恩人へ
町のある一つの店、ある本屋の店主として、
メガネをかけた、腰まで伸びた緑色の髪の少女リーナは、兄と共に、この本屋で働いていた。
本棚に収められた本を手に持った埃取りで綺麗にしていく。
本は繊細だ。なるべく綺麗にお客様に手を取って頂く為に、毎日の手入れは欠かせない。
「うん、これくらいでいいかな」
ひとまず、掃除をあらかた終え。
手に持った掃除道具をしまい椅子に座る。
周りを見て綺麗になった。お店を見て達成感を覚える。
そのときある場所が目に入った。なんの変哲もない。お店の中にある。窓の一つそこから見える景色、
それにある人を思い出してため息をついてしまう。
「はあ、ってだめだめ暗い気持ちにならない!
あの人に会ってから精一杯自分の出来る事をするって決めたでしょ!」
頭を振り手で自分の口に触れ口角を上げる。
せめてお客様の前では、あの人に褒められた笑顔で
いなきゃと顔に力を入れる。
今お店の中に誰もいなくてよかったこんな所を見られていたら恥ずかしくて転げ回っていただろう。
最近ある話を兄から聞いてから、心が暗くなる事が多いこんな事はいけないとわかっているが、
どうしても
そんな時店の扉が開きお客様が入ってくる。
「いらっしゃいませ」
と声を出しお客様を歓迎する。
そこに入ってきたお客様は、ここら辺では見た事がない人だった。珍しくグレーの髪の色と透き通った蒼い目スラリとした綺麗な女性がいた。身体と白い布で覆われた剣を見て
おそらく冒険者なのだろうと思うが、この町で見たことのある。他の冒険者とは違う何か不思議な雰囲気を感じる。
「すいません。この国の歴史について書かれている本はどこにありますか?」
不意に声をかけられ見惚れていた。リーナはメガネを掛け直し、笑顔でお客様の希望する。歴史の本がある本棚へ案内する。
とは言え歴史と言っても
「歴史の本でしたらこちらに、どれになさいますか?歴史といっても過去のかなり範囲がありますが...」
いくつかの本を取り出しお客様に見せる。そうするとお客様は、数秒悩んだ様子を見せ、
「では一番古い歴史のものを」
「では...これですね」
「ありがとうございます。」
そんなやり取りを交わし本を手渡し元いた椅子に座る。
ふと気付く先程のお客様が、あの窓の近くに本を持って立っていた。
その姿に、つい
「あのぅ」
「はい?どうかしました?」
声が出てしまいお客様が不思議そうにこちらを見ている。つい言葉が口から出てしまった。
おかしなことかもしれない。でもその姿がどうしても気になって
「すいません。どこかであった事はありませんか?」
そう聞いてしまっていた。
不思議だ。確かに初めて会うはずなのにその窓での姿が、ある人と被って見えた。
お客様は手に持った本を閉じこちらを見ると
「すいませんまさかこんなに早く気づかれるとは、
もう少し様子を見た方がいいと思ってたんですが、」
そんな事を言うお客様に、目が離せない。
この人が何を言っているのかよくわからない、ただ聞かなければいけないと予感がした。
「貴方は何者なんですか?」
「申し遅れました。私は神楽と申します。
リーナさんに勇者が最後に訪れた町で、最後に救った人に彼女からの言葉を届けに参りました。」
それは少し前の話だった。最近森の魔物が凶暴化していると兄から話を聞いた。
兄は大丈夫だと言っていたが仕入れでよく森の近くを通る兄に何か出来ないかと
御守りを作る為に町の外へ出た。魔物に襲われてないよう。森から離れ出来るだけ町の近くで本を見ながら素材を探し夜も更けて来た頃、空からきた鳥の魔物に腕を掴まれた。
抵抗することもできなかった。声さえ出なかった
そうして私を攫った魔物は、
自身の巣へと連れ帰った。そこには多くの私を攫った魔物と同じ鳥の魔物が私に対して口を開いていた。
そこから確かな記憶はない。ただ覚えているのは逃げた事必死に、後ろを振り返らずただ魔物から離れる為に今考えれば、走ったところで逃げ切れる筈がない相手は空を飛べるのだすぐに追いつかれる。
ただあの時はそんな事を考える暇も無く後ろに迫る魔物から逃げて魔物が私を食べる前に、
私の後ろを光と轟音が通って行った。
後ろを振り向いて消えてしまった魔物と地形に唖然としながら、
目の前に降り立った金髪と蒼い目をした少女を見る。
その少女はこちらを見て
「リーナさん怪我はない?間に合ってよかった。」
そう笑顔で私を救ってくれた。
その笑顔に、緊張が解け意識をその少女の前で意識を失った。
次の日の朝、目を覚ました時、目に入ってきた光景はベットに入っていた自分と泣きじゃくる兄の姿だった。
目を覚ました後、兄は教えてくれた。私が魔物に襲われた後帰りを心配した兄が、私を探しそこに偶然居合わせたあの少女が一緒に探してくれて私を連れて帰って来てくれた事、
あの少女が、勇者だと言う事をベットから起き上がり
勇者様に感謝を伝える為兄に勇者様がいる場所を聞き、町の中を探すと
そこには、この町の人達の手助けをしている勇者様の姿があった。
自分の体より大きな木を持ち上げ人探しを手伝っている勇者様はこちらに気付くと
「よかった。目が覚めたんだね!」
笑顔でそう手を振った。
少し用があったそうで、私に店を案内してくれないかと言われ勿論断る理由などない。
勇者様を店へと案内し
店の中へと入ると、
「わーすごい城下町以外でここまで本が揃ってるお店ってそうないんじゃないかなぁ」
興味深いのかキョロキョロと本棚の周りを見て回りふとその場で止まると、
「リーナさんこの近にある森について書いてある本ない?」
急に名前を呼ばれ驚いたが最初にあった時も名前を呼ばれていたことに気づきおそらく
兄が教えたのだろうと思いつつ本を探し勇者様に手渡たす。
「えっと確かこれですね」
「ありがとうお代はいくら?」
そう尋ねる。勇者様に慌てて手を振り
「そんな命を救って頂けたんですお代なんて」
「そう?じゃあ少し借りるねすぐに返すから」
そう言い勇者様は窓の近くに立ち本を見始めた。
その姿がまるで絵画みたいに綺麗でその光景をよく覚えている。
そのあと勇者様は、町の人達を助けたり調べ物をした後その日の夜に去ることになり
それを兄と共に見送った。
「いやーこの町の人達にはお世話になったね。ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ勇者様には、大変お世話になりました。またいつでもこの町にいらして下さい。」
「そうかい?ガーデさんじゃあまた来ようかな」
「リーナさんも本のことありがとう参考になりました。次はちゃんと買うからね。」
そう礼を言う勇者様に手に持った淡く蒼く光る石で作った御守りを差し出す。
「勇者様、これを兄さんの物ともう一つ作ったんです。受け取って貰えませんか?」
「わあ、ありがとう大切にするね」
そう言い勇者様は、御守りを受け取ってくれどこにしまっておこうかと勇者様が探している時
その動きがふと止まりこちらを見る。
何かしてしまっただろうかとこちらも動きを止めると
「ちょっとごめん」
と言いながら勇者様が私の顔に触れる。
「え!?」
急な行動に驚いていると勇者様は、私の口に指を当て口角を上げさせると
「うんやっぱり笑顔の方がいいね。そんな不安そうな顔しないで確かに為には必要だとは思うけど、笑顔が一番リーナさんには似合ってると私は思うな」
そう言う勇者様は、
「心配しないで大丈夫だから」
そう言い勇者様は、あの森へと行ってしまった。
そんな勇者から
「私に勇者様からの言葉...」
何故私になのか、目の前のカグラと名乗った少女は何者なのか疑問は多くあるだけど、
そんな事はどうでも良くなるくらい
私は、
「聞かせてください」
また私を救ってくれた。あの人の言葉をまた聞きたかった。
「ええでは、」
この時、目の前少女の声が、確かにあの勇者様の声に変わった
「リーナさん元気ですか?
お兄さんのガーデさんも元気でしょうか。私はもう会う事は出来ないだろうけど、元気ならとても嬉しい。
...ごめんなさい。
また町に行くことが出来なくて、本を買いに行くことが出来なくて、ごめんなさい。
一つ気になることがあります。リーナさん私の死が
貴女にとって重荷になっていたりしませんか?
自分を責めてしまっていたりしませんか?
もしそうならどうか自分を責めないでください。
私はリーナさん貴女にすごく感謝してるんです。
実は、私あの森に行くこと少し不安だったんです。
久しぶりの一人での旅でしたし初めて来た場所だったので、
でもドレーラに立ち寄って色んな人に会って
よくしてもらって、リーナさんから御守りを貰って
勇気を貰ったんです。
だからもし私の死を知って落ち込んでいる人がいたら伝えて欲しい。
ありがとうって。私はみんなの町にいて凄く楽しかったんだって。
そして願うならドレーラに住む人達が笑顔で過ごせていることを願います。」
カグラさんが口を閉じもう勇者様の言葉があの綺麗な強くて優しいあの人の声がもう聞けないかと思うと
咄嗟に目を手で抑える。溢れ出してしまいそうな感情を宥めようとする。
だってあの人が、言っていた。私は笑っていた方がいいって。でもそんな小さな抵抗は、
目の前カグラさんが持っていた御守りで簡単に力を失った。だってそんなのずるい我慢出来るわけない。
沢山泣いた。辛くって悲しくてでも少し嬉しくて
「ヒック、私勇者様に救われたんです。
その恩を私は何も返せてないと思ってた。私は少しだけでもあの人の役に立てたんですね」
涙は止まらないでも言わなきゃいけない
「カグラさん私に、勇者様の最後の言葉を伝えに来てくれてありがとう。」
その言う彼女の顔は泣き笑いのような、そんな彼女の顔を見て神楽はフェリシアさんの言っていた事が、わかった気がした。
確かにリーナさんはとても笑顔が綺麗な人だと。
リーナさんが、泣き止むのを待ち
借りていた本を渡し御守りを見せ一つのお願いをする。
「リーナさん、この御守り私がこのまま持っていてもいいでしょうか?私も何故かこの御守りを見ると勇気が湧くんです。」
そうリーナさんに提案すると、
「ええ勿論、勇者様もたぶん貴女に持っていて欲しいと思っている筈だから。」
リーナさんの言葉に感謝しながら、神楽は御守りを懐にしまい。
店を出ようとした時、リーナさんに呼び止められた。
「カグラさん、また来てね!」
「ええ次はちゃんと買わせて貰います。」
「何言ってるんですか。お代は取らないって言ったでしょう。貴女は私の恩人なんだから。」
そう言う彼女の顔を見て確かにいい町だとそう神楽は再確認した。
彼女に見送られ、店の外に出るとそこには、
リーナの兄である。ガーデが立っていた。
「ガーデさん妹さんに会う許可とここまでの案内をしてくださりありがとうございます。」
そう言って頭を下げる神楽を見て同様にガーデも頭を下げ感謝の言葉を伝える。
「いやこちらこそありがとう。また来てくれ歓迎する。」
「ええ勿論」
そう約束し神楽はこの町の宿へと足を進めるのだった。
題名なのですが反対がなかったので、
3月3日の12時に死想英雄譚〜死して始まる物語〜
に変えさせていただきます。
よろしくお願いします。