水不足でも売るほどある
毎年のように水不足に見舞われる村。
今年も日照りが続き水不足は深刻度合いを増す。
この憎たらしい太陽がどこかに行ってしまえばいいのに。
そう思わない日はない。
それは龍二の家も同様だ。
「ほらお前も祈るんだよ! 」
祖母に教わった水を呼び寄せる雨乞いの儀式を一緒にやることに。
まだ七月だと言うのに水不足は深刻化している。
今年は梅雨に入ったらと思ったらすぐに抜けてしまう。
このまま秋まで待つしかない。ただ二か月を無事に乗り切れるか心配になる。
「どうだい? 水は出たかい? 」
「それが一つも。どうしよう」
「ほらメソメソするなって! 祈りが足りないんだよ。さあもう一度祈るよ」
こうして龍二は雨乞いの儀式を続ける。
そのかいあってか一週間後龍二の家の井戸には水が溢れるほどに。
これで救われたと大喜び。
龍二の家は代々井戸を守ってきた一族。
現在周りには家はなく離れたところにポツポツあるのみ。
そう言う意味ではこの井戸の水を独占することができる状態にある。
溢れるほどの水がなぜ井戸にあるのか?
日照りは続き雨など僅かしか降らなかった。それなのになぜと龍二は思うばかり。
祖母につられて村にある井戸の様子を見回ることに。
「どうです? 」
「ははは…… 見ての通りですよ。枯れてしまって」
村の水不足は深刻であと三つある井戸はどこも枯れてしまっている。
村では龍二の家以外は生命の危機に陥っている。
それからも水不足は続き緊急の対策会議が開かれるも打つ手がない状態。
「隣の村から」
「いや同じさ。どこも変わらんよ」
村だけでなく県単位で水不足に陥っておりどうにもならない状態。
すでに備蓄の水に手を出しており一週間も持たないだろうと言われている。
「あの…… 」
「ああ旦那さん。あんたんとこも大変だろうね」
「はい。どうにかお願いします」
せっかくのところを言いそびれてしまう龍二の父。
しかし井戸には溢れんばかりの水がある。
それは毎日祈りの儀式を行ったからに過ぎない。
家に帰り今後をどうするか話し合うことに。
「まさか村の人を見捨てる気? 」
「そうじゃない。しかし言えば押し寄せてきて枯らされてしまう。
そうなれば我が家が立ち行かなくなる。だからどうしようかと」
どうやら雨が降るまで待つようで村の者に開放する気はないらしい。
「だったら売ればどう? 」
「そうだな。売るほどあるんだしな」
「馬鹿者! 何を抜かす! 」
祖母の反対で一旦様子を見ることになった。
それから三日が過ぎ一週間が経ち十日目を迎えた。
村の半数が命を落とした。
もはやパニック状態。ただ動くこともままならない惨状。
龍二は弱った友に耐えきれずに井戸の秘密を教えてしまう。
そうなればもう村中に知れ渡ることに。
我先にと龍二の家へ押しかける。
ドンドン!
ドンドン!
「やめてくれ! ここにはない! ここには…… 」
「嘘を吐け! まだ家にあるんだろう? 水だ! 水をくれ! 」
「そうだ! 酷いじゃないか! 自分たちだけ独占して」
「うるさい! 井戸の水を勝手に飲めばいいだろう? 」
「もうないんだよ。ほら早く! 早く! 」
「出せ! 水を! 水を! 」
残った村人が押し寄せて来る。
もうないと言うのにそれでも出せ出せの大合唱。
「うわああ! 何を…… 」
ついに耐え切れずに中へとなだれ込む。
もはや人間とも妖怪ともつかない餓鬼に龍二の家族は八つ裂きにされてしまう。
ポツポツ
ポツポツ
それから三日。ついに村に待望の恵みの雨が降り注いだ。
こうして村には再び平和が訪れた。
<完>