トイレからの脱出 影と幸薄い男編
薬局のトイレには男女兼用の個性的なトイレが存在する。
ユニット等の詳しい正式名称は不明だがそんな新たなタイプが定着しつつある。
身近なところではコンビニのトイレのように男女兼用も存在する。
ただここのは曲者で開けた瞬間便器が見えて個室になってない。
だからもちろん大をすれば全体に漂ってしまう。隣には小便器。
離れたところに手洗いが。その間に大きなスペースが。
広々としていいのだが一歩間違えると悲惨な目に遭う。
俺クマ吉。どこにでもいる冴えない男さ。特に最近影が薄いと言われがち。
ランチに行くと置いて行かれること数回。嫌がらせじゃないのか?
ふう疲れた。買い物する前にトイレへ。
ここって女性トイレと兼用の二か所で今日みたいに休日は混んでることが多い。
ただ入り口に鍵を掛けるタイプなので安心して使える。ああ…… かけ忘れた。
まあいいか。入って来たら入って来たで。どうせ一分だからな。
ではうがいして手洗い。俺って意外と真面目なんだぜ。
ドンドン!
ドンドン!
ノックしただけ侵入で女の人が入って来る。
断るどころか手を洗ってたので何もできない。
こちらなど目もくれず便器へ。すべては鏡の世界の出来事。
そして俺の存在に気づかずにおっぱじめる。
ダメだ。見てはいけない。気づかれてはいけない。
でも彼女が鍵を掛けた以上出れない。そもそも見つからずに脱出など不可能。
ならばどうにかやり過ごすか? だがここには当然隠れる場所もない。
彼女が手を洗わずに出て行くならそれも可能。
しかしトイレ行って手を洗わない人はいない。
そもそも大をしてる訳で。キャンセル界隈意外あり得ない。
一番の問題は彼女のルックスだ。
おばちゃんならごめんねと言って去っていくだろう。
しかし彼女は俺に似合いの若くてきれいなお姉さんだ。
終わった…… 完全に終わったな。もう逃げきれない。絶望の時。
たぶん土下座しても許してくれない。
俺が悪いんじゃないのにそれでも追及されるんだろうな。
そしてついにその瞬間が訪れる。
違和感を察知したらしくこちらを見る。
いくら影が薄くても一人の人間が近くに佇んでいたら分かってしまうもの。
最悪なのはまだトイレの最中だ。しかも自分のせいで出なくなったはず。
小さな悲鳴が聞こえたがそれっきり。恐らく彼女は恐怖のあまり声が出ないのだ。
これはチャンス。近づかずに交渉する。名誉のためにもなるべく見ないように。
こんな時どんなお話をすればいい?
「いい天気ですね」
「そんなことはどうでもいいの」
これは相当怒ってるな。でも叫び声が出ないんだろうな。
「叫びたい気持ちも分かる。でも今叫べば飛び込んでくるのは男ですよ」
どうにか説得する。ここは冷静になるように呼び掛ける。
「あなたを不法侵入で訴えるわよ」
「それは無理だ」
「どうして? 」
「不法侵入したのはあくまであなただ。自分は鍵をかけ忘れただけ。
それなのにしただけノックで入って来てあろうことか鍵を閉める。
挙句にはこの臭いの元を作る。ううん香しい」
「へへ…… 変態! 」
どうにか声が出たらしい。でももう遅いよ。
さあフィニッシュと行きますか。
「どうします? このまま鍵を開けて俺だけ脱出させますか?
それとも仲良く一緒に? すべてを済ましてから」
巧みな交渉術。これで彼女は選ぶことができる。
「分かった。一緒に出ましょう」
「ほう。冷静ですね。そうあなたは今正しい判断をした。
一時の恥ずかしさに惑わされずに最善手を打った。尊敬に値します」
どうにか励まし冷静な判断をするように訴えかける。
ブリブリ
ブリブリ
最後まで済ますと手を洗い一緒に外へ。
少しだけ怪しまれたがお似合いの二人だと思われたのか納得される。
「ではここで」
「ごめんなさい。私あなたを勘違いしてました。何て冷静な人なの」
尊敬な眼差しで見つめる彼女。これは恋に発展するのかな?
でも出会いはくそ最悪と言うことになる。
こうしてきれいなお姉さんと別れることに。
うん。めでたしめでたし。
今回の教訓としてトイレは大であろうと小であろうときちんと鍵を掛ける。
するだけノックやめてきちんと相手の返事を待ちましょう。
トイレに入ったら必ず周りを確認しましょう。
恐らくそんな状況にないことは重々承知の上ではあるがそれでも気をつけよう。
次の日。
ピンポンが鳴る。
昨日の人がお礼にでも来たのかな?
顔も名前も知らないが恐らく近所の人だから調べたのだろう。
「ハイ? 」
「警察です」
うわ…… あの女嵌めやがったな!
スピード解決。
クマ吉クンなだけにやっぱり最後は逮捕されてしまう。
これは逃れられない運命。
あーあやってられない。
<完>