第1話
王都から少し離れた、とある村。
一人で住むには広い屋敷の一室で、ささやかな規模の授業が行われていた。
自作の教壇に立ち、教鞭をとっているのはリーゼロッテ。彼女はこの屋敷の主であり、この部屋を使った小さな教室の先生でもある。
そしてリーゼロッテが見守る中、椅子に座って机の上の教科書を読んだり質問したりしている、たった一人の生徒がいた。名前はソアラという。
ソアラは少年と呼ぶにはあどけない、まだ小さな男の子であった。
ソアラは瞳をキラキラと輝かせて先生であるリーゼロッテを見つめている。勉強によってさまざまな知識を得るのが楽しくてしかたないのだ。
「せんせい、いちたすいちは、にでいいんだよね?」
「はい、そうですよ。あなたは賢い子ですね」
ソアラの質問にリーゼロッテが笑顔で答える。
「えへへ……」
憧れの先生に褒めてもらえたソアラも満足げに微笑んだ。
「ぼくも、いつかせんせいみたいにりっぱなまほうつかいになれるかな?」
「ええ、きっと。一生懸命に勉強すればなれますよ。だから一緒に頑張りましょうね」
「わあい、うれしいです」
リーゼロッテの教室は、時として魔法を学びたい者にとっての学び舎にもなる。
将来魔法使いになりたいと願うソアラは、リーゼロッテにとって初めてとなる本職の生徒でもあった。
とはいえソアラはまだ小さいため、しばらくは基本的な教養を身に着けるための勉強が続く。魔法使いになるための授業が始まるのはとうぶん先の話だ。
リーゼロッテは魔法を発現させる言葉をつぶやいた。たちまちソアラのそばに彼のステータスを示す数値が現れる。今これを見れるのは、魔法を使った本人であるリーゼロッテだけだ。
当然のことであるが、ソアラのステータスには子供らしい数値が並んでいた。
力 :2
素早さ:3
体力 :2
賢さ :2
今の年齢を考えると、いたって普通のステータス。
現時点では魔法使いに適正があるとも言えないし、ないとも言えない。
――将来どのように成長するか未知数だけど、ちゃんとこの子を教え導かなければ。
それがこの村一番の魔法使いと呼ばれている自分の務めだと、年若いリーゼロッテは気を引き締めた。