トイレからの脱出 きれいな女性バージョン(ハードモード)
休日の午後。人は多いが駅前でもないので混雑してるほどではない。
目の前にはチェーン展開してるどこにでもある薬局が。
駐車場にはまだスペースがいっぱいあり暑いからか人もさほど訪れてないよう。
これなら大丈夫。ちょっと体調を崩して下痢気味。
きれいなトイレを探していたところ。コンビニもいい。でも大きなトイレがいい。
ドンドン
ドンドン
女性専用は使用中となっており中々出て来ない。仕方なく隣の男女兼用トイレへ。
ここは男女兼用とは言えすぐに鍵がかけられるからいい。中も広々としている。
うう…… もうダメ!
ノックをして開いたら大丈夫。急いでるんだから。
ほらやっぱり鍵は掛かってない。
周りに人もいないようだし急いで済ましてしまいましょう。
昼間のお弁当が当たったのかな?
こんな暑いのに海鮮弁当を選んで何だか変な味がした気も。
ふう…… 至福の時。
さあもう少し粘りましょうね。うんうんよく出る。
「あの済みません…… 」
存在感のない冴えない若い男が目の前に立っていた。
覗き? 私がいくらきれいでかわいいからって時と場合があるでしょう?
最近の覗きは断るタイプなの? それにしても影が薄い。
この人は覗きをするために生まれた哀れで悲しい人。
ただ説得すればどうにでもなりそうではある。
「あなたどうして覗きを? 」
「へへへ…… いい天気ですね」
ダメだ。まったく嚙み合ってない。
ここで退くとつけ上って何をするか分かったものじゃない。
こっちは本当に無防備なんだから。と言うよりも絶体絶命のピンチ。
「あなた匂いフェチなの? どのタイプの変態なんです? 」
「自分は変態っすかね? 」
「そうじゃないなら答えて! 臭うでしょう? 」
「いえまったく。悪くはないですよ」
「いつからそこに? 朝から私みたいな女性が来るまで潜んでいたのね」
「違いますよ。これは運命のいたずらです」
「叫びますよ」
「どうぞ」
「開き直っちゃって。不法侵入で訴えますからね」
「それは無理だって。自分が先に入ってあなたが後からいきなり入ってきた。
訴えるならこっちの方なんだって。でもそんなつまらないことはしない」
男の言い分が事実ならそう。でも疑わしい。
「嫌だな。そんな目で見て。ただ単純に鍵を閉めずにトイレしてただけ。
あなたが確認もしないで入って来るから。ただ急いでいたなら仕方ありませんよ
誰にも体調が悪い時はあります。自分ではどうにもならないものです」
何と男の方が正しいと潔白を主張する。何て図々しい覗きなの?
屁理屈で丸め込めようとしている。被害者の私がまるで悪いみたい。
「警察を呼びますかお姉さん? 」
「いえいい。どうやらこちらが間違っていたみたい。疑ってごめんなさい」
これ以上この男と関わるのはよそう。怒らしてもこじらせても困るから。
「お互いついてないんですよ。ではどうします? 」
男はトイレが終わるまで待つか今すぐ出て行くかを選択させる。
誰が密室で男の人と一緒にいるものですか? 冗談じゃない。
もう完全に見られてるし被害は受けてるがそれでも……
「先に行ってもらえると助かります」
まだ完全に出きってない。だからゆっくりトイレがしたい。
これ以上恥ずかしい思いをしたくない。これって贅沢なこと?
「そうですか。あなたはまったく賢くない。馬鹿ですよ。
現在の恥ずかしさに囚われて事の本質を見失っている。哀れな人だ。
ですがあなたがお望みならば従いましょう。まったく不本意だが」
そう言うと男は鍵を開け出て行った。
こうして見知らぬ男を追い出すことに成功した。
この狭い空間に平和が訪れた。
それも束の間。
「おおトイレ! トイレ! 」
男が駆け込んで来た。
「きゃあ! きゃあ! 」
ほぼ悲鳴にならないほどの声を上げる。
「何だよ。まだくその最中かい。失礼しました」
そう言って出て行く。出て行くとすぐにまたおじさんが入って来る。
当然のこと。鍵が開いて男が出ていったのだ次の客が入るのは自然なこと。
「ようやくトイレに入れるぜ…… 」
「きゃああ! 」
徐々に悲鳴のレベルが上がる。もう限界らしい。
「失礼。何だ人がいるじゃないか」
こうしてエンドレスで男どもが入って来る。
そしてもうどうにもならなくなった時に声の限り叫んでしまう。
「何だ何だ? どうしたどうした? 」
今度はトイレ待ちだけでなく大勢の男たちが中へ。
トイレの中には男たちが。外では騒ぎを聞きつけた者で一時騒然。
こうして平和だった休日の午後は最悪の一日となってしまった。
それでは現場に居合わせた男の人から一言。
「何て日だ! 」
<完>