11 直訴
リオンは元上司であるクラークソン事務部長の元を訪れていた。
業務も終わり皆帰宅するころだったので、アイリスは見当たらなかったが彼女が呼び戻した女性たちが楽しげに事務官たちと会話をしているのが見て取れた。
その様子に、アイリスの行動が功を奏したのは言うまでもないことだろうと思う。
そしてリオンが何をしに来たのかと言えば、専属事務官として先輩にあたる人に、今日の出来事のお伺いを立てて、必ずタイミングよくアイリスを引き抜けるように情報を収集してこいと言われたのだった。
そもそも、復職する以前、勤めていた時から、彼女の出世は早かった。
それを彼女自身は実家の権力のおかげだと口にしているがリオンは全部がそのおかげだとは思わない。
八割ぐらいはアイリス自身の力だと思う。
今回のことのように、彼女は国としても、事務官全体としても恩恵があるようなよく考えられた戦略を打ち、そのたび毎度のことのようにめきめきと評価を伸ばしている。
さらには人当たりもよくて、アイリスのことを疎ましく思う人間はよっぽど性格がひねくれている人間ぐらいだ。
そんな彼女が結婚するときにはとても惜しまれていたので、レックスの件は正直、ある種の必然のような気すらする。
「失礼します。クラークソン事務部長、先日話をしていた……」
入室を許可されて、リオンは中に入りながらとりあえず、女性たちの復職はおおむね好評を得ているのだろうという感想を伝えようと口を開いた。
しかし、中には気の強そうな若い女性の姿があり、ふわりとした金髪が揺れている。
「……」
「おお、マーウィン君か、すまないな。約束していたのに。……ただ、少し待っていてくれるか」
「はい。もちろんですよ。……でも俺ここにいていいんですかね」
「かまわん。むしろ君からも何か言って欲しいぐらいだ」
彼はくたびれたようで、腕を組んで女性を見上げる。
リオンは一瞬どういう意味か分からなかったが、彼の机のそばによると、ちらりと彼女はリオンのことを見て「ど、どうしてここに……」と少し頬を赤らめる。
その様子を見てリオンは彼女が、アイリスの話にたまに登場するコールマンという女性だということに気が付いた。
「……」
「気にせず、離せ。それでなんだったかな? 私の予定をないがしろにしてまで言いたいことがあったんだろう?」
クラークソン事務部長は苛立った声で彼女を促す。
すると彼女はリオンのことを気にしつつもキッと強い視線を向ける。
「もちろんですよぉ、絶対! おかしいです!」
「……」
「あんなおばさんたちを連れてきて、絶対みんな迷惑してるんですぅ! 事務部長だってぇ、あのおばさんに言われて断れなくてこんなことしたんでしょお!」
どうやら、彼女はアイリスから聞いていた通りの人物らしく、決めつけて事務部長にまで文句をいいにきているらしかった。
そしてきっと彼の予定を無視してまで頼み込んでこうしているのだろう。
アイリスがそんなことを許すはずもない、それなのにこんなことを一事務官の身でして……正直非常識という言葉しか思い浮かばない。
「そ、それにぃ、リオン様だって本当は若くて可愛い子がいいはずなのにぃ、リドゲート事務長に付きまとわれてぇ、結婚までさせられてぇ、あの人って横暴で、人を使って自分の嫌いな子いじめて性格さいっあくすぎますぅ!」
「……」
「今すぐやめさせた方がいいですよぅ! そのはずでしょお! あの人は私が間違ってるなんて言ってたけどっ違いますからぁ!」
リオンが静かに聞いていると話はどんどんと飛躍していき、事務部長が腕を組んだまま拳を握って、怒りをこらえていることがわかる。
そしてリオン自身も、あまり他人に抱かないタイプの感情を覚えて、息を細くして吐いた。
……自分はあんまり怒りっぽい方じゃないと思ってたんだけれど……案外、頭に血が上るな……。
自覚しつつも、リオンが口を出す場面じゃないことはわかっているので口を閉ざして、事務官長を見つめた。
「すぐ、あんな人、降格か解雇してください! そうじゃなきゃ困るんです!」
「……」
「事務部長!」
「……君は、あそこまでリドゲート君が教訓を与えてくれたというのに、まったくもってなにも理解できないのだね」
怒りを抑えて冷静に彼は言ったが、その瞳はすっかり呆れと失望にあふれていて、その様子をリオンは珍しく思った。




