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第2話

 あれからひと月ほどが経過した。

 ソアラはリーゼロッテの下に毎日のように通っている。

 まだ魔法使いになるための講義までは進んでおらず、基礎的な教養の授業しか実施されてないが、ソアラは勉強に熱心に取り組む良い生徒だった。


 しかしそんなある日、教室に姿を見せたソアラは困惑を顔いっぱいに貼り付けたような表情をしていた。

 自分の席に着かずにリーゼロッテのそばにやってくると、すがるような瞳で彼女を見上げる。


「先生、なんだか僕ちょっと変になっちゃったみたいなんだけど……」

「変、とは?」


 あまりに説明不足な言葉に、ソアラの顔を見つめ返したリーゼロッテも首を傾げるしかない。

 ソアラは先生にうまく伝える言葉がないかと、必死に考えを巡らせる。


「うーん、頭の中がぐるぐるしてるっていうのかな……」


 しかし、ソアラから出てきたのはさらに困惑が増すような言葉だった。


「ぐるぐるですか?」


 リーゼロッテは魔法使いで知識も豊富だが、医者ではない。

 でもせめて何か自分に分かることはないかと、いつものようにソアラのステータスを見るため魔法を唱えた。


 力  :3

 素早さ:4

 体力 :3

 賢さ :11


「あなたの賢さのステータスが、ちょっと変になってますね……」


 ステータス表示を一目見たリーゼロッテが、呆然といった様子でつぶやいた。


「へ、変になったの!? ど、どういうふうに?」


 ソアラの今にも泣きだしそうな声に、リーゼロッテがはっとなった。あまりの異常事態だったのでつい独り言がこぼれてしまったのだが、これではソアラを不安にさせるだけではないか。


 だが、しかし。

 さきほど彼女が変だと評したように、今のソアラの年齢で賢さが10を超えるのはありえない事態だった。

 それに、昨日チェックした時はたしか、賢さのステータスは3だったはずなのだが。

 いくらなんでも一日でそんなに成長するなんてありえない。3から11になるなんて……。


 その時、ある閃きがリーゼロッテの脳裏に走った。

 3が11と表記される。このことに関して、リーゼロッテは思い当たることがあったのである。


 ――これは……ひょっとして、賢さのステータスだけが二進法で表示されてるの?


 黙考し終えたリーゼロッテが視線を動かすと、そこには不安げに見上げるソアラの顔があった。

 確信があるわけではなかったものの、せめてソアラが安心できればと、リーゼロッテは答えになるようなことを口にする。


「私も知識として知っているだけなのですが、これは二進法というやつなのかもしれません」

「にしんほう?」

「ええ、物の数えかたのひとつです。その二進法を用いた場合、1は1なのですが、2は10になり、3は11になる……と、ちょっと特殊な数えかたをするのです」

「……ええっと、僕の賢さのステータスがそのにしんほうっていう書かれ方になっているということ?」

「おそらくは……そうでないと説明がつかないので……」


 リーゼロッテは、昨日にくらべてソアラがずいぶんと大人びたしゃべり方をしていることに気づいた。もちろんまだまだ子供らしさを感じさせる範囲ではあったが。


「だ、大丈夫かな?」

「……しばらく様子を見ましょう。体が苦しいとかそういったことはないのですよね?」

「うん。それは平気だよ。あたまのぐるぐるも先生と話してるうちに治ってきたみたい」

「……それは良かったです」


 ほっとしたリーゼロッテは笑みを浮かべてソアラの頭を撫でた。先ほどまでは不安でいっぱいだったソアラも、今では照れくさそうにしているだけだ。


 リーゼロッテの言葉の通り、様子を見ることにした二人。

 今日の授業もこれまで通りに行うことにし、ソアラもいつものように真面目に講義を受ける。

 リーゼロッテがもしかしてと想定していたことではあったが、授業ややりとりを通してはっきりと分かったことがある。ソアラが一日前よりもずいぶんと理解力が上がっているということだ。


 それで翌日から授業の内容をレベルアップさせ、まだ先の予定だった魔法の基礎知識に関する授業も行うようにスケジュールを変更する。

 ソアラは喜んでいたが、リーゼロッテはこれでいいのだろうかと少し不安を覚えていた。

 しかし、ソアラが授業中ずいぶんと退屈そうに見えたものだから、仕方がないことだと自分を納得させる。賢さが本当に11なら、今の内容ではおそらく簡単すぎるはずだ。


 結局それから数日経ってもソアラのステータスが元に戻るようなことはなく。……だけど、ソアラも特にそれ以上異変を感じることもなく。

 リーゼロッテとソアラは不思議な気持ちになりながらも、普段通りの生活を続けた。

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