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です~ノート

作者: 聖心仮面

オキノシャケオは、天才幼稚園児。彼の家族は、彼の天才的な計算能力によって何度も財政危機から救われた。家計簿に隠された1374回の計算間違いを指摘し、赤字の淵から家族を引き戻した。


幼稚園で、シャケオはいつも一人だった。彼の親友は「数学大全集」、ページをめくるたびに彼の心は高鳴った。しかし、その本は他の子供たちを遠ざけ、先生からは禁止された。シャケオは兄のマグロに数学を教えており、彼の成績を飛躍的に向上させていた。


オキノシャケオは常に語尾に「です~」をつける。それは、彼の独特な性格と背景に由来していた。シャケオは幼いながらに家族を支える重要な役割を担っており、その責任感から常に丁寧語を使うようになった。しかし、彼はまだ幼稚園児であり、子どもらしい無邪気さと遊び心も忘れていなかった。そのため、形式ばった「です」に、幼さを表す「~」を加えることで、彼の内面にある天才的な一面と子どもらしい一面のバランスを表現していた。


雨が降りそうな曇り空の下、オキノシャケオは幼稚園からの帰り道を歩いていた。彼の小さな足は、濡れたアスファルトを跳ねる水しぶきを上げながら、家へと急いでいた。その時、彼の目に異様な光沢を放つ黒いノートが映った。シャケオは好奇心に駆られ、ノートを拾い上げた。シャケオは、それを「です~ノート」と名付けた。


シャケオは、黒いノートを手に取り、その滑らかな表紙をなでながら、兄へそれをプレゼントしようと思った。彼の心はワクワクでいっぱいだった。兄のマグロがこのノートを開いた瞬間の驚きと喜びを、シャケオは目に浮かべていた。


「マグロ兄ちゃん、これを使ってもっと数学が好きになってくれたらいいです~」と、シャケオは心の中でつぶやいた。彼は兄がノートを開くときの笑顔を想像し、その笑顔を見るためにはどんなことでもすると決心していた。


シャケオは、兄へのプレゼントとして、その表紙に名前を書こうとした。しかし、表表紙も裏表紙も真っ黒で、一文字も書けそうになかった。彼は少し困惑しながらも、ノートを開いて内側の白いページを見つけ、そこに兄の名前を書き込んだ。


「オキノマグロへ」と、彼は丁寧にペンを走らせた。その文字はノートの白いページに映え、まるでノート自体が兄への贈り物であることを認めたかのようだった。


シャケオはノートを大切に抱え、家に帰るとすぐに兄のオキノマグロの部屋へと向かった。シャケオは、心躍らせながら兄の部屋に足を踏み入れた。しかし、そこにはいつものように数学の問題に取り組む兄の姿がなかった。部屋は静まり返り、兄の存在を感じさせるものは何もなかった。シャケオは戸惑いながらも、兄がどこに行ったのかを探し始めた。


シャケオは兄がよく遊びに行く公園へと急いだ。しかし、そこにも兄の姿はなく、ただ風が木々を揺らす音だけが聞こえていた。シャケオは漠然とした不安を感じ始めた。


シャケオは、家族の食卓を囲みながら、兄のオキノマグロがどこにいるのか尋ねた。「マグロ兄ちゃんは? どこに行ったです~?」 シャケオの声は震えていた。しかし、家族から返ってきたのは、「そんな人、知らないよ」 という冷たい言葉だけだった。彼らは兄の存在自体を覚えていないようだった。母は首を傾げ、父は眉をひそめ、妹はただ茫然としていた。


シャケオは家中を探し回った。兄の部屋は物置に変わっており、兄の写真も、兄の持ち物も、すべてが消えていた。まるで兄がこの世に存在しなかったかのように。シャケオは兄との思い出を胸に抱き、涙を流した。


シャケオは、部屋の隅で黒いノートをじっと見つめていた。兄のマグロが消えてから、時間が止まったかのように感じられた。家族の記憶からも兄の存在が消え去り、シャケオは孤独と戦っていた。


「もしかして、このノートが…」シャケオの心に疑念が芽生えた。兄が消えたのは、このノートに関係があるのではないかと。


シャケオはノートを開き、「オキノマグロへ」と書かれた文字を見つめた。その文字からは、不気味な光が漏れていた。シャケオは、この文字が兄の消失につながる鍵だと直感した。


シャケオは、ベッドに横たわりながら、黒いノートの不思議な力について考えていた。「もしかしたら、ノートに書いたものが消えるのです~?」そんな疑問が彼の心を支配していた。


シャケオは何度も寝返りを打ち、眠ろうとしたが、不安で心が休まらなかった。「どうすればいいのです~?」彼は悩みに悩んだ。ノートに何かを書くことで、それが現実から消えてしまうかもしれないという恐怖が、彼を夜通し目覚めさせていた。


「のどが乾いたです~」 シャケオは渇きを感じ、ベッドから這い出た。家の中は静かで、暗闇が支配していた。彼は台所へ向かい、冷たい水を一口飲んだ。その時、廊下の先にあるおじいちゃんの部屋から、ほのかな光が漏れているのに気づいた。


おじいちゃんは、鏡の前で慎重にドライヤーを、頭頂部に一本しかない髪に当てていた。「おじいちゃん大変そうです~…。いっそ無い方が気が休まるかもしれないです…」シャケオは心配そうにその様子を見ていた。彼はふと思いついた。「そうだ!おじいちゃんの髪、無くしてあげるです~」 これでノートに本当に不思議な力があるのかどうか、試すことができるし、おじいちゃんも髪の毛を気にすることなく、もっと幸せになれるはずです~。


シャケオはノートを開き、ページに「おじいちゃんの髪の毛」 と書き込んだ。彼の手が止まると同時に、おじいちゃんの髪の毛は跡形もなく消え去った。おじいちゃんは自分が今まで何をしていたのかと、不思議そうにドライヤーを見つめた。


しかし、シャケオはまだ気づいていなかった。彼の行動が引き起こした変化は、ただおじいちゃんにとどまらなかった。世界中のおじいちゃんたちの髪の毛が、同じ瞬間に消えてしまっていたのだ。


シャケオは、手にした黒いノートを見つめながら考えていた。「このノートを使えば、この世に無い方がいいものを消すことができるです…」彼の心は希望で満たされた。「いらないものはおかたづけです~」そうつぶやくと、彼は決意を新たにした。


シャケオは、街の喧騒を背に歩いていた。そんな中、暗い顔をした学生たちの会話が耳に入ってきた。「増税ってこの世界に必要ないと思うんだけど」その言葉が、シャケオの心に響いた。


シャケオは、手にした黒いノートに「増税」 と書き込んだ。彼のペンが止まると同時に、世界中から増税が消え去った。国々の政策が一変した。


太陽が昇り、新しい朝が訪れた。街は歓喜の声で満ちた。カフェのテラスでは、人々がコーヒーを飲みながら笑顔で話し合っている。


「もう、給料から引かれる税金を心配しなくていいんだよ!」 と、一人の男性が友人に話すと、周りの人々も彼の喜びに共感した。その様子を見たシャケオは世直しの第一歩に手ごたえを感じた。


次の日、シャケオがテレビのニュースを見ていると、地球温暖化についての特集が流れていた。画面には氷河の溶ける映像や、異常気象による被害の様子が映し出されている。シャケオは、これらの映像に心を痛めながら、「二酸化炭素なんか無くなった方がいいです~」とつぶやいた。


シャケオは、ノートを開き、ページに「二酸化炭素」と書き込んだ。彼のペンが止まると同時に、世界中から二酸化炭素が消え去った。工場の煙突からは二酸化炭素が除かれた蒸気が出るだけになり、車の排気ガスからもなくなった。


二酸化炭素が消えたことで、地球の気温は急速に下がり始めた。人々は一時的に喜んだが、やがて植物が枯れ、食料が不足し始めた。二酸化炭素が光合成に必要であることを、シャケオは忘れていたのだ。


シャケオは、二酸化炭素が持つ生態系におけるバランスの重要性を理解した。二酸化炭素はただの温室効果ガスではなく、地球上の生命にとって不可欠なものだった。科学者たちは解決策を模索したが、二酸化炭素が消滅した原因は分からず、人類は滅亡の危機に瀕した。


シャケオは、自分の行動の結果にパニックに陥った。彼は震えながら黒いノートを取り出し、マッチを擦った。一瞬で炎がノートを包み込んだ。


ノートが燃えるにつれて、空気中の二酸化炭素が元に戻った。枯れた植物が再び緑を取り戻し、動物たちが生き返り、人々の顔には安堵の表情が浮かんだ。世界は、ゆっくりと元の姿を取り戻していった。


そして、シャケオの兄、オキノマグロが目の前に現れた。シャケオは泣きながら兄に駆け寄り、強く抱きしめた。「マグロ兄ちゃん…!」 兄はきょとんとして、涙を流すシャケオを見つめた。

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