第四話 ナマケモノのUaと小さな星
そういえば、としりもちをついたままだったことに気づき、Uaがゆっくりながらも、もぞもぞもそもそと体勢をかえていれば、「ねぇねぇ」とまあるい光がUaを呼んだ。
「むう……」
けれど、「ねぇ」と呼ばれたほうのUaは、なにやら、不満げなを浮かべて、まあるい光を見つめた。
「……むう……」
「なに、どうしたの?」
「あのね、ぼくは、ねえじゃないの! Uaっていうんだよ!」
「Ua?」
「そう! ぼく、ナマケモノのUa!」
座ったまま、足をのばし、両手は前でついたUaはまあるい光に自分の名前を伝える。
「そっか! 覚えたよ! Ua!」
ぴょん、と元気よくはねたまあるい光に、Uaは、えへへ、と嬉しそうな笑い声をこぼしたあと、「そういえば……」と静かに呟いた。
「なに? Ua」
「キミは……さっきのお星さまなの?」
「さっきの?」
「さっきそこにいて、お花さんに食べられちゃったお星さまとおんなじお星さま?」
そこ、とほんの少しだけ離れた場所を振り返りながら言ったUaに、「同じ!」とまあるい光 ―― いわば、小さな星 ―― は答えた。
「そっか! お星さまもぶじだったんだね! お花さんに食べられちゃったからしんぱいしちゃった」
「あれは、食べられたんじゃなくて、さっきのもボクだったんだよ」
「……?」
小さな星の言葉に、どういうこと? とUaが首を傾げる。
「空から落ちちゃった時に、いくつかボクの色んな星の粒がはなれちゃったんだ」
「たいへん……!」
「うん……それがないと、家に帰れなくて……」
「っ、たいへん!!」
「うん……うちに帰りたい……」
ちょっととびはねたり、ちょっと大きくなったりしながら小さな星は説明をしていたものの、最後には明るかった光が、少し暗い光へと変わっていった。
そんな小さな星に、Uaは少しだけ何かを考えたあと、「あの……」小さな星に向かって声をかける。
「ねえねえ、お星さま」
「ん……?」
「そのピカピカ? って、どこにいっちゃったの?」
「たぶん、そんなに離れていないと思う」
「えと……この広場の中くらい?」
Uaの問いかけに、小さな星はきょろと広場を見渡し、「たぶん……」とうなずく。
そんな小さな星を見て、Uaは、パアッと表情を明るくして「じゃあ!」と言いながら片手で自分を指さす。
「じゃあ、ぼくも一緒にさがしてもいい?」
「え?」
「ぼく、ゆっくりでしかうごけないから、ひろばをさがすだけでもみんなよりも時間がかかっちゃうんだけど……」
しょんぼりした顔でそう言ったUaに、小さな星が、少し斜めに傾く。
「Ua? どうしてしょんぼりしちゃったの?」
そう問いかけられたUaが、ばっ、と小さな星を見る。
その顔は、なんだか少し泣き出しそうで、小さな星は、「Ua?」と思わずUaの名前を呼ぶ。
「だって……だって、ぼく、ゆっくりなんだ……」
「……ゆっくり?」
「……うん……」
小さな星と視線があったのもつかの間。すぐに地面へと視線を落としたUaは、さわさわと地面の葉を触りながら、ぽつりぽつりと言葉を続けた。
「すっごくがんばっても、ゆっくりゆっくりでしか動けないの。ゆっくりじゃ、だめって言われてるのに……」
そんなUaの言葉に、小さな星が「うん?」と不思議そうな声をこぼす。
「なんでゆっくりじゃだめなの?」
「だって、なんにでもね、時間がすっごくかかっちゃうんだ。だから、もしかしたらお星さまがひとりでさがしたほうが、すぐに見つかるかもしれない……ぼく、ゆっくりでだめだから……ちょっとしかお手伝いできないと思うんだ……」
「そうなの?」
「……たぶん……。ぼく、ゆっくりすぎて、みんなに置いていかれちゃうくらいだから……」
すっかり元気をなくし、しょんぼりしてしまったUaの足に、小さな星は、ぴょん、と飛び乗る。
「みんな?」
「うん。いっしょにあそぶおともだちのみんな」
「でもUaのこと置いて行っちゃうんでしょ?」
「うん……」
「お友達なのに?」
「……うん……ぼくが、みんなみたいに、パパッとできなくて、時間がかかっちゃうから、しょうがないんだって」
小さな星の問いかけに、Uaは泣きそうになりながら答える。
ー Uaはおそいからあとでね!
ー なんでパパッとできないの? こんなのシャッシャッとすぐできるじゃん!
ー いまからおにごっこだから、Uaはあとでね!
みんなに言われた言葉が、Uaの頭の中に響く。
言われたくない、言われて、胸が痛い。
そんな言葉たちに、Uaの目にじわりと涙が浮かんだ。
「うーん……ボクには分からないな……」
小さな星の言葉に、片手で胸のあたりをキュ、と握ったUaは、さっきよりもさらに下を向いた。
そんなUaを見て、「んー、だってさぁ」と、小さな星が呟く。
「Uaにとっては、大事なお友達なのかもしれないけど……」
「うん……」
「でもさ、ゆっくりってさ、何がダメなの?」
「……ぇ……」
ぴょん、と小さな星は、Uaの足から、足に置かれていたUaの手に、飛び移る。
「たしかにUaはゆっくりなのかもしれないけど、ちゃんとがんばってたんでしょ?」
「でも……」
「それに、Uaがゆっくりでしか動けないのも、何か理由があるのかもしれないよ?」
顔も口もどこにあるか分からないけれど、小さな星は、Uaの顔を覗き込みながら言葉を続ける。
「理由……?」
「そ、理由。それにさ、あの子たちは、誰もボクに気づけなかったんだよ。Uaは、ゆっくりだったから、ボクに気づいてくれたし、優しいから助けてくれたんだよ」
そんな小さな星の言葉に、Uaが顔をあげ、小さな星を見やる。
「みんな、気づかなかったの?」
「うん。すっごい頑張って揺れたのに、だーれも気づかなかった!」
ひどい話だよね!
小さな星のその言葉に、頬をぷくー! と膨らまた様子が見えた気がして、Uaは、ふふ、と小さく笑い声をこぼす。
「あ、そうだ。ねえ、Ua。さっき、キラキラか、もしくは透明な葉っぱ、見かけたりひろったりしてない?」
「!! キラキラな葉っぱさん! 見つけたよ! あ、えっと」
どこだっけ。
そう言って、Uaが花の近くを見れば、Uaがついさっき置いた場所に、置いたままの状態で透明な薄水色の葉はそこにあって、Uaは見つけた時と同じように、そっと優しく薄水色の葉を持ち上げる。
「この葉っぱもね、ボクのなんだ。Uaのいう、みんなが、誰も気がついてくれなくて、すっごく困ってた」
「そうだったの?」
「そう! でも、Uaは、Uaだけが気がついてくれた」
ぴょん、ぴょん、と器用に飛び跳ねながら、小さな星は、Uaの頭の上に飛び乗る。
頭にのった小さな星の姿は、Uaからは見えそうにない。
けれど、小さな星を落とさないようにしながらも上を見ようとしていたUaに、小さな星がUaの目の前に、キラキラと光るちいさな粉が降らせた。
「わぁ……!」
「ふふ。あのね、Uaがゆっくりだったから、ボクに気づいてくれたし、Uaが気づいてくれたから、ボク、またちょっと元気になれたんだ」
「そうなの? お星さま、元気になれた?」
「空から落ちた時に比べたら、Uaのおかけですっごいたくさん元気になれた!」
「お星さま、お空から……おちちゃったの?」
「……うん」
「けがは? してないの? いたいところは? だいじょうぶ?」
焦った声で問いかけるUaに、小さな星は「大丈夫だよ」と明るく答える。
「Uaはこんなに優しいのに……」
小さな声で呟いた小さな星の言葉は、Uaには上手く聞き取れず、Uaはほんの少しだけ、首を傾げる。
「なんでもないよ」
今度は聞こえる声でそう言った小さな星に、Uaがぱちくりとまばたきを繰り返した。
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