2 答え
「全部があなたのおかげで回っていて、すべてがあなたの功績で今の生活があるなら、私なんていりませんね」
「……」
アイリスが言うと、レックスはキョトンとして眉を少し上げた。
「一人でいいじゃない。あなた一人で好きに生きたらいいのよ。あなたの人生に私は必要ないし、もちろん、私の人生にもあなたなんて必要ないわ。私だって一人で生活できるから」
「……なっ、なにをいって」
「だから、いらないでしょう。お互いが。お互いが無駄だと言っているのよ」
アイリスはにこやかなまま冷たく言い放った。
レックスはただ、混乱した様子で「は?」「なんで?」と短い疑問の声をあげている。
「どうぞお一人で生きて行ってくださいね。全部あなたの力で今の生活のすべてがあるんでしょう? ならあなた一人で全部十分ね。他人なんて無駄でしょう」
「……い、いや、違うだろ。俺にだから、君はもっと感謝をすればそれで……」
「ふふふっ、いやね。レックス。どうして私があなたにへりくだって感謝してまで、あなたのそばにいないといけないの? いいわよ。私、自分できちんと稼げますから」
「……」
「あなただって、全部自分一人で稼いでるのにどうしてこんな女を養わないといけないんだって思っていたんでしょう?」
「……」
「ちょうどいい機会でしょう。あなたの努力の結果は全部自分の為に自分だけを養うために使えばいいのよ。私はもういらないわ」
言いながらアイリスは少し行儀が悪いと思ったがもう、この場に用はなくて、席を立った。
すると、レックスは咄嗟にテーブルに手をついて同じように立ち上がる。
「ま、待てよ! い、いいのか? このままじゃ離婚だぞ!」
切り札のように彼は結婚生活自体を引き合いに出して、アイリスは、その言葉に、少し立ち止まって小首をかしげた。
「今更離婚して誰が君の手を取る? 仕事だってブランクもあって、それに伯爵夫人という立場で、自堕落に生活していた君になにが━━━━」
「あら、もしかして私に縋っているの? あんなに全部自分のおかげでと恩着せがましいことを言っていたのに?」
「っ……そんなことあるわけないだろ! 俺は離婚なんて願ったりかなったりだっ!」
「じゃあ、成立ね、今までありがとう」
アイリスとレックスがその言葉を交わすと、丁度給仕のためにやってきた侍女がキョトンとしながら二人のことを見比べる。
それから、メイン料理の乗ったお皿を適当に置いて、さっさと手を拭いて去っていく。
続いてレックスのそばにいた従者が、はぁーとため息をつきながらタイを緩めて、ダイニングホールの出入り口に向かって歩き始めた。
アイリスも侍女を引き連れて、扉を開けてもらい、厨房の方からも人が出ていく。
ぱたぱたと駆けていく女性使用人、軽蔑する視線を向ける男性使用人。
「なっ、は? おいっ、おい!」
レックスが声をあげるが誰一人止まることはなく、アイリスや使用人たちは、その日のうちに多くの者がこのウルフスタン伯爵邸を後にしたのだった。




