第二十九話
「終点、秋田、秋田、お忘れ物がありませんようご注意ください」
車内アナウンスが何度か耳に届き、窓をみると、そこは雪国だった。視界は真っ白な世界。見慣れた景色だ。
「ようやくついたか……」
俺は大きなあくびをしようとして、ふと隣に彼女がいることを思い出した。伊藤さんは眠れなかったのか、興奮しているのか、カメラも自分の目も車窓にむけたままいた。
「すごい……雪ですね……」
「さて、荷物をおろして行こうか」
「はい、よろしくおねがいします」
「今更、何かしこまってんの?」
「いえ、連れてきてくださって、私、地元をでることがあまりなかったので、ほんとに嬉しくて、なんか感動してます。変なこと言ってすみません」
「いいや、変なこと言ってないし、すみませんじゃなくて?」
「ありがとうございます」
「よし、じゃあ行こうか」
「はい」
列車を降りると、世界は真っ白だった。前が見えないくらい吹雪いており、足元も手元も強めの風雪があたり、冷たかった。薄目でホームを前かがみに歩いた。
「大丈夫?足元気をつけて歩いてね」
「はい!」
吹雪いている中、声をかけたが、とりあえず駅の改札をとおり、ホテルへ向かうことにした。しんしんとふる雪はゆっくりと全身に寒さがくるが、風と雪が体にあたる吹雪は痛いし寒い。雪に慣れている人ならば滑らぬように歩けるが、慣れていない人は何度も転ぶ。転倒して怪我をするかもしれないから、彼女にも気をつけるように伝えたが、
「わっ!……と、あぶない……わっ!」
数分おきに転びそうになっていてヒヤヒヤする。スパイク付きの靴でも買おうかと思うくらい、彼女の足元はおぼつかない。
「ゆっくり歩けばいいから。ごめん、ちょっと歩くの早すぎた?」
「いいえ、すみません。こんなに凍った道路をあるいたことがなかったので……ってわっ!」
自分の歩くペースが早かったようだ。急がせてしまっていることに気づくまで時間がかかった。
「大丈夫?ほら」
俺は彼女の手をとって、ゆっくりめに歩き始めた。
「すみません……じゃない、ありがとうございます」