4-①
放課後にマーチャとともにミーアの元へ突撃してから数日が経った。翌日にミーアは休んだらしく、カベルの機嫌はあまりよくなかった。彼女とカベルの仲は特待生のクラスメイトだけでなく、学院のほとんどの生徒が知っている。中には平民という身分の彼女が第一王子であるカベルと仲がいいのは如何なものかと思っている者もいるそうだが、アインはそう思わなかった。彼の母親が平民出身だということもあるが、ミーアが嫌な女性でないというところが大きいだろう。距離を近づけようとするカベルに対して適切な距離を保とうとしているミーアにアインは好感を持っていた。学院で身分は関係ない、というのを盾にむやみやたらに近づこうとする他の令嬢や令息に比べればよっぽどいいとアインは思っている。そして今日も彼はそんな人間に呼び止められていた。
「カベル様は近頃平民の女性に気を取られているようですが、カベル様の横に立つには少し華が足りないのではないでしょうか?僕たちとしてはやはり他の令嬢たちに目を向けてもいいと思うのですが」
その日アインの周囲には数名の男子学生がおり、そのうちの一人がカベルについてその口を開いていた。アインは内心またか、と思いながらも彼の言葉を半分ほど聞いていた。カベルとミーアの距離が近くなったのは一つ年が上がった二年生からで、その前は平民でありながら特待生レベルの魔力を持つ彼女をカベルが気にかけている程度だった。その後彼女が聖女なのではと、ミーアの周りに一時取り巻きができたが、それは彼女が困っているだろうとカベルが解散させていた。それ以来なにかとカベルがミーアを気にかけ、今では一緒に勉学に励んでいる姿が見られているが、それを面白くないと思う学生がいるのをアインは知っていた。
(お互いの力を高めあってるなら周りが口に出すことじゃないだろ……しかもこいつら、平民の母を持つ俺に言うことか?)
アインの出生事情は既に多くの人間が知っている。彼の母親は平民でありながらも現王と恋に落ち、側室として迎えられた。幸いなことに正妻のカベルの母親とも仲は悪くなく、母親共々アインは彼女に感謝している。
「僕と仲の良い令嬢がカベル様とお茶会をしたいと言っていたのですが、カベル様を誘おうとするとあの平民が鋭いまなざしを向けて来るのだとか……」
「おや、貴殿のご友人もですか。実は私の友人の令嬢もそのようなことを言っていまして」
「令嬢たちの中にはその平民に泥をかけられただとか……」
「それはなんて恐ろしいことを……そしてなんと醜いんでしょうか」
アインの周囲にいる男子学生たちの口は止まらない。どこかにやけたような顔つきでその口は名前こそ出さないがミーアに対しての悪感情をアインに抱かせようと必死に動いていた。大方アインからカベルにミーアの悪い印象を持たせたいのだろう。これでカベルがミーアを嫌って離れれば万々歳。そうでなくても第一王子と第二王子の仲が悪くなれば万歳。といったところだろうか。
現在第一王子であるカベルと第二王子であるアインの仲は悪くない。二人の母親の仲が悪くないことも大きいだろうが、アインの母親もアインもカベルの地位を脅かすようなことをしていないからだ。なぜなら彼らの地位を脅かさないことが後ろ盾を持たない自分達を守ることになることをアインの母親は感じ取っていた。だからアインは幼いころから母にカベルを支えられるように力を付けなさいと言われていたし、その理由も聞いていた。そして現在王位を狙える実力を持っていてもアインの気持ちは変わらなかった。だからアインにとって今耳に入っている情報は彼にとって何の役にも立たなかった。
(くだらない……嘘でも真実でもその程度で諦めるならカベルの隣なんて無理だ。土が付いたって拭けばいいだろうが……)
長く耳障りな話が続けば辟易もする。アインがその場を去ろうとしたとき、慌てたように一人の学生が口を開いた。
「そういえばその平民と言えば汚らしい白衣を纏った人間といたようですよ」




