第五話 ナマケモノのUaと小さな星とUaのお家
「よく分かんないけど、分かった!」
「うん。とにかく! Ua、助けてくれてありがと!」
「…………ぼく、お星さまの、やくにたてたの?」
「うん! Uaがボクを助けてくれたんだよ!」
きら、と光るちいさな粉を降らしながら、小さな星は何度も何度も、Uaに、ありがとう、とお礼を伝える。
「えへへ、ぼく、やっぱり、なにもしてないと思うけど…………でも、なんだかちょっと、ぼくも元気が出てきた!」
「ほんと? 良かった!」
えへへ、と小さなナマケモノのUaと、小さな星の、静かだけれど、嬉しそうな二人の笑い声が重なる。
少しのあいだ、ゆらゆら、と嬉しそうに揺れていたUaに、「ねぇ、Ua」と小さな星が声をかけた。
「なあに?」
「ボクと一緒に、ボクの残りの星の粒、探してくれる?」
ひょこ、とUaの頭に乗ったままの小さな星が、落ちてしまわないギリギリのところから、Uaの顔を覗き込みながら問いかける。
そんな小さな星に、Uaの表情がぱぁ! と明るくしながら「うん!」と嬉しそうな声で答えた。
とことこ、とゆっくりながらも、光っていたり、揺れていたりするものを探して、Uaと小さな星は広場を歩く。
「そういえば……」
いくつめかの星の粒を集めたあと、Uaが、ゆっくりと立ち止まって呟く。
「どうしたの?」
相変わらずUaの頭に乗ったままの小さな星が、Uaの小さな声に言葉を返した。
「さっき、お星さまが、このきれいな葉っぱもお星さまのキラキラって言ってたけど……」
「うん。言ったね」
「葉っぱさん、すっごくきれいだけど……なんでこんな風にキラキラになっちゃったのかなって思って」
透明な薄水色の葉を見つめながら、Uaが疑問を口に出す。
そんなUaに、小さな星は、「ああ。んーっとね、確か……」と何かを思い出そうとするような声をこぼした。
「ああ、そう! 思い出した。うーんと、たしか……ボクたちの星の粒、Uaのいうキラキラ、をいっぱい吸いこんだ葉っぱとか花が、こうなっちゃうこともある、って早起き星さんたちが言って……って、Ua、どうしたの?」
Uaの疑問に答えていた小さな星に、Uaは小さな星を見上げながら、大きな目を輝かせた。
「お星さま、ものしりなんだね! オルじいみたい!」
キラキラと目を輝かせながら言ったUaに、小さな星は、「おるじい?」と不思議そうな声で問いかけた。
「うん! オルじいは、いろんなことを知ってるんだよ!」
「へぇ……魔法使いかなんかなの?」
「んとね、魔法使いはパンさんだけなの!」
「パンさん……?」
「うん! パンさんも色んなこと知ってるんだけど、オルじいのほうがもっと色んなこと知ってるの!」
「……なるほど……オルじいって、すごいんだね。あ、じゃあさ……」
「?」
「んと……このあたりで一番高い木がどこかも、知っていたりする?」
「いちばんたかい木?」
「うん、一番、空に近づける背の高い木!」
そう言った小さな星に、Uaがうーん、と首を傾げる。
「ぼくは分かんないけど、オルじいならお空もとべるから、知ってるかも!」
「連れて行ってもらえたら嬉しいんだけど……どうかな?」
「良いよ!」
小さな星の問いかけに、Uaはすぐに元気な返事を返し、またとことこと歩き出した。
「お空が明るいときは、オルじいはだいたいお家にいるんだよ」
「そうなんだ、じゃあいまもお家にいそう?」
「いると思う!」
小さな星を頭に乗せ、Uaは頷く。
「あのね、オルじいのお家は広場からはそんなに遠くないの。だからね、あとちょっとって言ってたから、先にキラキラ集めちゃおうかと思うんだけど……それでもいーい?」
「うん。Uaが大丈夫ならお願いしたいな」
「じゃあ、先にキラキラ集めだね!」
「ありがとう、Ua」
そう言った、Uaに、小さな星は嬉しそうな声で答え、ふたりはまたとことこと広場を歩き出す。
あっちにキラキラ。
こっちでキラキラ。
そっちでゆらゆら。
こっちでゆらゆら。
幸いなことに、小さな星の飛び散ってしまった星の粒は、そんなに広い範囲に飛び散ってはいなかったらしい。
少しだけジグザグと右に左にと歩き回ったものの、どうやらほとんどの星の粒が集め終わったらしい。
「身体がちょっと軽くなった気がする!」
そう言って、小さな星が、軽やかな動きでぴょん、とUaの頭から宙へと飛び出す。
きらら、と小さな星が動いた跡を、細かな光の粒が線を描いた。
「お星さま、元気になってきたね!」
「うん! それもこれもUaのおかげだよ!」
「ほんと? Uaでもやくに立ててる?」
「Uaがいなかったら、ボク、何もできなかったもん!」
「えへへ!」
ぴた、と頬にくっついてきた小さな星に、Uaはふへへ、と嬉しそうに笑う。
そこの部分だけ、やけにのんびりした空気が流れているような、そんな空気を纏い、Uaと小さな星は、時々たちどまりながら、広場を出てオルじいの家へと歩いていく。
「オルじいのお家と、Uaのお家はおんなじおっきな樹にあるんだー!」
「へぇ……そうなの?」
「うん! すべり台もあるんだよ!」
「すべり台?」
「そう! 降りるとき楽チンなの!」
「ふふ、そっか。そうだね」
ばびゅーん! って降りれるんだよ! と胸をはって言うUaに、小さな星がUaの頭の上でくすくすと楽しげに笑う。
ふたりが星の粒を集めるたび、小さな星のまわりでチカチカと光って散る小さな星の粒の色と明るさが増していて、いつの間にやら遠めから見ても、そこで何かが眩しく光っているのというのが、よくわかった。
「着いたー!」
そう言って、Uaが、大きな太い樹の幹の前で立ち止まる。
「うぉわぁ……ほんとに……大きな樹だね……」
他の樹たちと比べても、その樹はとても大きく、立派な樹で、Uaが言っていたように、確かにすべり台が樹の幹にそって、作られているようだった。
「大きいし、すごい背が高いねぇ、この樹」
「そうなの! すごい高いんだよ! でも、あんまりお家の場所が高いと怖いから、ぼくのお家はあの水色のお家のところだよ!」
水色の家 ―― そう言ったUaが指し示したのは、地面からはそこそこな高さ、かつ、すべり台と隣接した少し小さめの家。
「それでね、オルじいのお家は、ぼくのお家の上の、赤い屋根のお家だよ!」
「赤い屋根……? あ、あのお家だね」
Uaの家の上と言われ、小さな星も上を見上げれば、Uaのいうオルじいの家と、Uaの家の間には、大きな空間がひろがっていて、そこには長いはしごがかかっているようにも見えた。
「赤い屋根のお家まで、結構高いね」
「そうなの! オルじいはお空を飛ぶから高いところが良いんだって!」
「……なるほど」
にこにこと楽しそうに笑うUaに、小さな星はもう一度、上を見上げ、確かに、と頷く。
「ボクも高いところのほうが落ち着くかも」
そう呟いた小さな星に、Uaは「お星さまはオルじいと一緒だね!」と笑顔を浮かべる。
樹の幹を自分で一歩ずつ登り降りをしなくても上へ下へと移動ができる住民特製大きな籠へ、Uaと小さな星は乗りこみ、Uaが籠にとりつけてある太くしっかりとした紐を、くい、くい、と引っ張る。
すると、どこかに取り付けられているらしい木の実たちが、Uaが引っ張る度に、シャラシャラシャラ、と音を立てる。
すると、次の瞬間、「行くぞー!」という誰かの声が、樹の上の方から、Uaたちのいる地上へと響き、Uaの乗った籠が、グイッと上へと引っ張られ始めた。
「わぁ……すごい!」
するすると上がっていく籠の中で、小さな星が感動の声をこぼす。
みるみる内に、Uaの家の下、横、屋根の上、と通りすぎ、Uaがもう一度、籠につけられた紐をくい、くい、くい、と今度は3回、しっかりと引っ張り、木の実が、ジャラジャラジャラとさっきと同様に音を立て、Uaたちの乗った籠がゆるゆると減速して、止まった。
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