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4-②

 男子学生の言葉にアインは足を止める。彼の脳裏に浮かんだのはマーチャだった。

「長い髪を一括りにしていて包帯を巻いていたとか、それも随分汚らしいものだったとか」

「それはそれは随分とまぁ……学院を汚さないでほしいですね」

 アインの中でマーチャの姿が確信に変わった。そして彼の頭を数日前の記憶がよぎる。しかしもしその時のことであればこの者たちは言わないだろう。なぜならそこには彼女たち以外にカベルとアインも居たからだ。であれば二人は自分たちがいないところで接触したことになる。アインの中でそれは大きな疑問となった。聖女という単語にマーチャが引っかかりを覚えていたのを知っているがなぜまた接触したのか、それも言葉通りだとしたら一人で接触をしたということになる。なぜ?

「……詳しく聞かせろ」

「はい!私も聞いた話なのですが、学院の敷地内ではあるものの人気がない場所に彼の平民がいたそうなのですが、その近くにその怪しげな白衣の人間がいたのだとか」

 男の言葉にアインは数日前の出来事ではないことを確信した。恐らく後日の話なのだろう。ではなぜ彼女はミーアに接触したのか。アインはそこがわからなかった。彼女の幼馴染ならわかるだろうかと彼は思ったが、「俺にもわかるわけないでしょ、アイツのやることなんてこっちはいつも予想できませんよ」と脳内のアネットが返事をした。

「そこでなにやら言い争いがあっただとか。私も見たわけではありませんが、なにやら不穏な空気だったらしく、彼の平民がその白衣の人間の暴行を加えただとか」

 一瞬アインの視界が暗くなる。それは怒りと言えるもので、一瞬ではあったが空気の変わったアインに男子学生もたじろいだ。アインは自身の感情を抑え込み男子学生の方を向く。その顔はいつも通りだった。

「それはいつの話だ」

「はっ、た、確か彼の平民が休んだ日の話だそうです」

「それがほんとなら彼の人間は狡いことをしたということですかな?カベル様のお気持ちを裏切るとは……まったく汚い」

「その白衣の人間はもしや男だったのでは?」

「この神聖な学院で逢引きをしていたということですか」

 空気の戻ったアインに男子学生たちは好き勝手にその口を再び開く。その言葉は変わらずミーアを非難するものばかりで、最早噂の審議などどうでもいいようだった。

「まぁ、彼女が本当の聖女だった場合、そこでお役目はごめんですがな」

「そうですね。それまでの束の間の女としての幸福ということですか」

「ははっ、確かに。お役目が始まってしまえばそんなことはできませんしな」

 あまりの発言にアインの眉間にしわが寄る。男子学生たちはそれに気づいていないようでミーアを非難するどころか、聖女という存在を軽んじるような発言を続けている。彼らはミーアが『死の庭』の浄化を行った場合死ぬということを言いたいのだろう。ミーアは聖女として公にはまだ公表されていない。しかし教会に近しいものや彼女に近づいて勘づくものはいる。特待生になれるほどの魔力、彼女が纏う人々を穏やかにする空気。それにカベルのミーアに対する態度が後押しになっているのだろう。上位貴族やほとんどの学生にとってミーアが聖女なことは共通認識だ。そして歴史に残っている通りであれば彼女の最期は決まっている。歴史に残っている聖女達に『死の庭』の浄化後の記述はどこにも残っていないからだ。

「お前達このことは他言無用だ。わかったな」

「しかし、カベル様に言わなくてよろしいですか」

「……俺の方で手を打っておく」

「かしこまりました」

「それでは我々は放課後になりますので失礼いたします」

 談笑をしていた学生たちはアインに礼をして去っていく。彼らの口元は厭々しく歪んでいた。

 人が居なくなりアインが片手を上げればそこには彼の従者が現れた。

「少しこの場から居なくなる。頃合いを見てきてくれ」

「……かしこましました」

 従者が消えたのを確認してアインは内ポケットから紫色の紙を取り出す。それはあの日マーチャに貰ったものだった。指に挟んだそれに己の魔力を込めると、視界の景色が変わった。輪郭が光を帯び、木々が乱立していく。歩き始めればそこには既に見慣れた実験棟があった。


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