第九話
「伊藤ちゃん、ちょっといい?」
「渡辺先輩」
卒業式の前日、渡辺先輩に呼ばれた。
「ごめんね。高木じゃなくて。でも卒業する前にちゃんと聞きたくて。伊藤ちゃんって、高木のこと、どう思っているの?」
渡辺先輩は強がっているように感じるけど、少し緊張しているようにもみえた。
「私、高木先輩のこと、良い先輩だと思っています。以前も言ったと思いますが」
私は当然のことのように言ったが、渡辺先輩は納得いかない顔をしていた。
「でも、高木は伊藤ちゃんのこと、気に入っていると思うんだけど」
いや、それは高木先輩に聞いてみないとわからないのでは……という言葉を飲み込んで、渡辺先輩の言葉を待つ。
「私、正直に言うと、高木のこと気に入っているんだよね」
渡辺先輩は私のことを恋敵的な目で見ていることは理解しているつもりだが、私はそんな立場でもないことも知っている。
「渡辺先輩、私、高木先輩のこと、尊敬する先輩で、恋愛で好きとか思っていません。これは本当の気持ちです。もし先輩型が卒業してしまったら、きっともう会うこともないと思います」
渡辺先輩の目を見て、はっきり断言した。渡辺先輩は少しだけたじろいでいたが、わかってくれたようだった。
「そっか。そうなんだ。恋愛で好きとか思っていないんだ。ちょっと高木がかわいそうだけど。なんだかいじわるなことばかり言っちゃって、ごめん」
「いえ、大丈夫ですよ。私、ちょっと変なので」
私にきつくあたっていた渡辺先輩が、こんなにも素直に謝れることに好感度があがった。
「渡辺先輩は、高木先輩のこと好きなんですね」
「え、うん、最初は、何こいつって思っていたんだけど、後輩思いのところがあったり、動物に優しかったり。なんだかあいつ見てるとからかいたくなるっていうか。ほっとけないっていうか。昔から何考えているのかわからなくて。気付いたら……」
渡辺先輩がうつむきながら顔を赤らめる。恋をするということはこういうことなんだろうな。ゆりの恋愛とはまた違うまっすぐで不器用な恋。
「気付いたら……か。私も、そんなふうに誰かを好きになれるのかな」
私はぼそっと呟いた。
「伊藤ちゃんって誰かを好きって気持ちにちょっと疎いのね。そっか。それがいつなのかわからないけど、きっとくると思う。私に言われてもって思うかもしれないけど。ねえ、もしよかったら私達、友達にならない?連絡先交換しよ?」
「渡辺先輩、私、結構面倒な性格だと自分でも思うんですけれど、いいんですか?」
私のストレートな物言いにもむっとすることなく返事をくれる渡辺先輩もちょっと変わっているなと思った。だけど、そんな渡辺先輩のことも、嫌いになれない自分もいた。
「そういうところが、なんだか気になるのよ!私も、高木も……ね」
「そんなもんですか」
こうして、私は渡辺先輩とあっけなく友達になった。






