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第6話

 最近、モンスターの群れをよく見かける。


 村人たちの会話にそういった内容がよく混ざるようになっていた。

 村一番の魔法使いとして、リーゼロッテはそういったモンスターへの対処をお願いされることがある。

 この村で戦闘要員と呼べるのは彼女を含めて数人だけだった。その中でも魔法が使えるのはリーゼロッテだけ……。

 彼女が村一番の魔法使いと呼ばれる理由はなんのことはない、魔法使いはこの村に彼女一人しかいないからである。


 リーゼロッテはいつ自分にそういった話が来てもいいように道具の準備などをしつつ、それに平行して今日も屋外でソアラへの授業を行っていた。

 今も、少し離れたところを歩いていた村人二人の会話がかすかに聞こえてきたが、それもやはり多くのモンスターを見かけたという内容だった。

 ソアラの耳にもそのやりとりが届いたらしく、それに対する返事というわけでもないだろうが、彼は小さな声でつぶやいた。


「モンスターの群れか……ファイアーストームならまとめて倒せるかな……?」

「え? なぜファイアーストームのことを知っているのです?」


 聞き捨てならないことが聞こえたリーゼロッテは、まさかと思いつつソアラに疑問を投げかけた。杞憂きゆうであってほしいと願いながら。

 ソアラはリーゼロッテの緊張を帯びた声に一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに思い当たることがあったのか、何のことはないといった風情で口を開いた。


「……ああ、まだ授業で習ってませんでしたっけ。でもこの前試してみたら、意外と簡単に使えました」

「は!? ファイアーストームの魔法を発現させたのですか!?」

「は、はい……あ、範囲が広すぎてこの村で使うのは危険ですから、村から離れた場所でしか使ったことはないですよ?」


 リーゼロッテの剣幕にソアラが少し怯えながらも慌ててそう付け加える。

 村でファイアーストームを使うなんて危険だから先生は怒ったのだろうと考えたからだが、リーゼロッテが驚愕したのはそのことについてではない。

 ではなぜ驚いたかというと、リーゼロッテは高位魔法であるファイアーストームをまだ使うことができないからだ。

 ソアラは嘘をつくような子ではない。本当にファイアーストームの魔法を身に着けてしまったのだろう。しかも自力でだ。


「先生もモンスターの群れはファイアーストームでまとめて一掃するんでしょう? 僕もモンスター退治に出かけたいけど、さすがにまだ年齢的に駄目ですよね?」

「え、ええ……もちろんです」


 驚きからなんとか表面上だけでも平静さを取り戻したリーゼロッテは、ソアラの問いかけにそう答えた。

 この『もちろんです』は言うまでもないが後半の発言に対してだ。彼女はいつもファイアーボールを主体にモンスターと戦っている。


「そうですか……僕も先生と一緒にファイアーストームでモンスターを蹴散らしたかったな……」


 その言葉に悪意はない。ソアラは自分の先生がファイアーストームを使うことができないのを知らないのだから。

 しかし、もはやちくりとした痛みどころではない、じくじくとしたものがリーゼロッテの心の中に広がりつつあった。

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