水かけ
人離れた山奥の集落に今回の獲物があるのが分かった。
夜遅く寝静まった頃にお屋敷に侵入する。
「へへへ…… 楽勝ですね」
「静かにしろ! 捕まるぞ! 」
「大丈夫ですって。潜入してしまえばこっちのもんですよ」
心配性の相棒。と言ってもまったくの対等と言う訳ではない。
二歳年上の頼れる先輩ってところ。
慎重なあまり一歩が踏み出せない。俺が代わりに打開する。
今回のお宝は集落に伝われる巻物。
そこには金銀財宝を隠した場所に繋がる暗号が記されている。
すべては相棒の持ってきた情報。俺はただ命令に従うだけ。
もちろん分け前は二等分。こんな楽なことはない。
「静かだな。静かすぎないか? 」
相棒は嫌な予感がすると怖気づく。
「もう臆病だな。分かりました。俺が行って見てきますよ」
「待て! 危険だ! もう少し慎重に…… 」
相棒の弱気にも困ったものだ。
こんな山奥の集落など大したセキュリティーは備えてないだろう。
仮に捕まってもそれはそれ。楽しかったらそれでいい。
刹那に生きるのが格好いいのだ。
「はいはい。大人しく隠れててくださいね」
こうして相棒と別れ大きなお屋敷を走り抜ける。
電気のついてるところは避け目標のブツを探し回る。
ない! どこにもないぞ!
すべての引き出しを漁るがどこにもない。
巻物は大体机にあるはずだが…… うん上?
書庫を見て回ったがっどこにもなく机にもない。
一体どこにしまってあるんだ? ただの古臭い巻物なのに見当たらない。
うんここは? 客間? こんなところにあるはずないよな。
でも念のために探してみる。
部屋の奥の刀飾りの横によく見ると巻物らしきものがあった。
これだ!
誰もいないな? よし頂くとしようか。
へへへ…… 本当に今回は楽勝だったな。
畳をゆっくり歩き余裕を示す。こんな時慌ててドタバタすれば見つかる恐れが。
ここは最後までゆっくり足音を立てずに歩く。
真ん中付近で異変が。
何だか違和感がある。何だここ? おかしいぞ。まさか……
うわああ!
考える暇もなく開かれた畳から落下。
どうやら罠が仕掛けられていたらしい。
巻物に近づく者を極秘に処刑するつもりなのだろう。
まずい…… 嵌められた。
くそ! 単純な罠に引っ掛かってしまった。
だがどうすることもできずに為すがまま。そのまま意識を失う。
「おい起きろ! どこの者だ? 」
なぜか地下牢に閉じ込められている。
「ここは? 俺は一体? 」
「ははは! ようこそ我が屋敷に。土足で上がるとはいい度胸してるな」
「うるさい! 早くここから出しやがれ! 」
「それはこちらの質問に答えてからだ」
どうやら俺たちは嵌められたらしい。相棒はどうしてる?
ここに姿を見せないなら逃げおおせたのかな?
「まずは仲間は? 」
首を振る。
「なぜここを狙った? 」
「ふふふ…… さあな」
「お前も金銀財宝を狙っているな? 」
「ああそうだよ」
ここだけは素直に吐く。
「名前は? 」
「知るかよ。それより腹が減ったぜ。何か食わせろ」
「ふざけた野郎だ。よし何も吐かないなら仕方がない」
そう言うと男は手下に命令を下す。
おいおい嘘だろう? あれは自動爪剥がし器。
「まずはこれからだ。どうした吐く気になったか? 」
「へへへ…… 」
保留する。だってまだ痛くないし。あれはただの脅しの可能性が高い。
俺はそんなチキンではない。拷問程度でどうにかなる俺様ではない。
「仲間は? 」
「売れるか馬鹿野郎! 」
バシャ!
いきなり水を掛けてきやがった。
「次は爪を剥がすぞ。いいんだな? 」
うわ…… こいつら本気だ。ここは従うしかない。
「ほお素直に吐く気になったか? 偉いぞ。それでお前はどこから? 」
指を固定されては逃げようがない。
「俺は…… 」
あれおかしい。水をぶっかけられてから記憶が飛んでしまった。
「ああん? 仲間は? 」
「さあ…… 」
「誰の差し金だ。依頼者は? 」
「その…… 全然思い出せなくて。時間をくれ。すぐに思い出す」
「ははは…… 悪いな。儂は拷問することに快感を覚えてるのだ。
だからそれで一向に構わないよ」
どうやら猶予を与えてくれないらしい。
「いや吐くから! きっと思い出す! 」
「うんうん。立派な心掛けだ。さあ始めようか」
「違う! 思い出すから頼みます! 」
「ふふふ…… 無理せんでいい。気持ちだけ貰っておこう。よし始めろ! 」
「うわああ! 嫌だ! 嫌だ! 」
こうして拷問を受けることに。
それからどうなったかは誰も知らない。
<完>