街中消毒員
「すみません?」
「はい」
「消毒液を貸してもらえますか?」
「はい。手を出していただければ、スプレーいたします」
「ここに、お願いします」
"シュー"
「ありがとうございました」
「今日が、清潔な一日でありますように。さようなら」
僕は消毒員。ずっと、菌がどこに多そうか、探している。職業として消毒をしている、プロの消毒員だ。
こんな世の中になってしまった。だからこそ、僕の綺麗好き部分が、役に立つ。そう思い、自ら志願した。
清掃員の、派生みたいなものだ。ユーチューバーと、 Vチューバーの関係性。それと似てるような、そうじゃないような。そんな感じだ。
街中消毒員という職業が出来たのは、つい最近。僕が300円台のたまごを、初めて買った、翌日のことだ。
消毒社会を嫌う人も、多数いた。生卵を、投げつけられた日もあった。アスファルトの生卵を、処理した日の夜から、生卵が食べられなくなった。ゆで玉子しか、食べられなくなった。そんなこともあった。
でも今は、楽しくやっている。とある会社の長い廊下。そこを、消毒液を染み込ませた雑巾で、一気に雑巾掛けしたりもした。
日本一ネコを撫でる人が、一日にネコを撫でた回数よりも。僕が、一日に消毒液付きの布で、手すりを撫でた回数の方が、多いんじゃないか。そう思うような、日もある。
ひたすら消毒液で、何かを拭き続ける。そんな毎日だ。ただ、心の汚い人はたくさんいる。汚さは、目に見える部分だけではない。
こんな世の中になって、際立ってきたと思う。人間の汚さや醜さが。ニュースでも、理不尽に怒鳴る人。それが、たくさん見られるようになった。
無力だ。僕は無力だ。街は綺麗になっても、誰かの心は、綺麗に出来ないのだから。ハート清掃員なんて、誰もなれないんだ。
綺麗なことを言っても、心は晴れなかった。晴れずに、ぼてぼてに腫れていた。