第三話 ナマケモノのUaと不思議な光
「具合がわるいわけじゃなさそう……」
『あの……っ!』
「びゃっっ?!」
ふいに、聞こえてきた見知らぬ声に、Uaの肩がビクゥッと大きく跳ね上がる。
その衝撃で、Uaの小さな手のひらから、小さな星が宙へと飛び上がった。
きら、きらららら。
Uaの手のひらから、落下していく地面へ、宙へと放り出された小さな星の、小さな光の粒が、ゆるやかなカーブとももに描かれていく。
ー 小さい虹みたい
Uaがそんな風に思った直後。
光の粒をまとった小さな星が、揺れて光っていた花の光の中へ、シャラ、いうと音とともに、一瞬で吸い込まれていった。
「わ、わー?! たいへん!! お花さんがお星さま食べちゃった?!! ペッて! ペッてして!!」
小さな星と、揺れて光っていた2つの光が合わさり、さきほどよりも、さらにきらきらピカピカと花が光り輝く。
一方で、突然の事態に、Uaはパニックになりかけながらも、必死で花へと声をかけ続けた。
「お花さん!! お星さまはご飯じゃないの、だから、食べちゃダメなの!お星さまどうしよう?! どうしようっ?!」
『あの!』
「ぺってしないと!」
『ねえ!』
「どうしよう!!!?」
一向に小さな星を吐き出す気配のない揺れる花の様子に、Uaにはどうしたら良いのか分からず。
Uaの大きな目に溜め込んだ大粒の涙がいよいよ流れ落ちそうになったその時、『ねぇってば!!』と誰かの声が突然、すぐ近くから響いた。
「……びゃっ?!」
急に聞こえてきた声にUaは心底驚き、不思議な声とともに、身体が勝手にその場で少し飛び上がった。
『あの!すみません!』
ぶるぶるぶるぶる。
目をぎゅっと閉じ、バッと口元を両手でかくし、Uaの身体が小刻みに震える。
『聞いて! 聞いてよ!』
ぶるぶるぶる。
『ねえ!! お願いだから聞いてよ!!』
「……?」
Uaを驚かせたどこからか聞こえてきた声は、なんだか泣き出してしまいそうで。
そのことに、何度目かの声で、Uaはやっと気がつき、おそるおそる、目を開け、口元から手を離した。
きょろ、きょろきょろ、と周りを見回してもUaには誰の姿も見えない。
『そっちじゃなくて、下! 上下のした!!』
「うえしたのした……?」
した、と言う言葉に、Uaが地面を見てみれば、どうやら、声はきらきらピカピカの光の中から、聞こえてきているようだった。
「………………お花さん……?」
「花じゃない! ボクは星!」
「…………お星さま……?」
もう一度しゃがみこんだUaが、不思議そうに光る花を見つめ、問いかける。
「お星さま……?」
顔は見えない。
けれど、自分を『星』だと言った声に、Uaは首をかしげながら、もう一度問いかけた。
「お星さまって、お空にいるお星さま?」
「も……もちろん!」
「…………ここ、お空になっちゃったの?」
「……ちがう……」
「…………でも……お星さま?」
「……うん」
「うん????」
自分の問いかけに言葉は返ってくる。
けれど、
「どういうこと……?」
どういうことなのだろうか。
『星』のいう言葉の意味が、Uaにはよく理解できず、Uaはさらに深く首を傾げた。
少しのあいだ、うーん、うーん、とUaは何かを考えこむものの、そんなUaに『星』がしびれを切らし、「あの!」とまたUaに声をかけた。
「なあに?」
「その…………」
「?」
「ちょっと、手伝って……欲しい……ことが……」
自分から声をかけた『星』が、突然ゴニョゴニョと口ごもる。
そんな『星』に、Uaが「なあに?」と答えた直後、『星』がいるらしい揺れて光る花が、キュッ! と突然、細く長い縦長の花へと形を変えた。
『いたっ?! いたい!! 何なになになに?! 』
痛がる声など聞こえていないかのように、突然、細く長くなった花は、まるで両手を揃えてすわる猫のように、花の下の方をぽっこりと膨らませた。
「お花さん?! お星さま?! だいじょうぶ?!!」
急に膨らんでしまった花びらをUaが思わず両手を伸ばす。
直後、ついさっき膨らんだ花が、桁違いにぐんとまぶしく明るく光りを放った。
「わっ?!」
突然眩しくなった視界に、Uaがぎゅっと目を閉じた次の瞬間、ポンッという音があたりに響いた。
「わぁぁぁあ?!」
「わぁ?!」
突然の叫び声に、Uaが思わず目を開ければ、目の前には、数秒前にはいなかったまあるい光がいて、Uaもまた、大きな驚きの声をあげた。
ぱち、ぱちくり。
驚いてしりもちをついたまま、宙を見上げたUaは、大きな目で数回のまばたきをしたあと、ぽかんとした表情を浮かべている。
一方で、まあるい光はというと。
「っ!! 出れたっ?! 出れたーー!!! やったー!!」
ほんの少しのあいだだけ、ぷるぷると震えてはいたものの、すぐに何かに気がつき、嬉しそうな声をあげながら、ぴょん! ぴょーんっとまるで空中に地面でもあるかのように、まあるい光は、しりもちをついたままのUaの目の前で、ぴょんぴょんと飛び跳ねはじめた。
「……?」
そんな大喜びで感情を爆発させているまあるい光とはまるきり反対に、Uaはさっきと変わらず、ぽかーんとした表情のまま、固まっている。
ぴょん、ぴょん!
ぴょーん!
時折、「外だー!」と本当に嬉しそうな声を出しながら、Uaのまわりをまあるい光がぴょんぴょんと跳ね回る。
何回目の頃には、見ていても目が痛くないくらいの明るさになっていたまあるい光が、ふいに、「あっ!」と大きな声を出したあと、ずずいっ、とUaに近づいた。
「??!!」
「キミだよね! 助けてくれてありがとう!!!」
急にUaの目の前に飛んできたまあるい光は、ほんとにありがとう! と何度もお礼を言いながら、驚き固まるUaの周りを何回も何周も飛び回る。
「……なんのこと……?」
一方で、お礼を言われたUaには、こころあたりがなく、きょとん、と不思議そうな顔をしたまま、こてんと首を傾げました。
「なにって、きみはボクを助けてくれたんだよ!」
「……?」
本当に何のことなのだろうか。
まあるい光が言っている「助けてくれた」の意味が分からず、きょとん、としたまま、Uaは瞬きを繰り返した。
「え……? キミじゃないの?」
「……?」
「んんん?」
「……?」
じい、とUaに近づきながら言うまあるい光に、Uaはさらに首をかたむける。
そんなUaに「でも、アレは確かにキミの手だったけど……」とまあるい光はひとり小さく呟く。
「あの……お花さんは……? だいじょうぶなの……?」
まあるい光越しにUaが見えるのは、揺れる花の、葉の先のあたりだけで、花に何かあったのでは、と心配になっていたUaは、おず、とからだを起こしながら、Uaはまあるい光へ問いかけた。
そんなUaの言葉で、ようやく花の存在を思い出したらしく、まあるい光は「あ!」と大きな声をこぼした。
「うん! だいじょうぶだよ! ほら、見て!」
そう言って、まあるい光はチカチカと光りながら、ほんの少し横にずれる。
「よかった! 元気そう!」
「でしょ!」
まだ少しキラキラと光を放つ水色の花の上にぴょんと乗りながら、まあるい光は明るく答え、そんなまあるい光と、元気そうな花を見て、Uaが安心したように小さく息をはいた。
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