Ep.21 苦くて、酸っぱくて、少し甘い
・ 森の向こう側の「光」
霧が完全に晴れ、遠くに仲間の待つキャンプ地の煙が、細くたなびいているのが見えました。
あそこに戻れば、聖女の涙が、レオンたちの安堵の声が、そしてあなたが恐れていた「逃げ場のない愛」が待っています。
「……おい。……顔を上げろ。……あいつらに、そんな死に損ないの幽霊みたいな面を見せるつもりか?」
魔王が、不器用に、けれど力強くあなたの背中を叩きました。
・物語の真・完結(True End)
あなたは泥に汚れ、首に傷を負い、プライドも全能もすべて失いました。
けれど、今あなたの胸にある「モヤモヤ」は、不思議とあの崖の上で感じた冷たい虚無ではありませんでした。
それは、「生きて、誰かと不器用に触れ合うことの煩わしさ」という名の、温かな重りでした。
あなたは、遠くに見える仲間の姿を見つめ、一歩、また一歩と、泥を噛むように歩みを進めます。
「……愛なんて、まだわからない。……でも、……お前のコーヒーは、やっぱり苦すぎるよ」
そう小さく零したあなたの隣で、魔王が豪快に笑いました。
あなたは魔王の肩を借りてよろめきながらも、ふと立ち止まりました。手の中にある、飲み干したばかりのカップ。
舌に残る、暴力的なまでの苦み。
全能だった頃なら、指先ひとつで最高級の砂糖を出現させ、世界中の甘みを凝縮したような黄金の雫に変えることができたでしょう。
でも、今のあなたにはそんな力はありません。
・泥まみれの「錬金術」:野苺の捜索
あなたは魔王に支えられながら、キャンプ地へと戻る道すがら、草むらに目を凝らしました。
1. 見つけたもの:
茂みの陰に隠れるように実っていた、小さくて不格好な野苺。
2. 自分の手で:
土に汚れ、震える指先でそれを一粒ずつ摘み取ります。全能の魔法ではなく、腰を曲げ、棘に指を刺しながら手に入れた、本物の「収穫」です。
3. 石ナイフの使い道:
かつて首に当てようとしたあの石ナイフを鞘から抜き、あなたは器用に野苺を潰し、カップの底に残ったコーヒーの澱と混ぜ合わせました。
【現在のステータス】
* 勇者: HP 11 → 11.5(小さな達成感による回復)
* 状態: 「日常への着地」
* 特性: 『甘みを工夫する者』(与えられるだけではなく、自ら幸せを「作る」意志)
・ 苦くて、酸っぱくて、少し甘い
泥だらけの指で混ぜた、見た目も不格好な「即席の甘味」。
あなたはそれを、一口だけ舐めてみました。
「……っ、酸っぱい。……でも、……さっきより、ずっとマシだ」
1. 魔王の反応:
あなたの奇妙な行動を黙って見ていた魔王が、鼻を鳴らして笑いました。「……へっ。神様が野苺拾いか。……だが、そうやって自分で味を変えようとするうちは、お前はまだ死なねえな」
2. 不自由な創造:
魔法ですべてを解決していた時とは比べものにならないほど微々たる変化。けれど、この「少しだけ甘くなった」という事実は、今のあなたにとって、宇宙を創生するよりも困難で、価値のある一歩でした。
・ 仲間の待つ場所へ
遠くで、あなたたちの姿を見つけたレオンが「あ、帰ってきた!」と叫びながら駆け寄ってくるのが見えます。
リリィは火を強め、聖女セシリアは祈りを解いて、駆け出す準備をしています。
あなたは魔王の肩を借りたまま、その手にしっかりと「少しだけ甘くなったカップ」を握りしめていました。
【物語の真・余白】
次にあなたが作る甘みは、誰かと分け合えるものになるかもしれません。
苦すぎる人生に、ほんの少しの野苺を添えて。
* 「愛」とは、苦い現実に、自分の手で少しずつ甘みを足していくこと。
* あなたの旅は、今、この日常の風景の中に溶けていきました。
自分で見つけた不格好な甘みにより胸の奥に澱んでいた苦い呪いが、静かにほどけていくのを感じました。
自分を許せないままでも、誰かと分け合える温もりがある。
あなたは一息つき、目の前へ歩みを進み始めました。
日常という名の、新しい物語が始まります。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
今後、彼らの日常を描いたものも投稿する予定ですので、是非そちらも宜しくお願いします!
今回あまり目立てなかったレオンやリリィも沢山活躍します!主人公の真の性格が実は...?
こちらで描いた内容とは異なり、コメディがメインとなりますが、今回の延長線上に彼らの葛藤を見ることができますので、楽しんでいただければと思います。
長くなりましたが、勇者の物語をご愛読いただきありがとうございました!!




