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第三十五話

 それってさ……結局、都合のいい女ポジションじゃん。なんでそういう男が好きなのよ。

 友人から言われた厳しい言葉。分かっている。私は「いい女」なのではなくて、「相手にとって都合のいい女」なんだってことくらい。それでも、この不器用な先輩のことが好きなのだ。伊藤さんも知らない私だけの先輩が目の前にいる。それだけで十分なのだ。私はいつから先輩のことを好きになったのだろうか。


 ついに告白してしまった。

「じゃあ、付き合いませんか?わたしたち」

 私は冗談ですよ、と返すことなく、先輩の目をみつめた。私の気持ちなんて、これっぽっちも気づいていないだろう先輩の固まった顔。先輩が伊藤さんの話をするときの先輩面をしている話し方、落ち込んでいるときの肩の落ち方、ぼんやりしているときはきっと伊藤さんのことを考えているんだろうなと推察してしまう。伊藤さんは先輩のことを先輩として尊敬しているというふうなのだから不思議だ。好意をよせられたら、少しはあてられそうなものを、この何年間、そんなことを思うことなく接していた伊藤さんと先輩は本当に馬鹿なのかとおもってしまう。


 さっさと告白して付き合うなら付き合うし、ふられるなら思いっきりふられればいいのに、と安易に考えていた。このままでいい、このままがいい、そんなふうに見える先輩の態度に少し苛立ちを感じていたのも事実だ。私もそんなに器用な女じゃない。先輩は優しいところがあったり、ちょっと強面だが面倒見がいいところがある。先輩のいいところもわるいところも、きっと私のほうが伊藤さんより知っている。私が先輩を好きでも、先輩と伊藤さんが相互に好きなら諦めるしかない。だけど、伊藤さんが別の人を好きになったら、先輩はどうするのだろうか。そんな先輩と私はこの先、どんな関係を築くことができるのだろうか。


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