第六話 ナマケモノのUaと小さな星とフクロウのオルじい
「んしょ、んしょ」
自身に掛け声をかけながら、籠を降りたUaが、肩からさげていたカバンの中から、一つの袋を取り出して、自分の代わりに籠の中にいれる。
どうやら、Uaが無事に降りたのをどこからか確認しているのだろう。
するすると誰も乗せていない籠はさらに上へ上へとあがっていき、Uaは「ありがと〜」と籠に手を振りながら見送った。
「すごい面白いものを考えたひとがいるんだね!」
籠をおり、樹の幹から伸びる枝の上で立ち止まっていたUaに、少し興奮した様子の小さな星が、細かな光の粒を飛ばしながら、Uaの頭の上でぴょこぴょこと跳ねる。
「かごが下にあるときはいまみたいに、高いところとか下におろしてくれたりとかしてくれるんだよ」
「へぇ……!」
「えれべーたー、っていうらしいんだけど、オルじいが考えたんだって!」
「すごー! すごいんだね! オルじいって!」
「ね! すごいよね!」
キラキラとした目で、えれべーたーとやらを見る小さな星に、Uaが自分のことのように嬉しそうにうなずく。
そんなUaに、小さな星が「じゃあきっと!」と声をかけた時、ばさり、という音とともに、Uaたちの目の前の風が、ぶわりと揺れた。
「これこれ、Ua、ワシが考えたんじゃないと、前にも言ったじゃろうに」
声と羽音とともに表れたのは、黒色と灰色の羽を持つ一羽の梟で、なにやら少し、眠たそうな目をしているようにも見える。
「オルじい!」
ぱああ、と梟の姿を見たUaの表情が明るくなると同時に、頭の二本の長い毛が、ぴょこぴょこ、と嬉しそうに動く。
「まったく、こんな時間に騒がしいからと見てみれば……Uaよ、なぜ星の子を連れているんじゃ?」
ばさり、とUaの横に降り立った一羽のメガネフクロウこと、オルじいが、Uaの頭の上にいる小さな星を見て、眉をひそめる。
「なんでって……えっと、お星さまが困ってたから」
オルじいのいつとと違う様子に、ほんの少しだけビクリと肩をあげながら、Uaが答えれば、「ああ、すまぬ」とオルじいがトットットッとUaのすぐそばへと近づいてくる。
「Uaにも、もちろん、星の子にも怒っておるわけじゃないんじゃよ。ただ……そうじゃな。続きはワシの家で聞くとするか」
「え、あ、はい」
「……わかった……」
オルじいの言葉に、小さな星と、Uaが頷けば、オルじいがばさり、と羽を広げる。
「ほれ、掴まらんか」
そう言って、ゆっくりとUaの上へと移動したオルじいの足に、Uaが手を伸ばせば、Uaと小さな星は、あっという間にオルじい家の玄関へと、運ばれた。
「…………なるほどのぅ。事情は大体わかった」
オルじいの家に入ってすぐに、オルじいは小さな星に、空の星の素である星の子が地上にいるのかと説明を求め、小さな星もまた、オルじいの問いかけに、ひとつひとつ丁寧に答えていった。
「まぁ……なんというか、お前さんも災難じゃったのう……」
「…………はい……」
「もう痛いとこない?」
Uaには、空から落ちてしまった経緯をすっかり説明しそびれてしまったというのに、Uaはそのことを怒ることもなく。
それどころか、今回の原因ともいえる見習い星同士の言い合いで言われたく言葉と、空から落ちた時の怪我について、いまだに心配しているようだった。
「本当に大丈夫だよ」
そう言って、小さな星は、Uaの頬にぴたりと寄り添い、そんな小さな星の行動に、Uaは良かった、と安心したように息をはいた。
「空に帰る方法は、あるにはあるんじゃが……」
「本当ですか?!」
オルじいの言葉に、小さな星がオルじいの目の前に飛び込む。
「うむ…………じゃが…………どうしても危険もつきものでな……」
「……きけん……?」
「危険……?」
わしわし、と羽で顎をこすりながら、オルじいは言う。
「まず、星の子が空に帰るには、夜の虹を使わにゃならん」
「夜の虹?」
「……あれか……」
夜の虹、といわれてもピンとこないUaとは違い、小さな星には、どうやら心当たりがあるようで。
「やっぱり、高いだけの木じゃ、ダメなんですね……」
ほんの少しだけ、元気をなくした小さな星がテーブルに降りて呟く。
「そうじゃ。夜の虹の、中にさえ入ってしまえば、すぐに帰れるじゃろうて。じゃが……、おぬしら星や月たちは……ワシ等でいう魔力とよばれるものがとてつもなく高い。いくら見習いであったとしても、地上のものたちからしてみたら、喉から手がでるほどに欲しくてたまらん存在じゃ」
「…………はい」
オルじいと、小さな星の会話に、Uaは首を傾げながら、じっと耳をすます。
「過ぎたる力なぞ、身を滅ぼすだけじゃ。けれど、それを理解できぬものたちもいる」
「…………そう、習いました」
「うむ。それならば、話は早いの」
「……??」
ごとり、とどこからか取り出した一枚の木の板を、オルじいはテーブルに置き、数字がたくさん並ぶうちのひとつを、指差した。
「……オルじい、これ、なぁに?」
じっ、と黙って話を聞いていたUaが、木の板とオルじいを交互に見ながら問いかける。
「これはな、とある奴が置いていったものなんじゃが…………ふたりとも、ここを見てみなさい」
そう言って、一箇所をさしたまま、オルじいがUaと小さな星を見る。
「これはの、夜の虹がこの日のこの時間に出るぞ、と、とある奴が予想をしたものでの。ほれ、ここじゃ、ここ」
「ここ?」
「……これって?」
いくつかのただの数字の羅列だと思っていたものは、どうやら、日付と時刻のようらしい。それならば、この数字は。
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