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1-②

「というわけだよ~」

「なにがというわけで学校の敷地内で男性を拾うことになるんだ。しかも……王族の一人じゃないか……」

 アネットと呼ばれた男はため息を吐く。彼の視線の先には王族と呼ばれた男が再びベッドに横たわっている。その体は黒い帯のようなもので拘束されており、先ほどのようなことはできないだろうと思われた。男を拾った経緯を離した部屋の主であるマーチャはメイド服の女が煎れたお茶を飲みながら紙になにかをまとめているようだった。

「それでマーチャお前は彼に何をしたんだ」

「別に~怪我してたから治しただけだよ~」

「怪我?というよりお前は……彼が王族の一人だということに気が付かなかったのか?」

「お嬢が認識しているわけないだろ」

「そういうキーツ。君のことだわかってたんだろう?君じゃなくてもメイなら間違いなくわかったはずだ。だから僕が来たんだからね」

 そういってアネットは胸ポケットから緑に紫の線が入った紙で折られた鳥を取り出す。アネットのそれにキーツはメイと呼ばれたメイドの女を睨みつける。その目を受けながらも彼女は粛々とマーチャとアネットの空になったカップにお茶を注ぐ。舌打ちが出て来るのではないかと思えるほどの態度にメイは口を開く。

「アネット様に連絡した方が良いと判断しました。流石にお嬢様と言えど王族に手を付ける、となるとなにがあるかわかりませんので」

「そうやっていつも点数稼ぎかよ。陰湿な女だな」

「ただ主人の言葉に従っているだけでいいなら他の駄犬でもできそうですね」

 二人の言葉の応酬を気にした様子なくマーチャはメイが用意したお菓子を口に頬張る。二人の主人であるマーチャがそんな態度なのでアネットも黙ってお茶を啜る。メイの煎れるお茶は彼の舌にも美味しく、ベッドで再び寝ている王族の男が起きるまで二人の押収は続いた。


少しして王族の男は目を覚ます。そして自分を拘束している黒い帯に気が付き彼は驚く。先ほど起きた時とは違う。物理的に拘束された体は動かない。

「起きましたか。少々お待ちください。メイ、少し緩められないのかい?」

「……お嬢様どうしましょうか?」

「ん~?アネットもいるし大丈夫じゃないかな~?キーツは僕の傍にいるんでしょ~?」

 当たり前だというようにキーツはマーチャの傍に立った。王族の男の傍にいたアネットの問いに答えたマーチャの言葉を聞いてメイは拘束していた帯に手を掲げる。そうすれば多少拘束は緩まったのだろう。アネットは王族の男の背に手を入れゆっくりと男の背を起こす。彼らにマーチャが近づくが王族の男とマーチャを阻むように間にキーツが立った。

「キーツ邪魔~」

「キーツそのままで。さて、アイン様調子はいかがでしょうか?」

「……悪くない。お前は……」

「申し遅れました。私アネット・ノーブルと申します。あまり学院ではお会いしませんでしたが、何度か王族主催のお茶会に参加させていただいております」

「知ってる。ノーブル家の跡継ぎか……」

「存じていただいており光栄です」

「お前を知らない貴族はそれこそモグリだろうな。……お前がいるということはそいつがネッド家の異端児か」

 アインと呼ばれた男はキーツの後ろでなんとか男の様子を見ようとしていたマーチャに目を向ける。アインの言葉にアネットは苦笑いを浮かべキーツに目を向ける。しかし彼はその視線を無視するように目を閉じてマーチャの妨害を再開する。

「その通りでございます。……彼女は貴方を校舎の裏で倒れているのを見つけたと言っていましたが。記憶に相違ないでしょうか?」

「記憶に相違ない。……本人と話がしたいんだが」

「申し訳ありません。どうやら先ほど起こったことに対して彼女の従者が過敏になっているようです」

 申し訳なさそうにアネットは言う。しかしそれだけだ。アインに手を貸そうという雰囲気は感じない。キーツの後ろでは飽きたのか疲れたのかマーチャが床に座り込んでいた。アインはキーツに視線を向けるがその視線は決して交わらない。その様子に息を吐いてアインは口を開く。

「先程は気が動転していたとはいえ申し訳なかった。命を救ってくれた方に行うことではなかった。……申し訳ない。良ければ貴方の主人と話をさせてくれないだろうか」

 アインの言葉にキーツの髪に隠れた耳が揺れ、目は閉じたままそっと体をずらす。急に背を預けていたものが無くなり、マーチャは驚いたように自身の身体を腕で支えた。背もたれを兼ねていたキーツに対して文句を言う前に彼女はアインに近づいて彼の顔を両手で掴んだ。

「っ!」

「わ~傷は無いね~。声は聞いてたよ~。体調は問題ないみたいだね~。眼もだいじょうぶ……口は~あ、やっぱ歯欠けてたの戻ってるし……骨は拘束してた時に確認しといたからだいじょうぶだと思うんだけど~ちょっと立ってみて「その前にアイン様の膝の上に乗りあがるな!このバカマーチャが‼」」」

 頬を両手で掴む勢いでアインの身体の上に乗りあがったマーチャにアネットの雷が落ち、そのまま首根っこを掴んで彼女をベッドから下ろすと自分の横に立たせた。なんで怒られたのかもちゃんとわかっていないのか、彼女は慌てた様子もなく後ろに控えていたメイの方を向く。マーチャの意図がわかったのだろう。メイが頷けばアインを拘束していた黒い帯は消えた。

「アイン様申し訳ありません。その……マーチャは…貴族社会というものがわかっていない、といえばいいのでしょうか……」

「アネット気にしないでくれ。先に無礼を働いたのは俺だ」

「いえ、その無礼とかではなくてですね……アイン様重ねて謝罪と一つ言わなければいけないことがありまして」

「なんだ」

「恐らくですがマーチャは貴方が王族だということをわかっていないです。ハイ」

「…………そうか」

 アネットの言葉になんとか返したアインの言葉は何とも言えない声色だった。そんな二人の空気を気にした様子もなくマーチャは再びアインの身体に触れ始める。それは何かを確かめるような、触診の様子があった。彼女の横にはメイが控えており、マーチャの手助けをしているようだった。拘束が無くなったアインのベッドから毛布を剥ぎ取りメイに渡したマーチャはアインに向き直る。

「立ってみて~」

「……わかった」

 アネットの言葉で聞いていたとはいえ、王族である自分に対して許しもなく砕けた言葉を掛けるマーチャに一瞬面食らうものの彼女の言う通り体を動かしてゆっくり床に足を付けてアインは立ち上がる。その様子を見て彼女は再び紙に何かを書いたかと思えば再びアインの身体に手を伸ばした。腕や脚、そして関節と言った様々部位を触った彼女は満足しよう大きく頷いた。

「うん、問題ないね~。もういいよ~。なにか不具合があったら言ってね~」

「あぁ。ありがとう。……今更だが俺はアイン・タリスマン。今回はありがとう」

「どういたしまして~。僕はマーチャだよ~」

「家名も付けろっ!あとマーチャこの方はなっ!」

「いいんだ。アネット」

「……そうですか。貴方がいいのでしたら俺からはなにも」

「ありがとう」

「ですが聞かなくてはいけないことがあります。アイン様ここは安全ですので良ければ話をお伺いしても?」

「あぁ」

 マーチャの満足がいった様子にアインも先ほどよりも解れた表情を浮かべた。彼らの名前交換の様子を他の貴族が聞いたら卒倒しそうなものだったが、本人たち、特にアインにそれを気にした様子がないことにより事なきを得た。

 ベッドから病人が消えた部屋で新たな話が始められた。


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