第五話
私と先輩はファミレスにいた。
「伊藤、何でもいいから飯も食え。今日はおれがおごるから」
高木先輩が注文のメニューを見ながら私にご飯をおごってくれるという。
「ありがとうございます。でも自分の分は払います。どれにしようかな」
とりあえずドリンクバーとご飯を注文した。
「先輩、ドリンク何にしますか?とってきますよ」
「じゃあ、ブラックコーヒーを頼む」
「ブラックコーヒーですね。わかりました」
お互いタブレットでご飯とドリンクバーを注文をした後、私はドリンクバーのところでブラックコーヒーを2つ作ってテーブルにおいた。
「どうぞ」
「おう」
スティックシュガーとミルクも持ってきたが、先輩はそのまま飲んでいた。少し大人の香りがした。私も一口飲んだが、苦くてすぐにステックシュガーとミルクを入れた。
コーヒーを飲みながら、私は自分で思っていた以上にダメージを受けていたことに驚いた。そして、そのダメージを和らげてくれていたのが、高木先輩だと気づいた。依存とまではいかないにしても、自分の中で高木先輩の存在が大きくなっていたんだと、今回のことで気づいた。
「先輩、気にかけてくださりありがとうございます。なんだか先輩には格好悪いところばかり見せてしまっていてすみません。渡辺先輩のことも、私のことが邪魔だと思ったら、気にせず無視とかしていいですから」
高木先輩は大きなため息をつきながら、ブラックコーヒーを飲む。
「前にも言ったと思うが、渡辺は俺をからかっているだけだ。俺は学校が好きじゃないけど、お前と話をしたりするのは嫌いじゃない。だから、お前にいなくなられたら、俺、学校に行く意味がなくなるんだけど」
「え?どういう意味ですか?」
私は高木先輩の言葉の意味がわからず、聞き返してしまった。
「だから、困るんだよ。お前と話すのが好きだから」
最後のあたりの声が小さくなって聞き取りづらかったが、先輩が困るというところに反応してしまった。
「困る?なぜですか?」
「お前さぁ、にぶすぎないか?まぁ、そんなところが気に入っているんだけどさ」
先輩はため息をつきながらちょっと笑っていた。私も残りのコーヒーを飲んだ。慣れない味だけど、先輩と飲むコーヒーはなんだか大人の味がした。
「ありがとうございます。先輩にはいつも助けてもらってばかりで。先輩みたいな人、今までに出会ったことがなかったので憧れます。私も先輩みたいに、誰かを助けられるような人になりたいです。今の私では難しいですが」
私は素直にお礼を言った。これだけは本当に感謝しかない。先輩はこんな私でも否定したりしない唯一の人だ。先輩に好きな人ができたら、心から応援したいと思う。そんな存在だ。
「伊藤、お前」
「あと、渡辺先輩のこと、言うつもりじゃなかったんですけれど、すみません」
「あ?渡辺のこと?別にそれはいい、今は伊藤、お前のことだ。俺の言った言葉、ちゃんとわかってないだろ」
「え、後輩として好きってことですよね。私も高木先輩のこと、先輩として尊敬しています」
「あー、先輩として……か」
高木先輩がため息をついていた。自分は嘘偽りない言葉で言ったつもりだったが、先輩にとっては大勢いる後輩のうちの一人であって、選んだ言葉が重すぎたのかもしれないし、呆れられたかもしれない。
「まぁ、いいか。そういえば、あいつのことはどうするんだ?あの自転車置き場と下駄箱にいたやつ」
「あいつって大和のことですか。どうしようもないと思います」
「何かあったら、呼べよ。っていってもお前は呼ばないだろうけど」
「そうですね。でも、高木先輩が私に勇気をくれたので大丈夫です」
本当に、大丈夫だと思う。私は過去の自分とさよならできるような気がした。
「そういえば高木先輩、渡辺先輩とはどういう関係なんですか?渡辺先輩は高木先輩のこと、好きっぽいきがするんですけどね…高木先輩はどう思っているんですか?」
「だから、お前は……」
高木先輩の顔がどんどん怖くなっていく感じがした。あれ?私、なにかまずいことでも言ったかな?