Ep.13 隠した涙
・ 揺らぐ天幕
あなたが泣きじゃくっていると、天幕の入り口が、わずかな風と共に揺れました。
誰かが戻ってきたのか、あるいはただの風のいたずらか。
あなたは慌てて腕で目元を拭い、濡れた枕を隠すように顔を背けて、再び「寝たふり」を決め込みました。
荒くなった呼吸を必死に整え、規則正しい寝息を装います。しかし、涙で熱くなった目蓋の裏側では、後悔と恐怖が火花のように散っています。
・忍び寄る「日常」の音
パサリ、と天幕の入り口がめくれる音がしました。
入ってきたのは、軽い足取り……聖女セシリアです。
彼女はあなたが起きていることに気づいているのか、いないのか、何も言わずに枕元に近づきました。
1. 聖女セシリアの沈黙:
彼女はあなたのすぐそばで膝をつきました。あなたが「寝たふり」をしていることを悟っているのでしょう。
彼女の手が、そっとあなたの濡れた髪に触れ、優しくなでました。
「……まだ、熱がありますね」
その声は、あなたの「嘘」を暴こうとする鋭さなど微塵もなく、ただ傷ついた小鳥をいたわるような、あまりに透明な響きでした。
2. 魔王の気配:
天幕の外から、魔王が薪を割る乾いた音が響いています。その「生きた音」が聞こえるたびに、あなたは自分がついた「魔物に襲われた」という嘘の惨めさを突きつけられます。
【現在の隠れたステータス】
* 勇者: HP 2 / 20(精神的過緊張)
* 状態: 「限界の擬態」
* 特性: 『濡れた枕』(隠しきれない悲しみが、頬を伝ってシーツに吸い込まれていきます)
・ 瞼の裏の攻防
聖女の手のひらの温もりが、あなたの冷え切った額にじわじわと浸透していきます。
彼女を騙しているという罪悪感が、喉の奥までせり上がってきて、今にも「ごめんなさい」と叫びだしたい衝動に駆られます。
あなたは、聖女セシリアの温かな手が髪に触れるのを感じながら、石のように動かず、ただ「寝たふり」を貫きました。
嘘をついた自分、自分を傷つけた自分、そしてそれを隠し通そうとする惨めな自分。
それらすべての思考が、彼女の規則正しい手の動きと、天幕を撫でる風の音に溶かされていきます。
・ 偽りから真実の眠りへ
あまりの精神的な消耗と、数日間の衰弱。
「寝たふり」をしていたはずのあなたの意識は、聖女の慈愛に満ちた体温に導かれるように、次第に深く、抗いようのない闇へと沈んでいきました。
1. 聖女セシリアの囁き:
あなたが本当に眠りに落ちたことを察した彼女は、そっと耳元で囁きました。
「……おやすみなさい、勇者様。……嘘でも、本当でも、あなたが今ここにいてくれるなら……私はそれだけで幸せですよ」
2. 魔王の足音:
外で薪を割り終えた魔王が、静かに天幕を覗き込みました。聖女が人差し指を口に当てて「しーっ」と合図するのを、彼は満足げに頷いて、再び見張りに戻りました。
【現在のステータス】
* 勇者: HP 2 → 6 / 20(深い、本当の眠りによる回復)
* 状態: 「逃避の眠り」
* 特性: 『偽りの安息』(目覚めたとき、また嘘の続きが待っていることを、今は忘れています)
・夢のない暗闇
今度の眠りには、悪夢も、全能の傲慢も、血の匂いもありませんでした。
ただ、真っ白な霧の中に閉じ込められたような、ひどく静かで、ひどく寂しい、けれど穏やかな時間。
あなたは、目覚めるその瞬間まで、自分がついた「魔物に襲われた」という嘘を、心の奥底に封印しました。




