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君を失ったから私は。  作者: 蒼井瑠水
1/3

あの人は、今

 私はこういう時、どうするべきか知らない。だから……、ごめん。


 ジリリリリリリリリっ。

「うるさーうぃ」

 ガチャン。

 目覚まし時計を止めて、目を擦る。七時四十分。まだ寝れる。

 カチャカチャ、時計をリセットして、と。これであと5分。我は眠る。

 すぴー。

「こぉらーー!!いつまで寝てんのー!?置きなさぁーい!!すず!!」

 ドタドタ、ばたん。

 かんかんかんかんかん!!

「うーん、あともうちょっとだけ〜」

「もう五十分よ!!家出てる時間でしょ!!」

 お母さんがフライパンとオタマの凶器セットでバカみたいにうるさい金属の打撃音をかましながらどんどん近付いてくる。

 それにだんだん近付いてきて、最終的には耳元で鳴らしてきやがる。

 ガンガンガンガンガン!!

「うるさいうるさいうるさーーあああい!!」

「だったら起きなさい!!」

 残暑も終わりかけ、肌寒い日が続くようになったこの頃、布団から出るのも億劫な所をやっとの思いで上体を起こす。

「なによー、もーまだ四十分でしょ〜?まだ五分も……」

「なーにいってるの!もう五十分過ぎてるのよ!支度しないとまずいでしょ!!」

 ……え?

「五十分?なにいってるの?お母さん、まだ四十分だったよ」

「?母さんテレビの時計表示見て言ってるのよ!?」

「え?あの左上の?」

 あの朝と夕方にしか現れない謎の時間指定での表示のアレ?

「ええ、そうよ」

 た、確かにあの時間リアルタイムで受信して表示してるので遅れる事なんてないけど、まさか……ね。はは……。

「もしかして、私の時計、狂ってる?」

「そういえばしばらく電池取り替えてなかったんじゃないの?」

 …………。

 はわ、はわわわわわわわわわわわっ!!

「なっ、なんで早く起こしてくれなかったの!!?超ギリギリになっちゃうじゃん!!」

「いっつもギリギリじゃない!早く支度しなさい、遅れるわよ!!」

「は、はいぃ〜〜〜!!」

 めっちゃ焦ってベッドから起き上がり、顔を洗って、急いで髪を梳かした。

 こういう時、髪がボブカットなのが一番の救いで、すぐに梳かし終わる。

 せっせせっせと制服へ着替え、「朝ご飯はー?」というお母さんの声にいらないと言うのも惜しく感じながら、バタバタと家を出た。

 私は自転車通学。だから、いつもある程度はゆっくりしていたが、今日はもうスカート履いてる事も忘れて全速力で立ちこぎして、学校に向かった。

 今朝は、いつもより冷え込んでいて、スピードを出して顔に当たる風が痛みを感じるほどだった。

 しかし、学校が見えてくるまでそんな事気に止まる事もなく、アドレナリンどばどばで懸命に自転車を走らせる。

 やっと校門まで見えてサドルに腰を下ろすと、朝の見守りの先生が校門を閉めようとしていた。

 今日は、生活指導、鬼の山野ではないみたい。よかった、他の生徒もちらほら駆け足で入っていたため、鬼の山野に見られたら呼び出しくらっていたかも。

 校舎に入ってからはゼエゼエ息を整え、ゆっくり廊下を歩いて教室に向かった。

 教室に入るとみんな小話程度に会話してほとんどの生徒が席に着いていたため、少しバツの悪そうに私は入る。

 案の定、数人は遅れて室内に入る私に視線を向けたが、すぐにそれは霧散する。

 自分の席に手を掛け、座ると一息吐いて結構詰まったスクールバッグから教科書とか取り出した。

 整理してる中、担任の先生が教室に入って教壇に立ったため、途中でバッグを机に掛け、出席に返事をした。

 それからはいつも通りだ、午前、午後と授業を受け、放課後になる。

 帰宅部の私は帰る前にトイレに寄り、バッグを持って下校しようと教室に戻るとそこには、一人机に突っ伏して、すすり泣く女子生徒がいた。

 他に生徒がいなくてその泣いてる女の子と教室の扉の前で立ち尽くす私しかいないこの気不味い状況に私はどうしていいか分からず、そっと教室に入り込む。なぜか忍び足で。

 ぬきあし、さしあし、しのびあし。

 ぬきあし、さしあし、しの……キュ!!

(あっ、やばい……上履き擦れちゃった……)

 女子生徒はすすり泣きを止めてぴくり、反応してこちらゆっくり向いた。

 その女子生徒の顔は涙と泣き顔でぐちゃぐちゃになっていて、すぐに向き直っては机にまた突っ伏す。

 この席、この顔、ショートカットのこの女子生徒は秋野澪さんだと思うけど、なにかあったのかな……。

(でも、他人の私が口出ししても、ね……)

 その澪さんに何かするべきなのではないかと頭で悩みながら、でも何もせずに横を通ってバッグを手に持った。教室を出るまで私の背中を澪さんが見てた気がする。

 けど、けど。

 私はこういう時、どうするべきか知らない。だから……、ごめん。


 翌日、秋野澪さんは学校に来ることはなかった。その翌日も、明後日も、明々後日も。

 これは中学二年生の時だ。

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