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3-①

実験棟を出た三人は学院の中を歩いていた。放課後の今はあまり人がおらず、特に誰ともすれ違わない。前を歩くマーチャは聖女の場所を知っているのかと思うほど足取りに迷いなく進んでいくが、実際は特に何も考えていないのだろう。彼女の後ろを並んで歩いていたアインはふと気になっていたことをアネットに尋ねた。

「そういえばアネットに聞きたいんだが」

「なんだい?」

「お前たちが幼馴染というのは最初の方に聞いたが、それでもそんなに面倒見がいいものなのか?」

「うーん。どうなんだろう?ほかに幼馴染を知っているわけじゃないから何とも言えないけど……」

 アインの言葉は二人を見て思ったことだった。まだ長い時間二人と一緒にいるわけではないが、アネットはマーチャのことをよく見ているし、マーチャもまたアネットのことを頼っているように思えた。先ほども実験棟を出てすぐマーチャの白衣が着崩れているのに築いたアネットはそれを直してやっていた。年ごとの男女と言えるような甘酸っぱいものはなく、これが幼馴染の距離感だと言われればそうかもしれないが、それ以上に二人の仲は深いものにアインは思えた。

「あー、見てもらってればわかると思うんだけどマーチャって日常生活に凄い怠惰なんだよね」

「あぁ。確かにさっきもキーツだったか?世話を焼かれていたな」

「そうそう。僕はそれこそ昔からマーチャの傍にいたからその癖が今もでてるって感じかな」

「なるほどな」

 アインはそう言って実験棟の様子を思い出す。確かに普通であれば両手が不便とはいえ、人からの世話をあれほど抵抗なく受け入れる者も少ないだろう。そう思えるほどに彼女は世話を焼かれるのに慣れていたと思う。あれは目の前にいる男によって慣らされたのか、それとも彼女が元からそういう性格だったのかどっちなのだろうとアインが考え始めた時、アネットが小さく呟いた。

「あとはまぁ、僕が約束は守るタイプって話しなだけかな」

 耳に届いたそれに対してアインが何かを言う前に、マーチャの言葉が二人の意識を前に戻した。

「見つけた~」

 彼女の言葉通り、三人の視線の先には人気のない外廊下を歩くミーアの姿があった。どうやら今は一人でいるらしく、カバンを持っている様子から下校なのかと窺える。さて、これからどうするのかとマーチャに声を掛けようとしたアインとアネットだが、そんな彼らを置いてマーチャはミーアに突撃していた。

「あ、いたいた~こんにちは~聖女様~」

「え、あの?」

 いきなり現れたマーチャに聖女と呼ばれたミーアは驚く。そしていきなり突撃すると思っていなかったアネットとアインは彼女以上に驚いただろう。そんな周りのことなど置き去りにしてマーチャはずずい、とミーアに近づく。長い髪を一括りにして白衣を着ている彼女は見る人間が居れば研究者と思うかもしれない。しかし白衣の下は現在包帯だらけで、顔にも様々な薬効の薬を塗っている彼女の姿は多くの人間が不審者だと思うだろう。ミーアもそれを思ったのだろう。近づいてくるマーチャを恐れるように少し距離を取ろうとしていた。

「あ、あの。どちら様ですか?」

「ん~?僕はマーチャ。聖女様を見に来たの~」

 答えになっているようでなってない発言をしたマーチャにミーアは恐怖の色を強くする。流石にまずいと思ったのか、マーチャの肩をアネットは後ろから掴んだ。

「マーチャストップ。ミーア嬢彼女が失礼しました」

「あ、いいえ。えっとアネット様で合っているでしょうか。同じクラスの」

「はい。ついでにこちらはマーチャ・ネッド。僕の幼馴染で一応特待生で同じ学院の生徒です。怪しいものではないのでご安心ください」

「そ、そうですか」

「いきなり名前じゃないもので呼ばれれば誰でも驚くとは思うがな」

「マーチャですので……」

 苦し紛れに言うアネットにアインは笑うが、ミーアはそれどころではなかった。それほど仲が良いわけではないクラスメイト二人と全く知らない学院の生徒に囲まれ、しかもその内の一人は王族で去る。彼女は誰が見ても困っているといった様子だった。アインもアネットもそれに気づいたのだろう。落ち着かせようと思ったとき、二人にとっても聞きなじみのある声が響いた。

「ミーア!」

「カベル様!」

 走ってきたのだろう。息を切らして近づいたカベルはミーアの肩を抱いて自分に引き寄せる。そして彼の目は怒りを抱いており、アネットとアインの二人に視線を動かした。

「お前たち、何をしているっ」

「カベル様。なにか誤解をしているかと思われます。僕たちは今彼女に話を聞こうかと思っただけです」

「本当か?」

「本当だカベル。アネットのいう通り俺たちは、というよりも実際はマーチャだが、彼女に話を聞きに来ただけだ」

「マーチャ?話を聞きに来ただけならなぜ彼女はこんなにも怯えている?少し離れた場所からでも彼女の怯えようがわかったぞ」

 ミーアの肩に置かれた手に力が入ったのだろう。彼女は少し苦しそうな顔をした。しかしそれ以上に安心したのだろう。先ほどまでの怯えた表情はない。カベルの顔も怒りを目に宿しているものの、自分たちの話を聞いてくれそうだと判断した二人はカベルの言葉に顔を見合わせ、視線を下に向けた。

「怯えしまった理由ですが……カベル様の斜め下にいる者のせいかと……」

 アネットが申し訳なさそうに顔を伏せる。彼の発言にカベルは視線の先を見る。そこには壁に凭れて座り、じっとカベルとミーアの二人を見るマーチャの姿があった。


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