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5-②

 歩き出したアインは中庭を出て、学院のなかでも人気のない場所を歩いていた。ここら辺は木が多く、鬱屈と考えていたアインにとって気晴らしに丁度良かった。

「マーチャのとこに行ってもいいが……連日行くのはな……」

 懐から紫色の紙である鍵を取り出す。魔力を込めればすぐに実験棟に行けるこれは自分と彼女を繋ぐ唯一のものだった。助けられて、まだあまり話したこともない。好きなものも癖も知らないが、彼は彼女に惹かれていた。

「こういうときアネットが羨ましいな」

「僕のこと呼んだかい?」

「っ!アネット!?どうしてここに?」

「実を言うとアインに着いてきた」

 自身の独り言に返事が返ってきてアインは驚いた。後ろを振り向けばそこにはアネットがおり、自分に着いてきたというが、彼の気配に気づけなかったことにアインの内心は穏やかではない。

「なんか思い悩んでいそうだったけどどうしたの?あと僕の何が羨ましいって?」

「お前……いつから見てた?」

「教室で思い悩んでいる顔を見て着いてきたから君が思っているほど最初じゃないと思うよ」

「はぁ……気配を消すのが上手いな」

 アインの言葉にアネットは微笑むだけだった。肩書のせいかアインは昔から人の気配に敏感だった。しかしそれでも彼の気配にアインは気づけなかった。恐らく従者は気づいていただろうがアネットに害がなかったのだろう、黙っていたのだ。

「お前は……彼女の幼馴染だろう。その、少し羨ましい。俺にはまだ連日彼女の所にいく勇気がない」

「アインって意外に繊細だね。粗野に見えなくもないのに」

「……俺にそんなこと言うのはお前か彼女くらいだな」

「これがお望みなんでしょ?気の置けない仲が」

「あぁ。それでいてくれ」

「マーチャに関していえば……君本当にアイツのことが気になっているんだね」

「あぁ。……幼馴染として男が近づくのは心配か?」

「いや。全く。アイツに危害を加えるようなやつはそもそも近づけないだろうしね。どっちかというと嬉しいよ。僕以外にもアイツを気にかけてくれる人が増えるのは」

 アネットは嬉しそうにアインに近づいた。彼も男らしい骨格はしているがその体躯はアインよりも小さい。どちらかというと中性的な顔つきの彼はアインに近づいて笑みを深くする。それは爽やかな挑発的な笑みだった。

「僕は君とマーチャがくっ付くのは嬉しいよ。サポートができそうならするしね。でも時間が経ってもくっ付かなかったら僕がアイツとくっ付くから。あんまり悠長にしてるのはお勧めしないかな」

「はぁ…………頭が重くなる情報を増やさないでくれ……」

「ごめんね。でも先に言っといたほうがいいなって。幼馴染だからさ、最終的に貰ってくれって頼まれてるんだ」

「彼女の両親にか?」

「そう」

「確かにお前になら任せられるな。彼女の両親がそう言ったのもわかる」

 アネットが良い男であるのは同性のアインから見てもそう思える。二人を比べた時、肉体的な男の良さでいったらアインに軍配が上がるだろう。しかし男の良さはそれだけではない。ましてや生涯を一緒にするとなったとき彼の持つ視野の広さや気遣いは令嬢たちの心を惹くだろう。それに彼の家は身分も悪くない。伯爵であれば令嬢たちも悪い気はしないだろう。

「まぁアイツにとって僕は幼馴染だし気心知れてるし基本的に遠慮しなくていいって感じだと思うけど、男とは見られてないと思うよ。だから頑張って」

「お前わかって言ってるだろ……!」

「ははっ、ごめんごめん。僕も友達あんまりいないんだよ。許して」

 アインの反応にアネットは笑う。木々の間に学生の笑い声が響いた。


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