7 本音
「俺は別に構わないが……」
「良かったですぅ、ハロルド事務長、それでリドゲート事務長!」
約束をしていた彼は、アイリスやリオンと同期として入った友人であり、同じ部署だ。
しかし部下たちがいては話しづらいこともあるのでこうして食事時にゆっくりと話をすることが多い。
今日は先日のリオンとのことを話そうと思っていたので、話題としては間違っていない。
けれどもそれでもハロルドに申し訳なく思いながらも、アイリスたちは三人でテーブルを囲んだ。
「はぁ……すみません。ハロルド」
「いや、まぁ……たまにはあるよなこういうことも」
「ええ」
アイリスが謝罪すると彼は、その少し疲れた顔に、同情してフォローしてくれる。
しかしずっとこうして、コールマンをこのままにしておくわけにも行かずにアイリスは運ばれてきた食事を見ながら口にした。
「それで、リオンのでしたね」
「はい、そうですよぉ」
「結婚することになりました」
「え」
そして簡潔に、結論を述べた。
目の前に座っていたハロルドはバッと目を見開いて「え、あ、お、おめでとう! 長かったなここまで」と反射的に祝いの言葉を述べる。
嬉しそうにそう言ってくれるハロルドに、アイリスは小さく笑みを浮かべて「ありがとうございます」と返す。
しかし、案の定、コールマンは「え、えっ?」と混乱した声を出してアイリスに言った。
「あ、ありえないんですけどぉ!?」
「そうですか?」
「っだ、だって、リドゲート事務長、離婚歴があるじゃないですかぁ!」
声を荒らげて、不満そうな瞳をアイリスに向けた。
「おかしいですよ。歳だってもう、ずいぶん私たちみたいな女の子に比べたらおばさんですし!」
「……」
「そもそも、女なのに離婚されても恥ずかしげもなく復職して、男の人みたいに地位を求めて働いて、卑しいっていうかっ」
「……」
「私みたいに腰掛けで事務官になって可愛くて女として完璧な子がたくさんいるにもかかわらず、な、なんでリドゲート事務部長みたいな人選ぶっていうんですか」
……おばさんね……まぁ、二十歳にもなってない子からすれば間違いではないわね。
コールマンの言葉にアイリスは、最初の一言だけは同意するがそれ以外については気分のいい言葉とは言えなかった。
「ありえないですよ。そもそも、こんな歳まで働いてるっていうのがダサすぎるのに、なんでそんな人が━━━━」
「おい、そのあたりにしてくれ、気分悪い」
言い分は最後まで聞く派のアイリスは、コールマンのことを見つめて静かに聞いていたが、ハロルドはピシャリとした声で言った。
その言葉に驚いて、コールマンは言葉を止めて彼を見る。
「いくらなんでも、失礼過ぎる。それに誰も、アイリスが働いていることを卑しいだなんて思ってない……そんなこともわからないのか? もっと良く人を見てから発言するべきだ」
「っ……」
「それができないなら、もっと他にやるべきことがあるだろ。勉強とかな」
彼はとても厳しくコールマンにそう言い含めて、じっとその目線を向ける。
しかし彼女は納得いかなそうな顔で俯いてハロルドのことを睨みつけるだけで、謝罪の言葉も出てこない。
そんな彼女に、アイリスもハロルドだけに怒らせて、自分は放置するつもりはなく、まずこういう時には謝罪をと彼女に伝えようとした。
「コールマ━━━━」
「でも女性でなくてはいけない侍女職でもないのに、こんな年増で働いているのなんて惨めだって皆いってますしぃ、別にもう、良いですよ、もう知りませんっ」
そして彼女は早口でまくし立てて、席をたち、プンスカと怒った様子で勝手に去って行ってしまう。
「……」
そんな常識外れの行動にアイリスはぽかんとして、それから渋い顔をしてハロルドに謝罪をした。
「ごめんなさい。ハロルド、私の教育不足ね」
「……いいや、別に。……いくら部下でも、その人格まで教育する側の責任とは思わないな」
「……ありがとう」
「それで、まぁ強烈ではあったが、一旦置いておいて、俺にも教えてくれよ。アイリス、やっと結ばれることになったんだろ?」
そう言って彼は、ぱっと明るい笑みを浮かべる。そんな彼の様子にアイリスは、小さく頷く。
予期せぬ邪魔が入ったけれど、そのことは一旦忘れて彼にあった出来事を話したのだった。




