無駄死 復活のF
今日は大事な試合。絶対に落とせない。
首位陥落どころかAクラスさえ危うくなる一戦。
史上稀にみる白熱したペナントレース。団子状態。
抜け出すのはどのチームか?
まさか八月も後半を迎えるこの状況でここまでの星の取り合いをするとは。
はっきり言って思いもしなかった。
例年ならとっくにマジックが点灯してポストシーズン争いをしてるところ。
いや最下位争いか。
このシーズンを占う大事な一戦にもはや冷静ではいられない。
「監督本当によろしいのですか? 」
「どうした不満があるのか? 」
「いえこのオーダー表だとちょっと…… 」
はっきりしない。文句があるならきちんと指摘して欲しい。
「ですが相手の先発は例の彼ですよ。本当にこのままでよろしいのですか? 」
「構わん! 奴だって本物だ。それに今は首位を死守することに集中しろ! 」
コーチが言わんとしてることは分からないでもない。
危ないし一歩間違えれば選手生命にだって影響する。
くそ! 下で投げてくれればいいものを。こんな大事な試合に先発しやがって。
恨むぞ。そう仕向けた奴は罰としてバッターボックスに立たせてやる。
「考え直してください! 大体予報では間もなく雨が降り出すと。
そうなれば余計にコントロールがつかずに危険です。主力を温存しましょう! 」
「ふざけるな! 俺たちはプロだぞ? そんな訳には行くか! 」
「監督…… せめて右を並べましょう。そうすればシュート回転は怖くない」
コーチの指摘はもっともだ。奴は剛速球サウスポーとしてアメリカに。
ルックスもよくポテンシャルも高く若い頃から期待された投手だった。
愛称は炎のF。
アメリカでも百マイルを投げ込んでいた。ただコントロールにムラが。
それで一定の成功を収め凱旋してきた。
慣れるまで二軍調整していたのにいきなり今日予告先発だからな。
驚いたなんてものじゃない。
我がチームは右よりも左が多くレギュラーのほとんどが左。
しかもチームの顔であるキャプテンも左。四番も左。
右が少なくてジグザグ打線が組めないほど。
前監督が守備よりも攻撃に重きを置きジグザグ大好きだったのが影響している。
このままではキャッチャーとサードと両打のショート以外左になってしまう。
うーん。どうすればいい? どうすればいいんだ?
結局打線を組み替えずにそのまま臨むことにした。
午後二時。
プレイボールと共に小雨が。
予報よりも一時間も早く雨が降り出してきた。
炎のFが第一球を投じる。
こうしてついに試合は始まってしまう。
結果。
四回表途中雷雨により中断。その後雨脚が強まりノーゲーム。
翌月に再試合となった。
日本復帰登板は幻に。
炎のF 三回途中棄権球退場。それに伴う乱闘で一時場内は騒然。
死球5 四球6 三振5 ヒット2 本塁打1
ピッチクロック3 暴投4 エラー2
負傷者リスト。
四名(退場三名でその内二名が病院送り。生き残った一名も後に骨折判明)
二名(乱闘により負傷)
合計で六名が長期離脱の事態となってしまった。
ただノーゲームなので無駄死と言うことになるだろう。
この影響で我がチームは一気に最下位へと転落することになる。
監督から一言。
「やってられんわ! 」
<完>