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第六話

「伊藤ちゃん」


 休み時間に私の机の前に現れたのはゆりだった。いつもはおろしている長い髪を後ろにたばねていた。パッと見ちょっと痩せたような気がするし、なんだか元気がなかった。


「久しぶり。ゆり、ちょっと痩せた?元気だよ」


「伊藤ちゃん、ちょっと時間ある?」


 私の顔をみて、泣くのをこらえているような顔をしていた。前にもみたことがある。告白をして断られたあとに、傷ついた顔をしながら愚痴をいっている時の顔だ。


「ゆり、いいよ。屋上、行こう」


 ゆりのあとをついて、屋上まできたところで、ゆりがふりかえった。よくみると目が腫れている。


「なにかあったの?」


 さり気なく私が聞くと、ゆりはの無理に明るくしている声が返ってきた。


「えへへ。汐とケンカしちゃった」


 汐というのは、汐野のことだ。ここ最近二人でいるところを見かけていなかったけど、そういうことか。


「とはいっても、私が一方的に怒っちゃっただけなんだけどさ、ごめんねって言えば汐は許してくれるだろうし、それで終わりなんだけど、なんだか謝りづらくってさ」


 ゆりは、空を見上げながら、再び涙がでそうになるのをこらえているのか、空に向かって話す。反省はしているようだった。自分に否があることをちゃんと理解しているゆりはえらいなと私はゆりの横顔を見ながら思った。


「そっか」


「ねえ、伊藤ちゃんはさ、大和と汐と中学校から一緒だったじゃん、二人って昔から仲良かったの?」


「大和?なんで今、大和のことがでてくるの?」


「ケンカの原因、大和だから」


「あー」


 なんとなく察してしまった私の態度をゆりは見逃さなかった。でも、なんて言えばいいのか。この場で正直に私の意見を言ったとしても、それは大和の印象がマイナスにしかならない。


「伊藤ちゃん?」


 人気のない階段に座り込む私とゆりは、おたがいため息をついた。


「これはさ、私の考えだから、全部を真に受けちゃだめだよ。私はこう思っているけど、他の人から見たら違う考えかもしれないから。汐野と大和は幼なじみみたいな感じなのかと思うよ。家も近いみたいだし。でも私と接点とかないから、あまりわからないんだけど、ゆりのこと、汐野が紹介してほしいって言って、仲良くなってきたあたりから、大和のあたりがつよくなってたっていうか、ちょっと嫌がらせっぽいことあったから、大和は嫉妬しているんじゃないかなって思ってた」


「嫌がらせって、いつ?私、知らなかった」


 ゆりは静かに私の話を聞いていた。その優しさにちょっとだけ救われた気がする。


「まぁ、あんま気にしていなかったからさ。でも面倒なやつだなって思った。でも、ゆりにはなんにもしなさそうだったから、大丈夫かなって思っていたんだけど」


 私は、ゆりのちょっと目があかくはれてしまった顔をみて、彼女を泣かせるやつはだめじゃないかと汐野に一言いってやろうと思った。


「汐と大和って、お互いちょうどいい距離を保ってたんだなって、今なら思うんだけど……」


 ゆりの言葉が途中できれてしまって、続きがきになった。


「けど?」


「汐って、見た目よりちゃんと考えているっていうか、優しいの。だから大和がきついことをいっても聞き流していたし、私もそういうところが好きっていうか……やさしいなって思ったの」



「うん」


「けどさ、大和が私のことは無視して汐と話すようになって、なにそれって感じじゃん。私の話……というか、声が聞こえてない感じなの。一緒にいてもそこにいないみたいな。汐は気づいていないみたいで。だから、私がちょっとイラッとして、私より大和の方が好きなんじゃないのとか、大和と汐が付き合えばいいじゃん、みたいな感じで言っちゃったんだ」


「うん」


「そしたら、汐が、めずらしく怒って、少し距離おこうって言ってきて。これは終わったと思ったの。あーあ、また私の独占欲が強いところがでちゃったなって。独占したいって思うのってそんなにだめなことなのかなぁ。でも大和の態度にもイラッときてさ。しょうがないな私」



「そんなことないと思う。ゆりは成長したと思うよ。私の偏見かもしれないけど、きっと大和は子供の頃のままなんだと思う。」


 私が言えることなんてそれくらいしかない。たぶん、大和は汐野をひとりじめしたいそれが、友達なのか、恋愛なのか、私にはわからない。でも、ゆりのことが好きと言っていた汐野の言葉は嘘ではないと思いたい。


「大和の気持ちはわからないけどさ、汐野はゆりと近づきたいと思って私に言ってきたわけだし、汐野のこと、信じてみたら?仲直りできそう?」


「伊藤ちゃんって……大人だよね」


「なにいってんの、そんなことないよ。子供だよ」


「いや、絶対伊藤ちゃんは未来からきた大人だって」


「なにそれ」


 ふたりで顔をあわせて笑いあった。この感覚、久しぶりで少し嬉しかった。ゆりの友達はたくさんいるけど、私に話しかけてくれる友人はゆりだけ。でも、私は大和のように強い独占欲があるわけではない。ゆりが汐野と楽しそうにしているのはいいことだと思っていたし、どちらかといえば、恋愛ってどんなふうにすればいいのかと、考えさせられることの方が大きかった。ゆりのように、泣いたり笑ったり、怒ったり、のろけたり、コロコロ変わるゆりの表情や心情を私は間近で見てるのに、はるか遠くに感じていた。


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