2-②
「時間を取って貰いありがとうございます」
「いや気にしないでくれ」
昼になり、二人は人気のない東屋にいた。周囲に広がるのは手入れのされた草木だけで、少し離れた場所にアインの従者が一人いるだけだった。先に用意されていたお茶を啜ってアインはアネットに声を掛ける。
「アネット、話に入る前に聞いてほしいんだが、できれば俺と二人のときはあの時のように話してほしい」
「あの時のですか?」
「あぁ。お前なら知っているとは思うんだが、俺には友人と呼べるような人が周りにいなくてな……それで、もしお前が良ければだが友人になってくれないか」
アインの急な発言にアネットは思わず目を驚かせる。そしてそっとカップを置いて真っすぐにアインを見た。
「それはあの日がきっかけだと思っていいのかな?」
「あぁ。気を悪くしたか?」
「いや、友人なんてふとした縁でできるものだし、きっかけなんてものはいつ作られるのか、どうやって作られるかなんてわからないからね。気を悪くなんてしないし、友になってくれなんて素敵なお誘い歓迎だよ」
「ありがとう、アネット」
アネットから差し出された手をアインは握る。見た目以上にしっかりした手に驚いた顔を浮かべたアインにアネットは屈託なく笑った。他愛のない話を少ししてアネットは本題に入る。
「あの話だけどアインはどう思っているのかな、っていうのを先に聞きたいんだ」
「『死の庭』についてか」
「そう。あの土地は僕たち王国に住む人間にとって忌み地だ。王様の名前は知らないけれど、あの土地に触れてはならない、入ってはならないってことなら平民の子供でも知っている。それくらいあの土地は僕たち王国の民にとって恐れられている場所だ」
アネットの言う通り、あの土地は嫌われている。いや、恐れられている。死が色濃く残る土地として罪人が送られているのもそれを助長させているだろう。人によっては話に名前を出すのを嫌がるものもいる。そんな土地についてアインはどう思っているのか。
「俺は王宮に暮らしているときからあの土地の名前を出す人間を見たことがない。けれどその恐ろしさは母や乳母から聞いていた。それから自分の中であの土地に触れてはならないんだと勝手に思い込んでいた」
机に置かれたアインの手に力が入る。アネットは黙って彼の話を聞いていた。
「けれど先日彼女が一つの街の名前を言うように彼の地の名前を出した。そしてお前もそれに恐れるようなことはなかった。俺は自分の視野が如何に狭いかって言うの味わったよ。なにより王族の人間として王国のことは知りたいと思った」
アインの目にははっきりとした光が宿っていた。
「あの時彼女は聖女という言葉を口にした。王国に残る伝説で『死の庭』と聖女に関係があるのは事実だが、それだけではないものがきっとあるんだろう。俺たちは伝説しか知らないが、それだけではいけないと思った。それにもしあの土地が使えるのに放置しているのならそれはとても勿体ないことだ」
「そっか」
アインの言葉を聞いてアネットは静かにカップのお茶を啜る。アインの言葉の中に『死の庭』に対する嫌悪感はなかった。それどころか彼は勿体ないと言った。それはどれだけ前向きな言葉だろう。実際に『死の庭』を見ていないからの発言かもしれないが、国を思っているからこそ出て来る言葉だろう。
「アイン。今日の放課後は空いているかい?」
「あぁ。空いているが」
「案内するよ。マーチャの所に。彼女に沢山聞くと言い」