俺の中で何かが変わった?


 いやいや無い。それは無い。あったとしても無い。あって欲しくない。一回でいいから待ったをかけさせてくれ。

 だってそうだろ?人間と生活する内に考え方まで人間に近づいちまったなんて、想像しただけでも反吐が出る。なんの冗談だ止めてくれ。笑えねぇぞ。

 いかんな、頭に血が上ってやがる。熱くなり過ぎだ。ここは一旦心を落ち着かせよう。深呼吸だ深呼吸。大きく吸って小さく吐く。これの繰り返し。

 バカやろう!肺胞が破れるわ!

 待て待て待て待てい!話が脱線し過ぎて事故起こしてるぞ!落ち着け俺、落ち着いて考えろ。初心に帰れ。好き嫌い云々以前にあるだろ?そう、それだ。ずっと言い続けて来たそれだよ。


 人間はバカだ。


 そう人間はバカなんだ。どんなに状況が変わろうがこれだけは変わらねぇ。危うく見失うところだったぜ。ふう、一件落着。‥‥‥‥してねぇよな!?何も解決してねぇよ。

 人間がバカだってのはよく分かってるさ。それはいい。それはいいんだよ。

 じゃあ俺はそんなバカな人間をどう思ってたんだ?

 もちろん大嫌いさ、と答えるのは簡単だがもっと明確な答えが欲しいよな。俺は人間がバカだから嫌いなのか?いや待て違うだろ。人間がバカで俺はバカじゃないから嫌いなんだ。

 つまり自分と違う奴を受け入れたくないだけなんだろ?分からないから拒絶した。ただそれだけなんだよな。

 だったら答えは二つに一つだ。これからも拒絶し続けりゃいい。他人が苦しんでようが対岸の火事決めてりゃいい。無視しろ無視。相手にすんな。下手に構うなほっとけ。わざわざ火の粉を被りに行く必要なんてねぇんだよ。火事は消防士に。事件は警察に任しときゃいいんだ。法家的に行こうじゃねぇか。人間のことは人間に解決させろ。もう一度だけ言うぞ?“面倒事には首を突っ込むな”そうだ、それでいい。賢く生きて行きゃいいんだよ。わざわざ自然界のルールを犯す必要なんてないだろ?誰も責めやしねぇさ。だから、見捨てちまえ。関わるな。自分が生きることだけ考えろ。









 けど、俺はそうしなかった。

 違うとは言わせねぇぞ?姉ちゃんを助けに行ったろ。何でだ?見捨てられなかったからだろ?神経がピリピリして、ここで引いたらダメな気がしちまったんだろ?他人を見捨てようとする自分が、無性に腹立たしかったんだろ?なぜだ!?

 もう答えは出てるんじゃねぇのか!?


 つまり俺は自分の身も顧みず他人を助ける大バカ野郎に成り下がっちまったってことだよ!!


 あーあ、クソ。落ち着いたおかげで嫌なことに気づいちまったじゃねぇか。どうしてくれんだ。要するに俺は!


『バウゥゥゥッ!!』


 俺は人間が好きになっちまったってことじゃねぇか!!!


(ニャアニャアッ!!?)


 あークソ!そうだよ!つまりそういうことだよ!認めてやるよ!認めてやろうじゃねぇのよ!!

 俺は人間が好きだ!バカで、お人好しで、地獄の番犬でも家族にしちまうようなあいつらが、どうしようもなく好きなんだよ!


(ついに中首も美女への愛を語るようになりましたか。私は今猛烈に感動していますよ。しくしく)


 てめぇの変態的思考と一緒にすんな!ついでにここで出てくんな!


(中首はツンデレさんだねー)


 黙れカス!オイお前らいい加減にしろよ?今日、俺の妨害しかしてねぇだろ!?


(人は、生きとし生ける全ての生命の中で最も醜く愚かである。自らの幸福を追求するためなら同族同士で殺し合うこも厭わない。挙げ句の果ては、母なるこの星さえも傷つけ死に追いやろうとしている。それこそ、彼ら種族がいなくなりさえすれば地球の環境は確実によい方向へと向かうことは明白だ。しかし、時折見せるその慈愛の心こそが、神が彼らを見捨てない最大にして唯一の理由ではなかろうか?そして君はその心に触れ、それ学び、受け入れることを選んだのだ。それは恥ずべきことなどではなく、むしろ誇るべきことなのだと私は思うのニャア)


 お前金華猫かァァァ!!!最後の最後まで誰か分からんかったぞ!!つーかお前すげぇ喋れるのな!!

 ったく、最後の最後でグダグダになっちまったじゃねぇか。どう収集つけりゃいいってんだよ。俺たちの冒険はこれからも続く!とか言っときゃいいのか?それとも、おめでとう言って拍手しときゃ満足か?続きは劇場でってやつか?



 まぁ‥‥‥何にしろ、これからどうするかは今の俺には分からん。と言うよりもまだ決めてない。とりあえず今日はこの山で野宿だな。暑さと虫の多さが気に入らねぇが、キャンプだと思って諦めよう。家に帰るか否かは明日決めることにして、今は‥‥‥、


 俺は広がる星空から不意に視線を落とし、街灯やネオン、ビルや民家の放つ淡い光の集合体に目を向ける。



 ‥‥‥人間の作る光も、捨てたもんじゃねぇな。



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