第三話
それから私は進級し高校二年になった。時々授業をサボっては三年生になった高木先輩と屋上で話をしていた。大和とはクラスが別になり、見ることも少なくなった。ゆりともクラスは別々になったが、私と汐野が同じクラスなこともあり、時々だけどゆりが私と汐野に話しかけに休み時間やってくる。
だが、それは一学期のはじめくらいで、休み時間は汐野がゆりのクラスの教室に行ったり、二人の時間が必要なのか、私と話すこともなくなった。ただ、ゆりと目があったときは、手をふるくらいはしてくれるので、気づいたときにふりかえしている。大和も時々、汐野のところにやってきて話をしていたが、ゆりとどこかへ行ってしまうので、大和も教室をのぞいて汐野がいなけば自分のクラスに帰っているようだった。私も大和も話すことも、目を合わすこともなかった。私も高木先輩のいる非常階段に行っていたからだ。
「伊藤さ、最近知らない先輩と話しているけど……知り合いなの?」
朝から汐野が話しかけてきた。知らない先輩というのは、高木先輩のことだろう。
「え、高木先輩のことかな。うん、知り合いだよ」
「そうか。ゆりがさ、ちょっと伊藤のこと心配していたから」
汐野は彼女をゆりと呼んでいた。彼氏と彼女の関係だから名前で呼ぶのは当たり前か。なんとなくゆりとも遠くなってしまったような気がする。
「わかった、ゆりにLINEしてみる。あと高木先輩は大丈夫だよ。見かけによらずいい先輩だから」
「そうなんだ」
「うん」
「という感じで、汐野とは友達関係が続いているし、大和とはほぼ話さないから、私はそこまでストレスを感じていません」
「お前、それって大丈夫なのか?」
「大丈夫って、なぜですか?」
「あー、でもゆりにはなんとなく話しづらいかもなぁ」
さすがに、大和の好きな人が汐野だということはゆりにはいいづらかった。確証があるわけでもないので、むやみに自分の意見や思い込みを話すことはよくない。
「ここにいた!いつもどこにいっているのかと思って、尾行しちゃったわ」
いつもの屋上で先輩と話をしていたら、少し笑いながら女の人の声が階段の方からした。
「渡辺」
誰だろうと思っていたが、高木先輩はどうやら知っているようだった。小さく彼女の名前を呟いた。
「はじめまして、高木のクラスメイトの渡辺です。噂の後輩ちゃん」
高木先輩のクラスメイト。見た目も声もきれいな女の人だった。
「ふーん、こんなかわいいこをひとりじめするなんて、あんたらしいわ」
「いや、別にひとりじめしてねーし」
「そうなの?」
渡辺先輩は私の方を見ることなく、高木先輩とずっと話していた。だからといって、私は先輩たちに嫌悪感もわかず、高木先輩と対等に話せるクラスメイトがいるんだな、と少しの安心感と少しの寂しさがあった。
「すみません、次の授業があるのでそろそろ失礼します」
「ああ、またな」
私は高木先輩の声を背にして立ち去った。渡辺先輩の大きな声も聞こえてきたが、聞こえないふりをした。
「ふふっ、高木はあういうタイプが好みなんだ」
「うるせぇ、そんなんじゃねえよ」
高木先輩はため息をつきながら渡辺先輩と言い合いをいるようだったが、高木先輩も渡辺先輩の勢いには押され気味だった。楽しかった場所がまた一つなくなってしまうような気がしたが、それも気づかないふりをした。